M.M くものいと
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 6 | - | 69 | 〜1 | 2025/1/3 |
作品ページ(なし) | サークルページ |
<まるでくものいとを辿るような、不気味な雰囲気とシナリオを楽しんで下さい。>
この「くものいと」という作品は、同人サークルである「カヅラキ」で制作されたビジュアルノベルです。本作はカヅラキさんの処女作であり、C105で頒布されました。C105ではいつもの様に同人ゲームの島サークルを巡り、見落としが無い限り完成作品であれは基本的に全て手に取らせて頂きました。特別事前調査は行っておらず、現場で直接サークルさんの頒布物を確認するのがいつものスタイルですが、その時に手に取らせて頂いたのが今回レビューしている「くものいと」です。情報としては、くものいとというタイトルと意味ありげなポーズをとっている女性がジャケットに描かれているのみ。どのようなシナリオなのか一切分からない様子が逆に好奇心をそそられて、今回プレイするに至りました。
主人公はとある大学生です。曲芸サークルに参加しているのですが、人間関係に馴染めず長期間サークル活動に加わっておりませんでした。時は流れ新入生の歓迎会が行われる事になり、このタイミングで復帰しないともう二度と復帰できないと思った主人公は一大決心し歓迎会に参加します。ですが、当然歓迎会の主役は新入生。誰からも相手にされず、また会話の中に入れない主人公は自暴自棄になり飲みすぎてしまいます。ですが、そんな主人公に一人の女性が声を掛けてくれました。名前は薬袋と書いてミナイ。イルカのイヤリングが印象的な、気立ての良い女性でした。結局その日はこれ以上特に進展は無かったのですが、趣味で行っているインターネット・サーフィンの中で偶然薬袋と思われるアカウントを発見します。ここから、どこか不気味で不思議な物語が幕を開けるのです。
この作品は「オカルト趣味的インターネットノベル」となっております。作中では、主人公は現実世界とSNSの世界を行き来し歓迎会で出会った薬袋の正体に迫っていきます。オカルト趣味と銘打っている事もあり、どこかホラーじみた演出が展開され主人公が何に振り回されているのか分からなくなってしまいます。見つけたSNS上では同じ投稿を何度もリツイートしていたりやたらと解像度の低い画像が添付されていたりと、リアルであれば関わってはいけないタイプのアカウントです。それでも限られた情報と同期である後藤の力を借りて、少しずつ薬袋の正体へと迫っていくのです。まるで、くものいとを手繰り寄せるかのような心細さです。気が付けばプレイヤーである皆さんも必死に限られた情報を手繰り寄せて物語を読み進めていっている事と思います。
その他の特徴として、BGM・背景・立ち絵などの素材は全てオリジナルとなっております。不気味な世界観を演出するため、素材はやはり自作する事でその効果を100%発揮されるんだなと思いました。個人的には、BGMがより効果的だったと感じております。単純に怖かったですし、先が見れない不気味さも相まって引き込まれましたね。一点個人的に残念だったのは、ウィンドウモードでの画面が小さすぎた事です。私はメモを取りながらプレイする為基本的にフルスクリーンモードは使用せずウィンドウモードで行いますので気になりました。単純にテキストを読むだけなら不自由しないんですけど。この作品の醍醐味であるSNSの文字が全然見えなかったんですよね。もし次回作を出される時は参考にしていただければ幸いです。
プレイ時間は私で40分でした。選択肢は無く、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。上でも書きましたが、不思議な雰囲気に飲まれて気が付いたら最後にたどり着いている事になると思います。何が真実で何が謎なのか様々な要素が入り組んでおりますので、少しずつテキストを読み進めて一つ一つ事実関係を明らかにして進める事をお勧めします。くものいとは、丈夫ではありますが切れてしまったら辿る事は出来ないですからね。同人ビジュアルノベルだからこそ楽しめるシナリオと雰囲気でした。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<異世界はあった方が良い、その位の心持ちで人生楽しんでいきたいです。>
最後まで読んで、狐に摘ままれた様な感覚で幕を下ろしましたね。結局のところ、後藤は何者なのでしょうか。それもまた、オカルトという事なのでしょうね。
プレイ途中、皆さんはこの作品が科学的な物なのかそれともオカルト的な物なのかどちらだと思ったでしょうか?私は少なからず科学的なものだと思っておりました。つまり、超常現象は無く何かしらのトリックがある筈だと信じていました。実際のところ、SNSやBBSの仕掛けは全て薬袋の策略でありまんまとそれに何人かの人間が引っかかった訳です。つまり、科学的な事が答えでした。ですが、たとえ真実が科学的だったとしても自分の周りの人全員がオカルトだと言ったらそれはきっとオカルトになってしまうんだろうと思います。そして、それを薬袋は望んでいました。
薬袋が何故オカルトを求めていたのかは正直言及していませんでしたが、何となくその気持ちは分かる気がします。世の中には、不思議があった方が面白いですからね。全ての現象が科学的に解明されてしまったら、もう未来の事を全て計算出来てしまいます。理学を志している人は、この宇宙の仕組みを解明するのが目的です。その根底として、神という者は存在しないと信じております。分からない物を分からないままにしておけないという事ですね。ですけど、古来人間は自分の認知を超えた現象は神が起こした事として捉えました。それで十分世の中が回ったからです。そして、未だに解明されてない現象をオカルトと呼ぶに至りました。
この作品でも度々「異世界は、あった方が良い」というセリフが流れました。ここで言っている異世界とは、オカルトを含めた理解できない事柄の総称だと思っております。どれだけSNSやBBSを隈なく探しても、画像のメタデータを探っても、関係者の証言を繋ぎ合わせても、結局薬袋の正体に迫る事は出来ませんでした。勿論それは薬袋が仕組んだ事ですので始めから答えにたどり着けない仕様だった訳ですが、それでもきっと参加者もプレイヤーであるあなたもドキドキしながら読み進める事が出来たのではないでしょうか。作中でも「怪談には、受け手、観客が必要」と言ってました。ここで言っている受け手は主人公を始めとした薬袋の謎に迫る登場人物達、観客はプレイヤーである私たちですね。
最後に残された後藤の存在については、これは解釈次第でどちらでも問題ないと思います。単純に薬袋が後藤の事を知らないだけでガチで後藤が独自の調査で薬袋の存在に迫ったのか、後藤の存在が唯一の怪談要素なのか、という事ですね。個人的には、異世界はあった方が良いと思い怪談を仕掛けた薬袋に対抗して、科学的な要素を全力で使用し薬袋の正体に迫るという構図が何となくしっくりきますね。でも、きっとこの答え合わせはする必要ないです。何故なら、答え合わせをしてしまったら異世界は無くなってしまうのですから。いつまでも遊び心を持っていたいと思わせる作品でした。ありがとうございました。