M.M Lilas -リラ-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 6 82 12〜13 2019/12/26
作品ページ サークルページ(作品ページと同じ)



<ギャルゲーのテイストを味わいながら、自分の大学生活を思い出してプレイしてみて下さい。>

 この「Lilas -リラ-」は同人サークルである「Lilas.works」で制作されたビジュアルノベルです。Lilas.worksさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。Lilas.worksさんを知った切っ掛けはC96で同人ゲームの島サークルを回った事でした。いわゆるギャルゲーのテイストを感じるパッケージと、その裏に書かれている「青春を、取り戻すーー」のキャッチフレーズにどこか懐かしさを感じました。正統派のボーイミーツガールが読めそうだと思い、自分の大学生時代を思い出しながらプレイしてみようと思い今回のレビューに至っております。

 主人公である片桐白亜は、この春から新しく大学生になります。故郷である北国から上京し、心機一転全く新しい土地での生活を始める事になります。新しくなる生活環境に新しい人との出会い、それはかつてとある出来事が原因で送れなかった青春を取り戻す切っ掛けになる物でした。白亜が出会うのは4人の女の子です。それは同級生であったり先輩であったり、はたまた飛び級で進学した天才少女だったりと様々です。気の合う友人も出来、彼女達と関わっていく中で白亜は青春や恋というものを知っていきます。果たして白亜は青春を取り戻す事が出来るのでしょうか、そもそも青春とは何なのでしょうか。人生において誰もが立ち止まり悩むであろう事を謳った物語が幕を開けます。

 公式Twitterでも話してましたが、この作品はいわゆるギャルゲーの形態を取っております。新しく大学に進学した主人公が様々な女の子と出会い、そこから選択肢を選んでいく中で個別ルートに入っていきます。ある意味ビジュアルノベルに慣れたプレイヤーであれば懐かしさすら覚えるかも知れません。王道中の王道を行くスタイルに、安心してプレイする事が出来ます。また登場する女の子は容姿や性格も様々であり、きっと皆さんの趣味に合うピッタリのキャラクターが見つかると思います。最も、内面で何を考えているかは分かりませんけどね。共通ルートから個別ルートに入ってから真実が分かるというのもまた、ギャルゲーらしさだと思っております。是非全てのルートを読んで全てのエンディングにたどり着いて頂きたいです。

 システム面で幾つか注意があります。バックログや既読スキップなどの基本的な機能は備わっているのですが、その既読スキップがどうもうまく機能してくれないみたいです。まだ読んでいないテキストも既読スキップ出来たり、逆に何度読んでも既読スキップにならなかったりします。この作品は選択肢の数が非常に多いのです、既読スキップを活用しながら全てのテキストを読むには注意が必要です。選択肢を選ぶ前に一度既読スキップを解除して読み進めるくらいの慎重さが求められます。またテキストの誤字も他の作品と比較して少なからずあります。基本的に読めますので気にはなりませんが、一部演出なのか唯のミスなのか分からないレベルのものもありましてので、是非完全版やパッチなどの対応があると良いと思いました。

 プレイ時間は私で約12時間30分程度掛かりました。各ヒロインで約2時間で計8時間程度、それ以外にバッドエンドや他のルートをプレイしてのトータル時間です。ヒロインの数だけシナリオがありますので必然的に長めのプレイ時間になりますね。これもまたギャルゲーらしさだと思いました。ただこの作品が一般的なギャルゲーと違う点は、個別ルートに入っても他のヒロインとの関係性がある程度残るという事です。単純に言えば、個別ルートに入って他のキャラクターが居なくなるという事がありません。この辺りはリアル感を演出していると思いました。そんな感じで、ギャルゲーのテイストを味わいながら自分の大学生活を思い出してプレイしてみて下さい。何かしら、心に残るものがあると思います。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<完璧な人間などいません。だからこそ、お互い様で気持ちを確認し合うしかないのでしょうね。>


 要所要所のテキストで結構心を揺さぶられました。人との距離感の取り方、自分らしさの発露、そして人に恋し愛するという事、それを素直にテーマにしたシナリオが待っていたのですから。この作品はギャルゲーではありますが、ご都合主義などではなくしっかりと人生のステップを踏んで前に進む事を要求してくる内容だったと思っております。

 この作品は、主人公もそうですが全てのヒロインが何かしら人生において後悔と苦しみを抱えておりました。大切な人を失いその姿を追いかける事に縛られたいつき、家に縛られて自分らしく生きる事が出来ないと思っていた七瀬、両親を失い人に甘える事も甘えられる事も出来ずそれを渇望するアメリア、大切な家族を失い人との距離感が分からなくなってしまった琴音、そんな自分自身にコンプレックスを抱えたヒロイン達との恋愛が、すんなり進むはずがありませんね。ですけど、多かれ少なかれこういう経験は誰もが持っている物だと思います。完璧な人間はいませんし完全な善人もいません。それを人は個性と呼ぶのだと思います。

 大切なのは、そんな個性を悪い物と捉えない事なのかなと思いました。これは本人だけの戒めではなく、パートナーになる相手も同様です。自分がこういう損な性格だという事を全否定してしまえば、そこに自分らしさを失ってしまいます。また、パートナーも相手にその性格を変えようと矯正するようなそぶりを見せれば、同じくそこで相手らしさを失ってしまう事になります。酸いも甘いも、その全てがその人らしさなのですからそこに良い悪いなど本当は無いのかも知れません。あるのはきっと相性ですね。合わなければ、残念ながらそれまでなのだろうと思います。そして、多少相性が違っていたとしてもそれでもこの人と一緒に居たいという気持ちが愛なのかも知れません。

 作中でよく見かけた言葉に「恋人は、お互いの気持ちがあってのものだから」というものがあった気がします。まさにこの通りで、一人だけの考えで恋人になる事は出来ません。私もお互い様という考えはとても好きです。完璧な人間はいないというのは、勿論自分が完璧にならなければいけないという事ではありませんし相手に完璧を求めるものでもないという事と同じ意味です。お互い好きなところも嫌いなところもあるから、それがお互い様なんだと思います。大切なのは、そのお互い様を理解してなおその人の傍にいたいのかという事だと思いました。形式など関係ありません。今の自分の気持ちに素直になって、相手の気持ちを自分なりに考えて、それで行動を起こしてみる。そしてそれをお互い様で行う。これが出来たら最高だと思いますね。

 4人のルートを終えて最後に解放されたLILACルートは、もう二度と会う事が出来ないと思っていた初雪香恋との青春を取り戻す物語でした。香恋の一方通行な願望と白亜の相手の気持ちを考えきれなかった後悔が宙ぶらになっていましたが、それが5年の時間を経て再び動き出すのです。それでも、お互いやはり素直に離れませんでしたね。自分はもう死んでいるのだから元カレと元カノでなければいけないと思っていた香恋、香恋はもう死んでいるのだからどこかでけじめを付けて諦めなければいけないと思っていた白亜、ですけどこれは本心ではありませんでした。だからこそ、香恋が消える最後の夜にテレビ塔で「私は……君が好き」「死にたくなかった」と本音を相手に言えた事がとても尊いと思いました。この言葉は間違いなく白亜を縛る言葉、それでも白亜はきっと笑ってくれる、そんな信頼関係が出来たから言えたのだと思います。長い年月を掛けて、最後にお互いの本音を聴けて幸せだと思いました。

 全体を通して、白亜と4人のヒロイン、そして智明と香恋の全員が本当にいい人で安心しました。お互いコンプレックスや後悔を抱えつつも互いの事を理解しようとしており、それがハッピーエンドに繋がったのだと思います。少なくとも、白亜と香恋がお互いの気持ちを確認し合えたのはいつき、七瀬、アメリア、琴音、智明がいたからです。これだけで、十分に青春を取り戻してますね!「#Lilas」というコミュニティから始まった物語は、最後ライラックの花畑にたどり着く事が出来ました。相手の気持ちを理解しお互い様で作ってきた関係は、きっと一生のものになると思います。天国に一足先に行った香恋と会える日まで、幸せに生きてほしいと思いました。ありがとうございました。


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