M.M 最終試験くじら〜progressive〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 6 8 A - 2006/5/17
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<先行版のあるべき姿>

 circusの作品である「最終試験くじら」の先行版が、この「最終試験くじら〜progressive〜」です。そもそも私がこの作品に出会ったきっかけは、コミックマーケット66に行った時にふとcircusブースに立ち寄ったことでした。既にcircusから「最終試験くじら」という新作が出るという情報はあったのですが、この先行版に関してはあまり気にも止めていませんでした。しかし、値段も1500円と手軽であったし、折角circusブースに立ち寄ったという事で買うことにしました。結果から言いますと、まさに「先行版という物の鏡」を見た気がしました。

 内容は、「最終試験くじら」の舞台になる「安武市」で起きた、本編より数年前の話でした。登場人物も主人公一人にヒロイン一人、そしてサブキャラクター一人と非常にシンプルな構成です。シナリオも大きな山もなければ笑いもない、非常にゆったりとした時間が流れます。プレイ時間も約2時間と短めで、最終試験くじらの世界観を感じる為だけに作られています。しかし、このゲームに私が酷く感動を覚えたのはこのゲームの演出でした。

 シナリオも終盤に差し掛かって、このまま終わるのかと思っていました。しかし最後の最後で、このシナリオはプレイヤーに大きな謎を残していきました。このままシナリオが終わればそれで十分綺麗なシナリオだったのですが、あえて蛇足とも思える謎を置き去りにしていったのです。そして、シナリオが終わってから流れる「最終試験くじら」のオープニングムービー、この演出は完全に私を「最終試験くじら」の世界に引きずり込んでしまいました。

 ここで、先行版という物の役割を自分なりに考えてみました。第一に必要なことは、本作の雰囲気や内容を伝える事です。プレイヤーが少しでも本作の設定を気に入ってくれるようにすることは、やはり先行版の力が大きいと思います。第二に必要なことは、過度の情報を伝えない事です。先行版だからといって本作の内容を多くネタバレすれば、いざ本作をやった時に得られる驚きや感動が薄れると思います。そして、第三に必要なことはプレイヤーを本作がやりたいと思わせることです。これは様々なやり方があるかと思いますが、この「最終試験くじら〜progressive〜」ではシナリオを完結させておきながら、最後に大きな謎を残しています。そして、その後に既に完成している「最終試験くじら」のオープニングムービーを流しています。この演出によって、プレイヤーは「この謎の正体を知りたい」と思うであろうし、さらにオープニングムービーを流すことによって「続きをやりたい」と思わせることが出来ます。これらの要素から考えて、この「最終試験くじら〜progressive〜」というものはまさに先行版として申し分ない出来であると思います。

 ただ一つ残念なことは、この「最終試験くじら〜progressive〜」を手に入れる為には、現在発売されている「最終試験くじら〜Departures〜」を購入するしかないという事です。この「最終試験くじら〜Departures〜」は「最終試験くじら」のファンディスクであり、この中の一つに「最終試験くじら〜progressive〜」があります。確かに大したボリュームでもありませんし、商業化してもあまり利益の上げられる物でもありませんが、本来先行版としての役割を持っている「最終試験くじら〜progressive〜」をプレイするために、本作「最終試験くじら」より一年後に発売されているファンディスクを購入しなければいけないという事はやはりどこか不条理な感じがします。それでも出来ることなら、この「最終試験くじら〜Departures〜」を「最終試験くじら」より先に買って、その中の「最終試験くじら〜progressive〜」をやってから本編「最終試験くじら」をやって、それから改めて「最終試験くじら〜Departures〜」をやってもらいたいですね。


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