M.M 狂愛イノセンス




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 77 3〜4 2022/4/26
作品ページ(なし) サークルページ DL版

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<サークルさんが描きたかった狂愛、皆さんにはどのように映るのでしょうか。>

 この「狂愛イノセンス」は、同人ゲームサークルである「筍lavoratore」で制作されたビジュアルノベルです。筍lavoratoreさんの作品をプレイするのも、今作で4つ目になります。これまでプレイした作品は全て「また逢う日を楽しみに」という作品のシリーズです。人間と妖怪が共存する世界が舞台で、様々な派閥と想いが交錯するスケールの大きい作品となっております。筍lavoratoreさんの魅力は人物設定の細かさにあると思っております。背景や環境が異なれば勿論考えや信念が異なる訳ですが、これのぶつかり合いを人物ごとに丁寧に描き分けておりやり取りに説得力を持たせております。加えてその人物もかなりの量で、よくもまあ整理出来ているなと感心しております。そんな筍lavoratoreさんの新シリーズという事で、特に人物描写に注目しようと思いプレイし始めました。

 主人公であるいおなは、田舎でパチンコしたり近所の子供と戯れたりするような自由で気ままな生活を送っておりました。そんないおなに、10年前に生き別れた妹達が訪ねてきました。10年振りの再会、ですがそれは決して感動的なものではなくむしろいおなの辛い過去を思い出させるものでした。いおなの長兄である陸、彼が父親を刺した事が妹との再会の切っ掛けだったのです。最も、陸が父親を刺したという事実がいおなを落胆させた訳ではありません。いおな・妹達・陸には、一言では言い表せない複雑な事情と想いが交錯していたのです。10年の時を経て思い出していた妹達や陸への想い、この作品で描かれている愛は果たして狂っているのでしょうか。自分も彼らになり切ったつもりで読んでみて下さい。

 狂愛ですので、恐らくは普通の愛ではないシナリオが待っていると想像できます。ただ、個人的にそもそも愛に普通も特別も無いんじゃないかとは思っております。愛と聞いて、恋愛を想像する人は多いと思います。ですが、愛には自己愛や家族愛など様々な形があります。そして、そのどれもが正しいとか間違っているといった尺度で図ることは出来ません。狂っている愛があるとすれば、それは自分自身が自分が抱いている愛を否定する時かも知れません。または狂気と捉えれば、愛の重さが特別なのかも知れません。少なくとも、この作品で描かれている愛はサークルさんてとしては狂っているのだと思います。後は、プレイヤーの皆さんの尺度と比べてみて下さい。きっと人それぞれの感想があると思います。そしてイノセンスですので、狂った愛がどこまで自由に振る舞えるのかも見届けたいと思います。愛は基本的に人との関わりで生まれますので、どこまでも自由とは行かない筈ですからね。

 この作品の魅力は、冒頭でも書きましたが人物描写にあります。ネタバレになりますので多くは書けませんが、まさにサークルさんが描きたかった狂愛を確かなテキストで表現しております。この作品は演出という面ではそこまで拘った物はありませんので、純粋にテキストの力で人物を表現しております。シナリオが進んでいく中で主人公いおなや妹達・陸の過去などが明らかにされていき、新しい事実を知る度にきっと彼女たちへ感じる印象も変わってくると思います。私も最後までプレイして、物語途中では理解出来なかった発言や行動にある程度の理解を得ることが出来ました。このバックグラウンドなら、確かにこの狂愛は理解出来るなと思ってしまったのです。テキストそのものも読みやすいですので、程よいテンポで読み進める事が出来ると思います。

 プレイ時間は私で3時間30分くらいでした。この作品には3つのエンディングがあり、選択肢を選ぶ事で簡単にたどり着く事が出来ます。筍lavoratoreさんのテキストの特徴として、どこか完全にシリアスや真面目になり切れない茶化しが入る点もあると思います。この辺りはやや人を選ぶかもしれませんが、少なくともずっと重苦しい雰囲気ではありませんので読んでいて疲れる事は無いと思います。むしろ、サークルさんがずっとシリアスや真面目な展開になる事を避けているのかも知れませんね。同人ビジュアルノベルとしては平均よりも少し長いボリュームですので、じっくりと構えて読んでみて下さい。面白かったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<幸せになろうという気持ちがあったからこそ、慎ましくも大切な人と触れ合う事が出来たのだと思います。>

 いやー中々に強烈な経験でしたね。ネグレクトを受けただけならまだしも父親の手引きで14歳という若さで血の繋がりが無いとはいえ実兄とセックスさせられましたからね。表向き気にしてない素振りをしてもどうしても心身に影響が出るのは仕方がないと思います。だからこそ、陸が好きで自分を守りたいという気持ちに素直に納得出来ました。

 この作品を語る上で、性行為を外すことは出来ません。強烈なネグレクトは人格形成や人との距離に大きな影響を与えますが、これに性行為が加わる事で恋愛観にも影響を与えてしまいました。陸の事が好きないおなは、陸を求めるためにいおなさんといおなちゃんという2つの人格を同居させる事になりました。青江小路を離れて赤城沢になっても陸が自分の中で中心であり、結局のところ陸の為に生きている人生でした。まあ、それは伊奈波大地も祖父も理解してましたけどね。いおなの二重人格を理解したうえで、そして自分が陸の弟である事を分かった上で付き合う大地も、中々の狂愛だと思いました。本当、いおなは土壇場で色々な方に救われましたね。不自由ない生活が出来て、陸を想う時間がありますからね。エンディングによって様々な形のエピローグが用意されておりますが、そのどれもがいおなにとって良いものであった事が救いでした。

 むしろ、この作品の主人公は表向きいおなですが実態は陸でした。物語も、陸がどのような選択をして未来を掴み取っていくかという内容でした。勿論、相手の気持ちがありますので陸が選択した通りに人生が進む訳ではありません。いおながどのような気持ちで10年間生きてきたのが、そしてこの10年で伊奈波大地という存在がどれだけ大事だったのかを思い知らされました。いおなと結ばれる事無く、娘のみかるとだけ時々会えるだけのエンディングもありました(BadEnd)。幸運にも、いおなと一緒になれてそして家族水入らずで過ごすことが出来るエンディングもありました(NormalEnd)。全ての事実を理解したうえで、なおもいおなと一緒に歩いていくエンディングもありました(TrueEnd)。そのどれもが陸がいおなと向き合った結果であり、後悔はあるのかも知れませんが何か自分で掴むものが得られたのかなと思っております。

 欲を言えば、あやなとみかるの1人称視点が欲しかったですね。この作品の主人公は間違いなくいおなと陸であり、最も壮絶な経験を味わいました。だからこそ、そんな壮絶な経験をさせまいと必死に守ってきたあやなとみかるがどう思っているかを知りたいと思いました。得てして、子供は親が思った通りに育つ事はありません。むしろ、親の想像以上に子供は色々な事を考えており一生懸命世の中に向き合っております。物語上では、本当いい子に育ってました。目に入れても痛くないとはこの事ですね。ただ、この聞き分けの良さは抑圧された過去の体験から必然的に身につけた術かも知れないと思うと少し複雑です。理性的なあやなと純粋なみかる、彼女たち2人がこの作品の癒しであったのは物語の中だけではなくプレイヤーの皆さんも同様だったのではないでしょうか。そういう意味では、この位の立ち位置で良かったのかも知れませんね。

 実際のところ、陸がいおなに抱いていた愛情は何だったのでしょうか。いおなでしか勃起しないというのは、恋慕を持っているという事の証明でしょうか。個人的に思うのですが、勃起するのは相手に欲情する以上に安心感があるからだと思っております。信頼しているから自分の全てを投げ出される、そこの担保が無いと無防備に勃起できるとは思えないのです。だからこそ、陸がいおなにしか勃起しないという事は恋慕以上に家族愛の様な物を持っていたのではないでしょうか。陸の家族愛は、みかるへの接し方とみかるの行動からも明らかです。元々人に対する愛情を持っていた陸、これからは過去の辛い体験以上の幸せな日々を送れることを祈るばかりです。ありがとうございました。


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