M.M ラストリゾートをもう一度
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 5 | - | 63 | 2〜3 | 2020/6/15 |
作品ページ | サークルページ |
<ファンタジー世界の中で、自分の目的に突き進む主人公の生き方を感じてみて下さい。>
この「ラストリゾートをもう一度」という作品は、同人サークルである「CIRCLE四季凪」で制作されたビジュアルノベルです。CIRCLE四季凪さんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けはC97にて同人ゲームの島サークルを回っていた時でした。非常にシンプルな設営でした。その中で登場人物達がもの鬱気な表情で立っている様子と、何か天に祈りを捧げるようなキービジュアルが印象に残りました。これ以上の情報はありません。タイトルに書かれているラストリゾートとは何なのか、決して底抜けに明るい作風ではない事は間違いありません。少ない情報量だからこそ想像力が掻き立てられる。どのようなシナリオが待っているのか楽しみでした。
主人公である真は、ヒロインであるセリアと共に旅をしていました。旅の目的地は決まって戦争を行っているところ、目的は天使と悪魔に会う為でした。世界は平和で、人々は幸せに生きておりました。ですが、ある日突然天使と悪魔が現れてからその幸せは無くなりました。天使と悪魔は、人間に憑依して代理戦争を起こしました。世界中が天使派と悪魔派に分かれて、どこでも戦争を行っておりました。真の両親もまた、天使と悪魔になってしまいました。唯一人の姉は、そんな両親の姿を見て壊れて行方をくらませてしまいました。真が旅をする目的、それは両親と姉を見つける事でした。そしてそんな旅の中で出会ったのが、ヒロインであるセリアです。彼女は記憶を失っておりました。生い立ちも何も分からない彼女でしたが、真は同時に彼女も守りたいと思うようになりました。そんな途方もない世界観と彼らの立場から、物語は始まります。
この作品はファンタジーです。現代と文明としては同じですが天使と悪魔はその独自の能力を用いて戦争を行います。天使も悪魔も人間より圧倒的に強く、もはや世界は天使と悪魔が滅びるしか道はないと思わせる程です。主人公である真もヒロインのセリアもただの人間です。何とか天使と悪魔から逃れたいと思いつつも、両親と姉を探す為に天使と悪魔に近づかなければいけないのです。そんな相反する気持ちを抱えたままの旅は非常に不安定であり、何度も死の淵へと立たされることになります。それでも両親と姉を見つけたい、そしてセリアを守りたい、その想いはとても強いものであり、自分の信念に従って前に進む主人公の姿を見る事が出来ます。人間もただ天使と悪魔の戦いを甘んじてみているだけではなく、人類派という組織を作り戦っております。そんな様々な立場の人達のぶつかり合いもまた魅力となっております。主人公真の生き様と合わせて、他の登場人物達の人間模様も楽しんでみて下さい。
システム周りは少し使い難かったです。この作品はティラノビルダーで作られているのですが、無料版の為かセーブフォルダは5つしかありません。またスキップは既読と未読で区別をつける事が出来るようになっているのですが、実際のところ未読でもスキップしてしまいます。そのスキップも立ち絵の変化などの場面はスキップされませんのでそこまで速いという印象はありません。この辺りはティラノビルダーのデフォルトという感じですね。背景はどこかの写真を加工したものに思えました。日本的な場所が多く、ファンタジーさはあまり感じませんでした。戦闘の場面はテキストでの描写がメインで、演出はそこまで激しくはありませんでした。その辺りのビジュアルノベルらしさはまだまだこれからという感じですので、その辺は皆さんの想像力をプラスして読んでみて下さい。
プレイ時間は私で2時間15分でした。この作品は選択肢か沢山あり、エンディングも幾つかに分かれます。ですが上でも書きました通りセーブフォルダの数が非常に少ないので、選択肢をセーブして途中から始める事は難しいです。ある程度進めたらそこを起点にして、全ての選択肢を検証してみるのが良いと思います。エンディングはいわゆるハッピーエンドとバッドエンドという分かりやすい形ではなく、物語の進行によって立場が変わった真の予定された結末という印象でした。そのどれもがトゥルーエンドであり、一通り見てみるのが良いと思います。またこの作品は途中でCHAPTERが表示されますので、そのタイミングで休憩を取るのも良いかも知れません。プレイ時間に対して場面転換が多いので、思ったよりもプレイ時間が長く感じると思います。是非自分のペースでまずは1つのエンディングを目指してみて下さい。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<全ての登場人物に立場があり願いがある、あとは出会うタイミングだけだったのかも知れません。>
最後までプレイして、本当立場は違えどセリアを守りたいという気持ちは変わらない姿が良かったと思いました。それでも自分の選択やタイミングによってその想いが報われるのかどうかは変わりました。結果として自分の願いが叶わなかったとしても、ずっとセリアの事を思い続ける事が出来たのが真なのかなと思いました。
この作品は本当に登場人物の立場や状況が様々ですので、ちょっとした選択肢でも自分の立ち位置が変わってしまいます。例えば早々に茜が天使と分かったり、逆に後半まで分からなかったり。全能神派に匿われたかと思えば、人類派と共闘したり。他にも悪魔になったりならなかったりと色々でした。最終的には天使と悪魔を一掃し全人類の願いが叶う楽園を実現したい神とその神を憑依させたセリアに帰結しますが、そこにたどり着くまでに真の立場は変化しているという訳です。セリアを守りたいという願いは変わらないのに、ここまで立場が変わってしまうんだなと全部プレイし終わって感慨深く思ってしまいました。
そしてセリアにも大きな想いがありました。それは天使と悪魔という存在を無くする事でした。実際その想いの大きさは非常に大きく、自分自身に天使と悪魔を内包しつつもその両方の力を扱えるほどでした。真が悪魔になりセリアの元にたどり着くルートで台風の目になったセリアですが、その姿は痛々しいほどでした。結果としてセリアは願いを叶えますが、そのまま死んでしまう事になりました。またセリアが神を自身に取り込み神セリアとして天使と悪魔を滅ぼすルートでは、神との目的の差異に対して明確に自分の目的を訴え人類を守ろうとしました。最終的には真の選択で未来は決まりますが、ある意味好きな人に選択させる事が出来ましたので本望だったのではないでしょうか。そんなヒロインの想いの強さも見る事が出来ました。
その他の登場人物も自分の立場を大事にして行動しておりました。天使として生きる茜と悪魔として生きる大西、そして本当は真の姉でありながらもその存在を隠して真の為に生きた彩音、いわゆる悪人という存在は誰もおらず立場の違いが対立の原因になっているだけでした。よく聞く言葉たと思いますが、戦争を起こしているのは悪人ではなく正義というものがあります。自分が信じている物が絶対に正しいと思っているからこそ、それと対立する存在を無くそうとする訳です。まさにこの作品の争いはお互いの正義がぶつかったものでした。彼らもまた、どうして立場が違ってしまったのでしょうね。皆が唯の人間だったら、きっと仲良くなれたのではないかと思ってしまいます。そんなぶつかり合いもまた、この作品の魅力だと思いました。
ネタバレ無しでも書きましたが、本当にシステム周りがちょっと使い難かったのが勿体ないと思いました。いまいち不便さが拭えませんでしたので、是非リメイクして頂き新しい形でプレイしてみたいと思いました。あと個人的にですが、神セリアはエモかったですね。あの大人しくオドオドしていたセリアが、あの全ての見下したような表情で圧倒的な力を振るっているんですもの。強いこだわりを感じました。他にも天使と悪魔の衣装ですとか、立ち絵で違いが良く分かりましたのでそれももっとアピールして良かったのではないかと思いました。何れにしても、どこか急ごしらえな感じがしましたので是非じっくりと取り組んで頂きまとめて頂ければと思いました。ありがとうございました。