M.M リズベルルの魔1+2




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 - 87 7〜8 2016/2/17
作品ページ サークルページ

体験版
フリーゲーム夢現



<綿密に作られたファンタジーな世界を一緒に歩き、彼らのなすべき事を一緒に見届けて欲しいですね。>

 この「リズベルルの魔1+2」は同人サークルである「ときてっと」で制作されたビジュアルノベルです。ときてっとさんと初めて出会ったのはCOMITIA115で島サークルを回っている時でして、とにかく美しいパッケージに惹かれて手に取ってました。その後にときてっとさんがCOMITIAのサークル部活動であるノベルゲーム部に参加される事が分かり、これは早めにプレイしなければと思いレビューに至っております。インストールしゲームを起動した瞬間から見せ付けてくれる美しい絵と美しいBGMに一瞬で惹かれてしまい、一気に最後までプレイしてしまいました。

 今回レビューしている「リズベルルの魔1+2」はご想像の通り「リズベルルの魔」という作品の第一篇と第二篇を収録したものです。元々リズベルルの魔とはときてっとさんがお送りしている「ほんとうの物語シリーズ」の中のタイトルでして、現実ではないどこかの世界の物語をグラフィック&ムービーで彩るファンタジーノベルをコンセプトにしております。そのコンセプトの通り非常に美しいグラフィックと3DCGを駆使したヌルヌル動くムービーが非常に印象的で、時間をかけて作られている事が分かります。正直、言葉でどれだけ「美しい」とか「動く」とか言っても全然伝わりません。是非公式HPのサンプルをご覧になり、そのままDL版を購入してプレイして欲しいですね。

 それでもどうグラフィックが美しいのか、どうムービーが動くのかを出来るだけ具体的に書いてみようと思います。まずはグラフィックですが、とにかくファンタジーな世界を彩る町並みや登場人物の姿がとても鮮やかです。メインヒロインであるリズベルルは10歳くらいにも見える少女なのですが、その目は青く光りブロンドの髪は腰まで長く艶やかです。加えて表情差分や衣装差分がとても多く、特に衣装差分は1日経過するごとに毎回別の服を着ていて10着以上あるんじゃないかと思いました。勿論リズベルルだけではなくその他の登場人物も同様に差分が多く、ファンタジーな世界に相応しい艶やかな髪の色をしております。

 そしてムービーですが、これはもうリズベルルの魔の最大の魅力と言っても良いかも知れません。この作品には「弦奏鎧」と呼ばれる人が操るロボットが存在し、人類に害を与える存在を倒すために使用されます。その種類は大変多く、人間の背丈からやや大きい物もあれば10m以上もする巨人と呼ぶにふさわしいものもあります。そしてこれら弦奏鎧が呼び出される時に毎回ムービーが流れるのです。その姿はとにかく荘厳。絶対的な力の持ち主として呼び出した人を守る鎧となり戦ってくれます。これも勿論バリエーションが多く、このムービーだけでどれだけの容量を使っているか気になります。特に主人公であるジンが乗るヴィルフォーナは最大級の弦奏鎧であり、これが登場するだけでどんな難題も解決するのではないかという安心感があります。

 そしてシナリオも比較的ボリュームがあります。今回はまだ第一篇と第二篇であり起承転結の起にあたるという事で世界観の説明や魔の説明で留まっているのですが、この世界観が非常に複雑であり初めて触れる人には中々馴染まず一文一文しっかりと読み解きたくなると思います。気になる人はメモを取りながらプレイするのも良いと思いますが、シナリオそのものが長いですので読み進めていくうちになんとなく「こういう事だったんだな」って分かるかも知れません。魔、弦奏鎧、黒水、エンダージェン、印・・・私もそれぞれ正確に意味を言えと言われるとちょっとどもってしまいますが、プレイ終了後にはこれら作品のキーワードが自然と体に馴染んでいると思っております。

 プレイ時間は私で7時間30分程度掛かりました。第一篇と第二篇それぞれ三章構成となっており、各章約1時間〜1時間30分のボリュームとなっております。とにかく世界観に拘っておりますので一気に読み進めるとお腹いっぱいになってしまうと思います。そうなると消化不良になってしまいますので是非章が終わるごとに長めの休憩を入れて頭の中を整理してから続きを始めるのが良いと思います。何よりもグラフィックの美しさとムービーの動きは一級品ですからね。文字を追うだけではなく背景やキャラクター描写などもいつも以上にゆっくりと味わいながらプレイするのも良いかも知れません。綿密に作られたファンタジーな世界を一緒に歩き、彼らのなすべき事を一緒に見届けて欲しいですね。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<命を懸ける事と命を投げ出す事は違う、その事にみんながたどり着くまでの物語でした。>

 最後までプレイして、全てのキャラクターに焦点があたり全てのキャラクターが成長していく過程が凄いと思いました。第一篇の最初の方と第二篇の最後の方では、全員同一人物とは思えない程成長しております。その切っ掛けを作ったのは間違いなくジンの存在です。この作品は、ジンを中心に全ての登場人物が自分を見直し素直になって大切な人の為に生き残る事を決意する物語なんだなと思いました。

 改めて振り返りますと、メインの登場人物は誰一人として悪人はいませんでした。その代わり不器用な人間ばかりで何か問題が起きても全部自分で抱え込もうとする人ばかりでした。それは大切な人に迷惑をかけたくないという気持ちの表れであり、相手もそれが分かるからこそ何も言えずお互いの距離が縮まりませんでした。ですがそれは本当の意味でみんなが幸せにはならないという事、そして相手に対する信頼が足りていない証拠でもありました。自分の弱い部分をさらけ出して幻滅されるのが怖かったのです。

 この作品を通して印象に残っている言葉に「命を懸ける事と命を投げ出す事は違う」というセリフがあります。これこそが上で書いた相手との信頼関係の強さを表しており、本当の意味でみんなが幸せになるために自分ひとりが犠牲になればいいなんて間違っていると主張しております。ノルアードに迷惑をかけたくないから一人屋敷に篭って黒水を対処しようとしたリズベルル、剣主としての責任ばかりを気にして自分一人で水門の儀式を終えようとしたノルアードやネムリー、ヴィルフォーナと自分の力を過信して1人で黒水の中に突っ込んだジン、このどれもが命を投げ出す行為であり、生き残った人たちの事を考えない行動でした。確かに立派かも知れません。自分の役割や立場を理解し考え抜いた行動かも知れません。ですがそれで悲しむ人がいたら意味がないのです。ならばどうすればいいか、その答えが大切な人の為に生き残る事なのだと思います。

 この世界は常に黒水の侵食による危険が隣り合わせです。その為もしかしたら雰囲気的に命の価値が低く捉えられてしまうのかも知れません。トルフ隊のメンバーの行動を見ていれば一目瞭然ですね。剣主の為に全てを捧げる。その為の鍛錬であれば喜んで受ける。この身に変えても剣主の力になる。ジンが出会ったばかりのユフィーユの姿がまさにそうでした。ギラギラした余裕のない目。力のないものを軽蔑しただ自分を痛めつけるだけの日々でした。それがボルダナー座のショーを見に行く時はどうでしょうか!随分砕けたと思いませんでしたか。これもジンが関わったおかげですね。ノルアードの水門の儀式を支えただけではなく、ジンはその後ちゃんと帰ってきたのです。これが本当の強さであり、これを得るには相手の事を信頼し相手が本当の求めている事を理解する事が大切でした。

 物語開始から終了まで地味に時間も経過しており色々な伏線も飛び交って忘れがちですが、登場人物たちの信念は一貫しておりました。ただ大切な人の為になりたい、それだけでした。そして物語終了までに変わった事は、その大切な人の為になるという事はどういう事かを全員がしっかりと考え実践した事でした。私はそんな彼らの姿を見れただけで満足です。最後好きな人の事を聞かれて顔を赤くするリズベルルやノルアード、兄弟らしく軽口を交わし合うボルダナとネムリー、物語開始には考えられなかった姿でした。そしてジンの過去と決別しこの世界を守ろうとする意思、それがこの先どのような形で世界へ影響を与えてくるのか。それをしっかりと見届けたいと思います。続きを楽しみにしましょう。ありがとうございました。


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