M.M 欠月のラプソディー




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
3 5 - 61 1〜2 2019/1/7
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<「願い」をテーマにした少し寂しくも温かい物語を、肩肘はらずマッタリと見守るように読んでみて下さい。>

 この「欠月のラプソディー」は同人サークルである「みるみるそふと」で制作されたビジュアルノベルです。みるみるそふとさんの作品も、振り返れば随分な本数をプレイして来た気がします。これまで合計6本の作品をプレイさせて頂きました。ジャンルも毎回変化しており、登場人物も学生・悪魔・魔法少女・メイドなど多岐に渡っております。それでも共通しているのは、とにかく砂糖菓子のように綺麗で整っている女の子です。派手さはないかも知れませんが必ずや目を止めてしまう可愛いジャケットに、毎回手に取らせて頂いております。今回レビューしている「欠月のラプソディー」もまた、これまでにない属性のヒロインとシナリオで楽しませて頂きました。

 主人公である伶人はどこにでもいる普通の学生です。伶人には仲の良い女の子がいました。名前を梓と言います。梓は星が大好きで、物語が始まる日も伶人と一緒に近くの天文台に行き星を眺めていました。この日は新月です。月の光がありませんので星が最も輝いて見える絶好のコンディションです。流れ星に願いを込めて、心地よい気持ちで家路に着こうとしておりました。ふと空を見上げると、1つの流れ星が流れておりました。いや、流れ星の割にはいつまでも消えません。そうこうしているうちに、その流れ星は伶人のすぐ傍に落ちてきたのです。そこにはUFOのような落下物が。そして、中からは金髪と銀髪の女の子が現れました。彼女たちは言いました。「私達は星と月の神様です」「貴方の願いを叶えましょう、その対価によって」突然の出会いが、伶人の運命を大きく変えていく物語が始まります。

 今回のヒロインは、なんと神様です。ついに神様も登場したかと思ってしまいました。ですが、見た目は普通の女の子と変わりありませんし、言動も普通の庶民的な感じです。それでも神様らしく人知を超えた力を持っており、その神様を力を借りて伶人は大きな決断をする事になります。この作品で扱っているのは「願い」です。皆さんが流れ星に願いを込めるのは、その存在がとても貴重で神秘性を持っているからだと思います。つまり、願いは願うだけでは叶わないのです。ですが、今回は目の前に星と月の神様がいて願いを叶えてくれると言っております。ただし、それには対価が伴います。やはり、願いは願うだけでは叶わないんですね。人間と神様の、願いを巡る少し寂しくも温かい物語がこうして幕を開けます。是非肩肘を張らず、見守るようなスタンスで読んで頂ければと思います。

 背景素材は同人ビジュアルノベルではよく見るフリー素材を使用しております。それでも、ターニングポイントになる場面は普段見ない写真を加工したような素材でしたのでオリジナルなのかも知れません。BGMも一部フリー素材を使っておりますが初めて聴く曲も多く使用されておりました。いずれにしても、場面に合った物を使用しており違和感は感じませんでした。システムも基本的なものは揃っておりますのでプレイに支障はありません。この辺りの部分が安定しているのは、流石多くの作品をリリースしている経験が生きているのかなと思いました。システム面でのストレスは無いに越したことはありませんからね。

 プレイ時間は私で1時間45分程度掛かりました。みるみるそふとさんの作品では珍しく選択肢はありません。一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。始めこそ衝撃的な展開で始まりますが、その後は割と平坦に流れていきます。プレイ時間以上に長く感じるかも知れません。是非休日のちょっとした時間に、飲み物を傍に置きながらマッタリと読む事をオススメします。テーマは願いですからね。願いにガッつくのは疲れるだけですからね。温かい気持ちになる事が出来ました。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<願いは願うだけでは叶いません。それでも、神様のちょっとした気まぐれが願いを叶えてくれるかも知れませんね。>

 みるみるそふとさんのもう一つの特徴として、主人公が殆ど動じない点が挙げられると思っております。今作も「自分の大切な女の子を殺してしまったからあなたの身体の一部の機能と引き換えに生き返してあげる」と言われて、殆ど動揺せず承諾しその後も割と平坦に進んでいきました。物語が平坦に感じたのは、主人公の感情の起伏が平坦だからなのかも知れませんね。

 全体を通してみて、どの登場人物も心の中に秘めた思いは外からは分からないなと思いました。蒼海は自分がうっかり梓を殺してしまったと思ってましたが、実は灯が手を拱いて利用していました。そして、梓もまた自分は生きたいと決して思っている訳ではない事も後半明らかになりました。伶人が蒼海と灯と会う前の記憶を朧げにしか思い出せなくなってしまった梓、日常のありふれた記憶を少しずつ朧げにしか思い出せなくなってしまった伶人、自然と2人で過ごす事が出来る時間が短くなっている事を悟ります。その事を自覚して、初めて伶人は記憶を失う事の怖さを実感していきました。そうであるのなら、初めからお互いの記憶を無かった事にして欲しい。そう思う気持ちは分かる気がします。

 そして、そんな人間の願いや気持ちに対して積極的に応えたいと思う蒼海と消極的に応えたいと思う灯の関係も注目でした。星は、月の光が大きければ見えなくなってしまいます。それでも、人は星に願いを込めますけど月に願いを込める事はあまりありません。何故なら、月は人類にとって近い存在になってしまったからです。既に、人類は月に降り立っております。もう、月は神の様な神秘的な存在ではないのです。ですが、星はそうではありません。人類は、恐らく暫くは他の星にたどり着く事は出来ないと思います。それは、もはや神様と同じ。だから人は星に願うんですね。そんな、同じ空に浮かぶ星でありながら全然扱いが誓う事に、灯は嫉妬の気持ちを持っておりました。

 伶人から無理やり願いを聴きだし実行した灯、その行動は蒼海にとって侮辱以外の何物でもありませんでした。何故なら、願いは無理やり引き出す物ではないからです。こうだったら良いのにな、そういった純粋な想いが願いである。だからこそ蒼海は灯に怒りました。ですが、伶人と梓の純粋な願いはどちらも叶えられないものでもありました。だからこそ灯はこういった手段に出たんですね。これもまた優しさなのかなと思いました。そんなこんなで、人間に関わり過ぎた事で起こしてしまった今回の出来事。やっぱり、神は人と触れてはいけなかったんですね。星と人間くらいの距離が調度良い、そのセリフの寂しくもなんと切ない事でしょうか。

 最終的に、蒼海は伶人と梓の2人の記憶を犠牲にする事で梓の命を繋ぐことにしました。お互いの事を忘れて再スタートした伶人と梓。それでも、星を好きな気持ちは残っておりました。再び出会った2人。そして、お互いに自分の想いを星に願います。今度こそ、蒼海は無理する事無く2人の願いを叶えてくれるかも知れませんね。願いは願うだけでは叶いません。それでも、神様のちょっとした気まぐれが願いを叶えてくれるかも知れませんね。そんな冬の一時に起きたちょっとした物語でした。ありがとうございました。


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