M.M クリスマストリックスター




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 7 7 71 2〜3 2016/7/9
作品ページ(R-18注意) サークルページ
(作品ページと同じ)




<ドタバタラブコメらしい軽快なテキストと、主人公の行動力に注目して欲しいですね>

 この「クリスマストリックスター」という作品は同人サークルである「シガレットソフト」で制作されたビジュアルノベルです。シガレットソフトさんの作品をプレイしたのはこれが初めてでして、C89で同人ゲームサークルの島を回っているときに手に取らせて頂きました。貧乳でロリっぽい女の子と巨乳でお姉さんっぽい女の子のダブルヒロインの構図は昨今の同人ラブコメでよく見られ、可愛い絵柄も合わせてとても期待度が高まりました。加えてクリスマスらしい色使いのパッケージとセンスのあるタイトルロゴも印象的で、季節は真逆ですが気になりプレイしてみました。

 サンタ=マリア王国という本物のサンタクロースが暮らす国が存在し、全世界のクリスマスを成功させる為に日々仕事をしている世界。それでも世の中の人はそんな国がある事など知らず当たり前の日常を送っております。主人公である鈴城勇助もまた、そんなサンタクロースの存在に気づかず毎日ヤンチャな事をしながら生活しておりました。そんな主人公の元に突然現れたベル=スミスという名のサンタクロース。その手には何故か拳銃が握られておりました。どうやら勇助が日々行っていたヤンチャが知らず知らずの内にベルに迷惑をかけていたもよう。幼馴染の鐘恵珠姫も巻き込んで、サンタクロースとの命を掛けた同棲生活が幕を開けます。

 上でも書きましたが、この作品は2人の女の子と基本イチャイチャするドタバタラブコメです。突然やってきた可愛いサンタクロースであるベルは主人公である勇助の命を狙っているのですが、とても素直な性格で勇助の時より見せる好意にタジタジになってしまいます。また幼馴染である珠姫は逆に勇助の事を全て理解しており、その上で自慢のおっぱいを使って日々誘惑してきます。可愛さとエロスとコメディが絶妙なバランスで融合されており、頭を使わず楽しむ事が出来ます。勇助は誰と添い遂げるのか、サンタクロースの仕事とは何か、深く考えずに日々の楽しい生活を味わって頂ければと思います。

 最大の魅力は主人公である勇助の性格にあると思っております。こういったドタバタラブコメでの主人公の立ち位置は基本的にいじられキャラであり、アホな性格である事が多いです。今作の主人公である勇助も例外ではないのですが、基本的なスペックと言いますか能力が高いので見ていてスカッとします。例えば悪いことをした子供を見れば即座に叱ったり、誰かを笑わせる為に精一杯考えてそれを行動に移したり、唯の猪突猛進ではない知的な一面を多く見せてくれます。それでもヒロインの2人があまりにも高スペックですのでその影に隠れがちですが、ああこの性格と行動力だったらヒロインが惚れるのも納得だなと思わせてくれます。他のドタバタラブコメとは一線を画する特徴ですので、是非主人公の行動に注目して欲しいですね。

 またBGMや背景などは同人ビジュアルノベルではよく聞いたみたりする汎用なものなのですが、クリスマスらしいアクセントが加わっております。特に物語後半、いよいよクリスマスイヴがやってきた時に流れる楽曲はベルの音を主軸としたものが多く流れ雰囲気を作ってくれます。背景にも雪を降らせたりとオリジナリティが加わっており、手をかけて作っている事が分かります。またボーカル曲はスピード感のあるEDMであり、ドタバタラブコメを象徴したものとなっております。それでもサビで転調し純愛さをイメージさせる旋律となりずっと聞いていていたくなる曲です。是非こういったシナリオ以外の部分にも注目して欲しいですね。

 プレイ時間ですが私で2時間40分程度かかりました。共通部分で1時間程度、個別ルートで40分程度といったところですね。シナリオらしいシナリオは実際そこまでなく、まるで四コマ漫画の様に短い日常のエピソードを繋げたような風景が展開されていきます。そういう意味で割とマウスをクリックする手は軽く一気に読む事が出来ました。ラブコメらしいテンポの良いテキストもまたこの作品の特徴です。シリアスだったり泣きだったりといった重みのあるシナリオではありませんので、是非休日のちょっとした息抜きのつもりでプレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<サンタはこの世で誰よりも幸福を届けられる仕事>

 最後まで楽しく読む事が出来ました。ネタバレ無しでも書きましたが、本当主人公の男気と言いますか世の人の為が楽しめる事をしたいという気持ちが輝いている作品だと思いました。「サンタはこの世で誰よりも幸福を届けられる仕事」とベルも言っておりましたが、まさに勇助の為にあるような仕事だったのではないでしょうか。

 勇助が過去にどのような不良だったかは殆ど語られてはおりませんでした。それでも街のチンピラが名前を聞いただけで震え上がるような様子から相当の悪事を働いてきたのでしょう。そんな勇助にとって何が切っ掛けで今のような人が楽しめる事を純粋に行える性格になったのでしょうか。恐らくは幼馴染である鐘恵珠姫の支えがあったからだと思っております。珠姫もまたサンタ=マリア王国の出身者であり、サンタクロースとしての才能を持っておりました。それでも日本に留まり勇助の傍にいたのは、単に好きだったからという理由だけでは説明がつきません。きっと珠姫は過去に荒れていた勇助が、本当の意味で前に進んでいける事を確認するまで待っていたのだと思います。ベルの登場が切っ掛けで大きく状況は変わりましたが、珠姫にとって心の持ち様はそんなに変わらなかったのかも知れません。

 作中で「諦める事と大人になる事は違う」とベルが言っておりました。ここで言う諦めるとは勇助と一緒に生活する事であり、大人になるとは勇助から自立して生きていく事です。ですが、勇助の過去の事実を知ったとき、この諦める事と大人になるという事にはもう一つの意味が込められているように思えてなりませんでした。つまり諦めるとは勇助を支える一番の存在でなくなるという事、そして大人になるとは勇助自身が大人になるという事なのではないかと。この作品は表向きはドタバタラブコメですが、裏を見れば勇助の成長物語でありベルと珠姫はその切っ掛けに過ぎなかったのではないかと思っております。ベルルートでも珠姫ルートでも、一つ大人になった勇助のこれからの活躍を期待したいですね。

 そしてベルと珠姫の性格の良さも個人的に注目でした。結果として勇助はどちらか一人を選ばなければいけませんでしたが、選ばれなかった方がそのままいなくなるのかと思いましたがそうではありませんでした。ベルルートでは珠姫は家政婦として再び戻ってきましたし、珠姫ルートではベルは2人の未来の為に自分のサンタ人生を掛けてまで守ろうとしました。2人とも勇助の事が大好きであり、そしてお互いの事が大好きなのですね。ベルが色々と反発していたのも全て照れ隠し。珠姫がワザと下ネタを言っていたのも全て照れ隠し。最後にはみんなを認めており自分らしい決意を決めてくれました。この当たりのテキストも素敵でした。

 この作品が唯のドタバタラブコメではないと思ったのはこうしたキャラクター描写の丁寧さがあったからなのかも知れません。主人公がモテる理由、ヒロインがヒロイン足る理由、それがテキストによってしっかりと説得力を持って示されておりました。とても読後感の良いシナリオでした。この作品こそ私たちプレイヤーにプレゼントされたサンタクロースそのもの。この作品を通じて少しでも楽しめればそれが幸せのカタチなのだと思いました。ありがとうございました。


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