M.M 鬼魅の音




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 6 - 69 〜1 2018/11/19
作品ページ(なし) サークルページ



<郷土学サークルの魅力がコンパクトにまとまってますので、初めての方にお勧めです。>

 この「鬼魅の音」という作品は、同人サークルである「Forest*Leaf」で制作されたビジュアルノベルです。Forest*Leafさんの作品では、過去に「鱗姫伝説」「折紙憑き」という作品をプレイさせて頂きました。Forest*Leafさんの作品の特徴として、その全てが「郷土学サークルシリーズ」と呼ばれるシリーズ物となっております。梟街という街にある宇佐杜学園、そこには郷土学サークルという大層奇抜なサークルが存在しております。主人公である三石陣、ヒロインである真城江連・森咲若葉・森咲双葉・渚みるくの5人で、様々な怪奇現象に挑んでいきます。個性豊かな登場人物達の掛け合いとキャラクターが大好きで、ビジュアルノベルのみならず小説や漫画の方も手に取らせて頂いております。また郷土学サークルのメンバーに会えると思い、とても楽しみにしてプレイし始めました。

 今回の舞台は、彼らが住んでいる梟街の街の一角にある公園です。いつもの通りサークル活動を行って帰っている途中、江連が忘れものに気付いて皆で学校に戻る事にしました。その時とある公園を通ってショートカットしようすると、公園の隅っこに赤いランドセルを背負った女の子がうずくまっていました。気になって声を掛けてみると、何とその子は自分の顔を痛めつけていたのです。それなのに「助けて」と繰り返す姿に、何か伝奇的な物を感じた郷土学サークルのメンバー。奇しくもその公園では昔ジョギング中の男女が眼球をくり抜かれて死亡している事件も起きておりました。この謎を探るべく、郷土学サークルの調査が幕を開けるのです。

 Forest*Leafさんの中で「鬼魅の音」はショートストーリーに分類しているそうです。その為過去にプレイした「鱗姫伝説」「折紙憑き」と比較して物語のボリュームは非常に短いです。それでも、郷土学サークルのメンバーの魅力あふれたセリフ回しや行動が印象的でした。そして、郷土学サークルシリーズの特徴として沢山の選択肢と複数のエンディングが挙げられます。「鬼魅の音」も、短いながらエンディングの数はそれなりに多く何周かする事になると思います。ですが難易度は決して高くはありません。むしろ全ての選択肢を選んで徹底的に謎を調査するくらいの気持ちでいる事が大切ですね。是非郷土学サークルのメンバーと一緒にこの謎を解き明かしていきましょう。

 プレイ時間は私で35分掛かりました。エピソード1つ分という感じで、本当に直ぐに終わってしまうと思います。それでも、ホラーの描写は怖かったですし演出も効果的に作用していて2回ほど「ウワッ!」って声を出してしまいました。そしてそういう肝心な場面で選択肢が現れますので、緊張感が出てましたね。郷土学サークルの魅力がコンパクトにまとまった作品だと思いました。Forest*Leafさんの作品にまだ触れていないという方は、是非この「鬼魅の音」から始めてみては如何でしょうか。これで郷土学サークルのメンバーが気に入ったら、そのまま他のビジュアルノベルや小説や漫画に手を伸ばしていきましょう。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<例え妖怪でもかつて生きていた人を殺すのは、誰でも悔恨が残るものです。>

 郷土学サークルのホラーって、どうしても犯人を憎めないんですよね。完全な悪なんて存在せず、何かちょっとした切っ掛けで悲しい事になってしまった不幸な人たちが多い気がします。今回も不慮の事故を目を失ってしまった男子学生の、寂しさの表れだったのかなと思いました。

 今作は特にBGMが怖いと思いました。曲数こそ多くはありませんでしたが、あの錆び付いた不協和音と言うのでしょうか、当たり前の日常が一瞬で不穏な物に代わってしまうのが怖かったです。加えて、看板の文字が消されて目がつぶれた絵が描かれているとか、これも当たり前の日常にヌルっと忍び込んでくる怖さが響きました。後は、不意打ちの恐怖絵にビビりましたね。杏子が書いたミミズの妖怪の絵とか、若葉がお風呂に入っている時にガラスに張り付いた手とか、チープなはずなのにビビってしまいました。普段なら冷静に見れるはずなのにビビってしまう、これこそがホラーのマジックですね。

 そして、今回の謎の真相は昔宇佐杜学園の野球部エースピッチャーだった男の子の霊でした。不慮の事故でボールが目に当たってしまい、大好きな野球を失ってしまった彼は、そのまま自暴自棄になり学園も退学してしまいました。その後どういう理由で命を落としてしまったのかは分かりませんが、生者に対して相当の恨みを募らせておりました。それは、彼が住んでいたかつての喫茶店から見える人をそのまま呪い殺せるほどです。かつて事件として取り上げられたジョギング中の男女、病院に搬送された赤いランドセルの女の子、そしてルートによりけりですが森咲若葉もその呪いの犠牲者でした。これを解決するには、もう元凶の元を叩くしかありませんでした。

 今回は陣くんが強かったですね。何十本もの手が迫ってくる情景に対して、包丁一本で戦いに挑むなんて中々出来る事ではありませんからね。それでちゃんとヒロイン達を守ったのですから大したものです。元々怖いものが苦手な江連は勿論、あの双葉ですらも太刀打ちできなかった相手でした。それでも、かつて人間だった物を殺してしまった事実は想像以上に陣くんの心に残ってしまったみたいです。いつも郷土学サークルの中和剤的な立ち位置で常識人として振る舞っていた陣くんですが、最後その余裕は感じられませんでした。

 そういう時だからこそ、今一番会いたい人と話がしたかったのでしょうね。幸い、郷土学サークルの皆は陣くんの事が好きですから、陣くんが心を開けばみんな勿論応えてくれます。最後、それぞれのヒロインらしい振る舞いに、いつもの郷土学サークルだなと安心したのでしょうね。陣くんにいつもの表情が戻ってきてくれました。いつもギリギリで崖っぷちな事件に首を突っ込む郷土学サークル、それでもちゃんと最後5人が皆無事だったら、それでOKですね。無茶も程々に、またその元気な姿を見せて欲しいと思っております。ありがとうございました。


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