M.M この道をともに




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 - 84 11〜13 2020/7/5
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<リアルな高校生活を感じさせるテキストの中で、掛け替えのない3年間を過ごしてみて下さい。>

 この「この道をともに」という作品は、同人サークルである「ハットボン」で制作されたビジュアルノベルです。ハットボンさんを知ったのは、去る2020年6月13日におすすめ同人紹介さんで行われた同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2019(以下どげざ2019)を拝聴した事でした。どげざ2019では数々の部門を用意しそこに該当する作品をおすすめ同人紹介のみなみ氏がノミネートしております。その中で部門賞を決定し、今回レビュ−しているこの道をともには助演女優部門と熱部門で受賞しました。この道をともにはC96にて頒布しており、現在ダウンロード販売などは行っておりません。ですがどげざ2019終了後に期間限定でBOOTHにて頒布されました。この機会は逃がせまいと思い手に入れる事が出来ました。基本的に即売会で頒布されるビジュアルノベルはチェックしている筈でしたが漏れていたようです。自分に合ってそうと思いましたので、どんなシナリオなのか楽しみにプレイし始めました。

 舞台は魔法の存在する現代の日本です。魔法が存在すると言っても、いわゆるファンタジー世界に代表される剣と魔法で戦ったり国同士の争いがある訳ではありません。あくまで一般的な現代社会に申し訳程度の魔法が存在しているのです。主人公であるナカミチは日本国立魔術研究特殊高等学校に通う1年生です。全ての生徒は魔術に対する向上と研究が推奨されております。この高校には普通科と機械科の2学科があるのですが、機械科の人は魔法との相性があまり良くなく高校の中では少数派です。主人公ナカミチもまたそんな機械科に所属しており、クラスメイトと面白おかしく日常を過ごしております。ともすれば何でもなく終わっていた筈の高校生活ですが、クラスメイトの1人である白野風紀が委員長になる事で何でもない筈の高校生活が色鮮やかなものになるのです。引き篭もりでありゲーマーの寿このみや双子であるましろとみしろ、その他様々な登場人物に振り回されながら、二度とない青春の時間が幕を開けます。

 この作品の最大の特徴はテキストにあります。基本的には登場人物による掛け合いなのですが、その雰囲気はリアルな高校生活そのものでとても自然体です。私もそれなりの作品数をプレイしてきましたが、この作品は一度の場面で会話をする登場人物の数が一般的なビジュアルノベルと比較してとても多いです。まさに教室で何気なく雑談している雰囲気そのものでした。そしてそれぞれの登場人物に個性はあるのですが、フィクション的な逸脱したキャラクターが多い訳ではなくどこか人間的で共感出来る人物ばかりです。基本的に緩くコメディ調なのですが緊張感走る場面もあり、それもまた高校生活の日常なのかなと思いました。そしてこの作品独自のテキストとしてナレーションがあります。いわゆる地の文の事なのですが、それがナレーションという形で一人の生きた人間が話しているような雰囲気を作っております。それもまたプレイヤーとの距離を縮め身近な高校生活を連想させるテクニックと思いました。全体としてそうした高校生活の懐かしさを感じるテキスト満載であり、センスのあるテキストだと思いました。

 その他特筆するべき点ですが立ち絵が挙げられます。この作品ではいわゆる一般的な半身が映る立ち絵ではなく、まるでトランプの絵柄の様な枠の中に登場人物が収まる形になります。そしてそれぞれの登場人物にはイメージカラーがあり、立ち絵と合わせて色で登場人物を識別する事が出来ます。またメイン登場人物以外のモブキャラはトイレのマークの様に表現されているのですが、ちゃんと会話は用意されており教室の雰囲気をアシストしております。それでもモブの中には特定の背景が設定されている登場人物もおり、準メイン登場人物として活躍してくれます。そんな少し楽しい立ち絵が特徴でした。BGMはフリー素材などを使用しておりましたが使い方が上手でした。特に雰囲気を変える時は一瞬でBGMを変えており、誰でも瞬時に察知する事が出来ます。その他セーブ&ロード、スキップなどはティラノビルダーだなという感じでした。

 プレイ時間は私で11時間50分でした。この作品は全部で3つの章に分かれており、それぞれ4時間弱という感じになります。高校生活は3年間ですので、その1年毎で章を分けているという感じです。選択肢は無く、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。一般的な同士ビジュアルノベルと比較して非常に長いです。また上でも書きましたが登場人物の会話が魅力ですのでシナリオがどんどん進むという感じではありません。だからこそ、雰囲気やテキストがハマればこの長いプレイ時間も苦に感じないのではないかと思います。そして、学年が進んでいく中でクラスメイト同士の関係が変化していき魔法などに対する関わりも変わっていきます。章が進めば進むほど魅力が増していくと思いますので是非最後までプレイして欲しいと思っております。次回の即売会はいつでしょうか、もしサークル参加される時にお伺いできれば是非手に取って頂きたいです。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<この101組だったら、これから人生何があっても幸せになる為に突き進めるんだろうなと思いました。>

 ネタバレ無しでも書きましたが、とにかく3年間の高校生活が楽しくていつまでも続いて欲しいと思いました。そして何よりも、こんな団結力があり優しいクラスがあって良いのかと思ってしまいました。様々な事件やトラブルはありましたが、最後の最後で笑ってお別れ出来たのでこれで良かったのかなと思っております。

 この101組を動かしたのは間違いなく風紀なんだと思います。彼女が最初に委員長にならなかったら、こんな事件もといイベントだらけのクラスにはならなかったと思います。ですが、風紀が委員長になり自由に行動を起こした事で、自分の気持ちに蓋をしていた人達を起こす事にもなりました。ネネはビジネスライクと言いますか合理的な性格であり、同時に秩序を大切にしておりましたので魔道具を使って体育祭に出る事に反対しておりました。ですが実際のところ普通科の人間も魔法を使っている事、クラスの雰囲気が勝ちに傾ている事などを理由に渋々了解しました。ネネもむやみにクラスメイトと不和になる事を望んでません。最後のリレーで1位になれば優勝できるという段階で、協力しても良いかと思ったのだと思います。その後も常識的な発言で風紀とは反対の立場を取っていたネネですが、何だかんだでこのクラスの雰囲気が好きであり最後の文化祭ではみんなと同じようにさいかを案じクラスを案じました。もし風紀が委員長ならなかったら、きっとネネはクラスに距離を置いて普通科に編入していたのだと思います。

 そして常に寂しさを感じていたさいかはもっと不器用でした。彼女もまた風紀の委員長としての行動で心をかき乱された一人でした。それは自分のペースを乱されたからではなく、自分が本当はやりたかった事を何も苦も無く実現してしまう風紀に嫉妬してしまったからでした。どうにかして風紀に一矢報いたい、クラスの中で自分の事を認知して欲しい、そしてそんな自分を叱って欲しい、そんな想いを抱えた1年目の体育祭でした。結果としてネネの靴は炎上し体育祭は途中中断、風紀は委員長を降板するという形になりました。ですが、その事実に気付いたナカミチはさいかを糾弾しませんでした。そんな偽善的な優しさは、さいかにとっては屈辱的であり圧倒的に自分が惨めになるだけでした。自分を惨めにしたナカミチ、好きになるはずありませんね。結果として最後の最後で自分の惨めさに自暴自棄になり風船に爆発物を仕掛けました。それでも、このクラスはさいかを見捨てませんでしたね。むしろ、そんなさいかを心配し励ましてくれました。本当に良いクラスだと思います。今まで通り友達になる事が出来て、さいかもまた本当に幸せだと思いました。

 そしてやはりこの作品で一番の中心は風紀ですね。破天荒な性格で何を考えているか分からないと思ってましたが、実際のところその中身は単純ではありませんでした。風紀もまた、2年になったら普通科に編入しようと思ってました。その時に舐められない様にする為だけに、体育祭で1位になろうとしました。そんな恣意的な理由でクラスを巻き込んだ風紀ですが、同時にドライでもありました。基本的に、風紀は人を頼る事をしません。全部責任は自分が取るというのは、言い換えれば周りを信頼していないという事です。そして、自分が責任を果たさなければクラスから認められないとも思っておりました。素直に自分に従ってくれないナカミチに対しては、時に厳しい姿勢を取る事もありました。あの陽気な姿は弱い自分を表に出さない為のカモフラージュ、だからこそ怒りを表に出すという事は信頼している証拠なのかも知れないと思いましたね。そんなナカミチだからこそ好きになったんだろうなと思います。人に告白する姿なんて、ある意味一番の弱みを晒す事でもありますからね。それが出来るようになって、風紀は身も心も成長したんだなと思いました。

 今回ネタバレ無しのレビューでは上記3人に焦点を当てました。自分の中でプレイ前とプレイ後で印象が大きく変わった人物だからです。印象が変わったという事は、この場合では成長したという事です。そんな高校生らしい成長する姿を見せてくれた事が嬉しかったです。そして、そんな破天荒でメチャメチャな101組の空気が素敵でした。間違いなく1年の体育祭で崩壊するはずだったのですが、ナカミチの提案を受け入れて誰もが風紀を守る為に痛み分けになる事を選びました。この時から、101組の伝説は始まっていたんですね。その後の魔道祭での1組への勝利、大学でのクイズ大会、文化祭での全力の取り組み、そしてくぜ先生への愛情、全ての要素が愛おしく思えてしまいます。ナカミチとこのみは相思相愛となり大学生となりました。他の皆も、全国に散らばりましたが大学生となっております。きっと、この101組だったら再び全員がある事など容易いでしょうね。また風紀が突拍子もなく発言して、何だかんだ良いながら皆がそれに付き合う姿が目に浮かぶようです。そんな101組の皆が、これからも活躍できることを願ってレビューとさせて頂きます。ありがとうございました。


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