M.M 黒い魔女
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 6 | - | 67 | 1〜2 | 2020/12/20 |
作品ページ(無し) | サークルページ |
<黒い魔女をどのように実験・研究するかは全てあなた次第、是非自分なりに染め上げてみましょう。>
この「黒い魔女」という作品は同人サークルである「Max Neet Games」で制作されたビジュアルノベルです。Max Neet Gamesさんの作品をプレイしたのは今作が初めてで、触れた切っ掛けはデジゲー博2020で島サークルを回っていた時でした。デジゲー博は文字通りデジタルゲームオンリーの即売会です。主に動的ゲームを出すサークルさんが多いですが、ビジュアルノベルを頒布するサークルさんも勿論一定数参加されております。デジゲー博2020では10近くのビジュアルノベルを頒布するサークルさんがおり、今回レビューしている「黒い魔女」も手に取らせて頂きました。パッケージを見て、正直一目惚れしてしまいました。どす黒い色でドーンと描かれている黒い魔女というタイトルネーム、そしてその後ろにはあどけない表情で見つめてくるロリ少女が立っているのです。本当にこれだけで非常にシンプル、内容も全然分からない分かえって興味をそそられました。どんなシナリオが待っているのか、このロリ少女はどんな魔女なのか、それを確かめるべくプレイし始めました。
主人公であるハヤマは、新しい執行官として特殊警察に入りました。特殊警察とは囚人と呼ばれる特殊な能力を持った人間に対して実験・研究を行う組織であり、そこで実際に活動している人間が執行官です。ここでは、全ての囚人や執行官はナンバーで呼ばれ、厳格に管理されております。主人公ハヤマは執行官2833として新任配属され、彼の担当は囚人185と呼ばれている少女=柏木由奈でした。囚人185は人殺しです。まだ12歳のあどけない少女ですが、やり方不明の方法でこれまで何人もの人間を殺しております。そして、本人に殺人の自覚はありません。それでも自分がいる事で周りに悪い影響を与える事は自覚している様です。そんな非常に危険な存在である囚人185は黒い魔女と呼ばれ、これまで数多くの執行官が彼女の担当となりましたがその何人かも死んでおります。今回ハヤマが彼女の担当になったのには理由がありました。それは、ハヤマの両親がこの囚人185によって殺されたからです。果たして囚人185の能力はどんなものなのか、そしてハヤマは彼女をどうするつもりなのか。実験の日々が幕を開けます。
この作品では、プレイヤーであるあなたが主人公ハヤマとなって囚人185に対して様々な実験を選択していきます。スケジュールは1週間で1ループとなっており、火曜日に実験内容を決定し金曜日に実際に実験を行います。他の曜日は、先輩であるムニやそのムニが担当している囚人099などと話をする事が出来ます。実験の種類は様々ありますので、ムニや囚人099と会話する事でより効果的な実験方法が分かるかも知れません。また、実験の結果を受けて囚人185のパラメータが変化していきます。パラメータは理解度・信頼度・精神力・従順度の4つに分類されており、特に理解度と信頼度は主人公ハヤマが得られる情報量に大きく関わっていきます。囚人185をどんなふうに研究するかはあなた次第、是非様々な実験を施して囚人185を知っていきましょう。途中強制イベントでシナリオが進む場面もあり、時間と情報と共に囚人185に対する印象も変わってくる事と思います。エンディングを迎えて自分自身がどのような印象を持つのか楽しみにしててください。
システム周りですが、Unityを使用しているという事で少しビジュアルノベルとは相性が良くないみたいです。バックログはありませんし既読未読含めてスキップもありません。また私の場合ですが30分程度でフリーズしてしまいましたのでその度にロードし直してました。幸いクイックセーブがありましたので小まめにセーブしなくても途中からやり直す事に不便さはありませんでしたが、そもそもフリーズしないで欲しいですね。BGMはそこまで多くありませんが、実験や行動の選択画面・囚人185と対峙する場面・ムニや囚人099と対峙する場面で区別されております。作風的にどこか重めと言いますか暗い感じのものが多い、雰囲気に合ってますね。そして立ち絵ですが、とにかく囚人185のロリっぷりとそれ以外の大人っぷりのギャップが激しくある意味リアルを感じました。より囚人185の黒い魔女っぷりが際立ってました。
プレイ時間は私で1時間45分程度掛かりました。エンディングまでは1時間程度でしたが、その後実験を全て確認したりそれによって解禁される情報を網羅したりしてました。この作品、様々な選択が出来ますがエンディングは1つですのでコンプリート要素はそれ程大きい訳ではありません。シナリオを確認するだけなら一周すれば良いだけですし、その後全ての要素を見たければそれに特化したプレイをすれば良いのです。そう意味で、時間のないプレイヤーに対して非常に優しいと思いました。そして最後になりますが、この作品はフルボイスです。短いながらも個々の要素に拘りを感じました。現在BOOTHで購入する事が出来ますので、興味を持ったら是非プレイしてみて下さい。まずはパッケージを見て欲しいですね、絶対に気になってしまうと思いますので。黒い魔女との時間を堪能させて頂きました。楽しかったです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<黒い魔女なんて居なかったんですね。いたのは、唯人と話をしたい年頃の女の子でした。>
いやー最後の最後に凄いものをぶっこんで来ましたね。何といいますが、全部持っていかれたって感じでした。そして、全てを知って改めて始めからプレイしたら全然印象が変わりますね。こういう作品は、2度プレイするのが本当面白いです。
まずもって、主人公ハヤマが殺人鬼という事に驚きました。しかも割と理不尽な理由で父親と母親を殺してましたからね。そんな存在だからといって、柏木由奈の執行官に任命するというのも凄いですね。むしろ、怖い思いをしていたのは柏木由奈の方だったのでしょうね。何しろ、目の前に殺人鬼がいてその殺人鬼から命を脅かす実験をされるのですから。途中ムニがナイフで刺されてしまいますが、これもハヤマが手を下したという事ですね。途中から柏木由奈の能力に気付いていたムニは、心のどこかでハヤマに殺される事を覚悟していたのかも知れません。ハヤマに刺されて、囚人298となってもその矜持だけは持ち合わせておりました。ですがそれも、柏木由奈の自殺によって全て終わりました。ハヤマは只の殺人鬼として逮捕される事でしょうし、現実改変を行う黒い魔女はもういないのです。
ですが、そんな一連の出来事なんて総裁にとってはよくある日常だったのでしょうね。最後エンディングが終わってタイトル画面に戻り、後日談で何が語られるかと思えばまさかの総裁の登場でした。そして、淡々と柏木由奈の能力が解説され主人公ハヤマの過去も暴かれました。もう完全に手のひらで踊らされていた気分でした。始めは驚きが大半でしたが、その後2周3周してみて何となく虚しさ的なものも感じるようになりましたね。結局は本人達の運命は決まっていたんですもの。全ては総裁と執行官1111の知るところでした。後は総裁の情報を見ようとした時の演出は良かったですね。思わず「おお!!」って叫んでしまいましたもの。ああいったメタ的な要素も総裁のカリスマ性と言いますか圧倒的感を演出させるものだったと思っております。最後の最後まで楽しめました。
そして全てを分かった上での2周目ですが、主人公ハヤマのヤバさが際立ちますね。柏木由奈から「人を殺す事はどう思いますか?」って訊かれて「ダメに決まってるだろう」ですからね。その人殺しを行っているのにです。現実改変の恐ろしさがより際立ちました。自分は何をしなくても勝手に自分が殺人鬼にされてしまい本人は自分の行動すら歪めてしまう、これは本人にとっても周りの人にとっても恐ろしい能力だと思いました。現実が改変されてしまうが故に調査のしようがない、もしかしたら真実にたどり着けた人がいたのかも知れませんけどその事実すらも改変されてしまう、これでは永遠に柏木由奈は黒い魔女であり続けるしかありません。その事にいよいよ気付いたからこそ、こんな人生続ける意味がないと悟り自殺したのだと思っております。本当は人と話したかっただけなのに、自分の能力でそれが出来ない。唯々絶望だと思いました。
プレイを進めていく中で柏木由奈に対する接し方のヒントが明らかになっていきました。その中で、体罰や検体採取などに意味は無いと書かれておりました。これは、実際に科学的知見が得られないという意味以上に柏木由奈を苦しめないで欲しいという願いが込められていたように思えてなりません。何よりも、柏木由奈に対して負担になるアクションは大した情報を得られないだけではなく各パラメータの上昇値が少ないです。柏木由奈の事を考えるなら、栄養剤をずっと与えるのが一番良いのは当たり前ですね。ですが、どれだけ献身的に接してもエンディングは変わりません。現実改変の能力が消える訳でも、主人公ハヤマが両親を殺し柏木由奈に罪を被せた事実が消える訳でもありません。始めから結末が決まってる、そして総裁の手のひらで踊らされている、その事実に少ししんみりしてしまいました。黒い魔女なんていなかったんですね。いたのは、ただ人と話をしたかった年頃の女の子でした。ありがとうございました。