M.M 君がいた夏
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
6 | 6 | 5 | 70 | 1〜2 | 2020/3/16 |
作品ページ | サークルページ |
<等身大の登場人物の揺れ動く心情を、多数の選択肢を選びながら辿ってみて下さい。>
(2020/3/16 作成)
この「君がいた夏」という作品は同人サークルである「えるりんご」で制作されたビジュアルノベルです。えるりんごさんは同人ゲームや漫画を制作している個人サークルです。私がえるりんごさんを知ったのはショタ系の作品でしたが、今はショタ系以外にも様々なジャンルを取り扱っており活動の幅を広げております。漫画を描きながら同人ゲームも制作されており、これまで4つの作品を作られております。今回レビューしている君がいた夏はえるりんごさんの第2作目に当たる同人ビジュアルノベルでして、これてようやくえるりんごさんが製作された全てのビジュアルノベルを読み終える事が出来るという事ですね。
様々なジャンルの作品を作られていると上で書きましたが、それは同人ゲームでも同じです。今回レビューしている「君がいた夏」は乙女ゲームとなっております。主人公である篠崎あかり(名前変更可)は、この春新しく八谷高校に転校してきた女の子です。ですが転校初日から寝坊してしまい、遅刻ギリギリで登校しておりました。すると、そんなあかりに手を伸ばし学校まで連れて行ってくれた男の子がいました。名前も知らないその子とは別れて教室に入り、そこで沙原萌香という腐女子のクラスメイトと仲良くなり宮坂幹太という男の子と出会います。友達になり一緒にお昼を食べている隣には朝であった男の子、しかしその姿は萌香と幹太には見えてませんでした。そう、朝であった男の子は実は幽霊だったのです。一人の幽霊とクラスメイトに、恋心を揺さぶられる日常が幕を開けるのです。
舞台が高校という事で、基本的には背伸びした子供の恋愛です。登場人物は多かれ少なかれ自分勝手ですし、やんちゃな様子も沢山うかがえます。それでも、恋に対しては真剣で自分の中に生まれた感情を上手くコントロール出来ない様子が印象的でした。意外と男の子の方が一途な印象でしたね。その真っ直ぐな想いに主人公はどのように応えるのか、その翻弄される具合を堪能させて頂きました。また、ルートによっては友達である萌香も大変重要な役割を担っていきます。単に主人公と男の子の関係だけではない、複雑な関係にも注目してみて下さい。
背景やBGMなどは全てえるりんごさんオリジナルとなっております。そしてOPとEDはボーカルとなっており、作中の主人公や男の子の心情をストレートに表現したものとなっております。特にエンディング曲はしんみりと聴いてしまいましたね。当たり前の事ですが、BGMとボーカルの違いは歌詞があるか無いかです。今回改めて歌詞の力という物を理解する事が出来ました。システム周りはちょっと注意が必要です。基本的な機能は揃っているのですが、選択肢の場面でセーブが出来ません。一番セーブしたいところで出来ませんので、定期的にセーブするようにする事をオススメします。
プレイ時間は私で1時間30分程度でした。この作品の特徴として選択肢が非常に多い事が挙げられます。セーブスロットは全部で20あるのですが、一周するだけで20スロットをフルで使ってしまいます。そしてそれだけ選択肢の数がある事に加えてエンディングの数も多くなっております。私自身、トゥルーと思われるエンディングは見ましたが全てのエンディングを確認出来ておりません。ローラー作戦では正直骨が折れますが、是非頑張れる人は頑張ってみて下さい。恐らく、倍はプレイしないととても全部は埋まりませんね。まずはトゥルーエンドを目指してみて下さい。トゥルーエンドはボーカル曲が流れますので分かると思います。選択肢の多さは登場人物の揺れ動く気持ちの表れなのかも知れません。いっその事セーブせずに本能に従ってどんどん選んでいくのもありかも知れませんね。久しぶりに懐かしい記憶を思い出す事が出来ました。
(2020/3/18 追記)
上記のレビューを書いた後にサークルさんとやり取りさせて頂いたのですが、何といわゆるトゥルーエンドに該当するものに私は半分しか辿り着いていない事が分かりました。流石にそれではレビューにならないと思い、その後全てのトゥルーエンドを確認しました。私、誤解してました。この作品、いわゆる女の子主人公が男の子と出会う乙女ゲームの魅力に留まっておりませんでした。上でも少し書きましたが、この作品は友達である萌香も大変重要な役割を担っております。その萌香の魅力が最大限感じられるシナリオが待っておりました。これは男の子とのエンディングだけはなく全てのトゥルーエンドを見た方が良いですね。
トータルのプレイ時間は1時間50分程度でした。既読スキップがかなり速く、純粋に他のトゥルーエンドに関係する部分のプレイ時間は+20分でした。それでも全てのトゥルーエンドにたどり着くのは大変で、それが故に達成感も一入でした。何れにしても、是非全てのトゥルーエンドを目指して頂きたいです。必ずやエンディングによって印象が変わると思います。全てのキャラクターの魅力を堪能できました。ありがとうございました。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<結末が分かっているから見ているのが辛いですが、それでも貫ける愛が素晴らしかったです。>
(2020/3/16 作成)
最初から最後まで、素直に感情移入できる恋愛乙女ゲームだったなと思っております。湊の事が好きなんだけど幹太の優しさを裏切る事が出来ない、湊は幽霊なんだから割り切らなければいけないけどそれが出来ない、萌香の努力は理解できるけど納得は出来ない、そんな素直で泥臭い感情が印象的でした。
自分としては、幹太の頑張りが立派だったなと思っております。私もそうでしたが、好きな女の子がいるからといって素直にその子に声を掛ける事は中々出来ません。声を掛けて断られるのは怖いですし、上手く声掛けられるかも分かりませんし、物凄く勇気がいります。それでも、幹太は諦めず何度もあかりに声を掛け続けました。声を掛ける表情を見れば、誰でも幹太があかりの事を好きなのはバレバレです。そんな事は幹太も理解しています。それでも声を掛ける、この勇気が立派だなったなと思いました。これだけ迫られたら、自分だったら付き合うかどうかは時と場合に寄りますがその気持ちに応えたいとは思いますね。きっと、あかりもそんな風に何度も思ったのだと思います。
それとは対照的に、湊は恋をする事を諦めていました。両親が離婚し、男をとっかえひっかえする母親の姿と「あんたなんか産まなければよかった」という発言は、子供を死に追いやるに十分な理由でした。恋愛は人を不幸にする、そう思い込むのも無理はありません。それでも、湊は真実の愛を見つけなければいけませんでした。そうしなければ成仏する事が出来ないからです。湊の意志と置かれた状況が矛盾している手詰まりの状態、それでも湊は恋をする事を止める事は出来ませんでした。まあ、恋をするのは自分の意志で決める事ではありませんからね。恋は、気が付いたら勝手にしてるものなのですから。そして、そんな自分も母親と同じなのかと苦悩したのだと思います。
恋と愛は違いますからね。恋は自分に向いている物、愛は周りに向いている物だと思っております。あかりの事を思い線を引いた湊ですが、これもまた十分な愛だと思います。勿論結ばれれば一番幸せだと思いますけど、湊の場合それは叶いませんからね。もしかしたら、そんな自分の幽霊という立場を理解して線を引いたのかも知れません。湊と結ばれてその愛を持って別れる、幹太と結ばれて永遠の愛を結ぶ、湊にとっては切ない結末ですね。そんな君がいた夏の夢の様な物語でした。ありがとうございました。
(2020/3/18 追記)
では、ここからは上記レビュー後にたどり着いたエンディングについて、具体的には「ED9 念願」と「ED11 待ってた」について書こうと思います。もうね、正直この作品のメインヒロインは萌香で良いんじゃないかって思ってしまいました。何故なら、純粋に好きな男の子の為に努力して結ばれようと頑張っている萌香と、それを応援するあかりという構図が完成していたからです。萌香の立場にしてみれば、ずっと一緒だった幹太との間に突然あかりがやってきた訳ですからね。しかも幹太はあかりに一目惚れしてしまいました。萌香にしてみれば逆恨みしても良いんじゃないかという状況だと思います。それでも萌香はそんな事はせず、自分に振り向いてもらえるように努力しました。いや〜凄いですね!その真っ直ぐな想い、自分も好きになってしまいます。
後は幹太と湊のBL的な展開も少しドキッとしました。幹太が湊の事を小学校の時から慕っている事が分かりました。まあこれは友情なんだろうなと思ってました。ですが、どうも幹太の様子がおかしいという事に気付きました。あれ?これもしかしてBL展開?って思うほどでした。ですけど、そこは湊がカッコ良かったですね。目の前の女の子に行けと、しっかりと背中を押してくれました。目を覚ました幹太の目の前には、泣きそうな表情のいつも隣にいる幼馴染の顔でした。こんな美しい展開が待っているとは思っていませんでした。いや〜萌香可愛い!申し訳ないですけど、これは圧倒的正ヒロインですわ。本当、全てのトゥルーエンドを読んで良かったと思いました。改めてありがとうございました。