M.M KATHARSiS第一幕




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 5 - 70 2〜3 2017/6/9
作品ページ サークルページ(作品ページと同じ)



<血生臭いバトルが始まったとき、主人公がどのような決断をするのか見極めて欲しいですね。>

 この「KATHARSiS第一幕」という作品は、同人サークルである「ProsceniumArch」で制作されたビジュアルノベルです。ProsceniumArchさんに出会ったのはCOMITIA120で島サークルを回っていた時でした。COMITIA120ではノベルゲーム部というサークル部活動も参加していて、自分も運営側として関わっておりましたのでだいぶ慌ただしくしておりました。それでも時間を見つけて同人ゲームの島サークルは全て目を通したのですが、その時に今回レビューしている「KATHARSiS第一幕」を見つける事が出来ました。モノクロでどこまでも続いているような無限の空間。その中に一人背中を見せている少年の姿が印象的です。普通の日常ではない、血と血が交じり合う戦いが始まるのです。

 主人公である暮端克己(くればかつみ)は記憶喪失の少年です。太陽の子ども院と呼ばれる孤児院の一員として生活しており、創設者である叡崙(えいろん)先生や年の近い春來眞嘉(はるきまか)・シーヤ・輝居隆登(てるいりゅうと)、そして年の小さな子供達に囲まれて幸せに生活しておりました。一方、コローニス国際医療研究所ではとある事件が起こっておりました。研究対象である深栖瑛良(ふかずみえいら)が研究所を脱走したのです。必死に捜索するも見つからず、この事を切っ掛けに研究所は彼女を探すためにありとあらゆる手段を取ることになります。そんな暮端克己と深栖瑛良、関係ないはずの2人が出会ってしまったとき、登場人物全員の運命が動いてしまったのです。

 この作品は異能バトル物です。研究所から脱獄した深栖瑛良が歩いた後の道は全て凍りついてしまいます。そしてそんな深栖瑛良を追いかけてきた一執双爾(かずとりそうじ)は自由自在に体からメスを出す殺人鬼です。もちろんそれ以外の登場人物の多くが異能力を持っており、人間には考えられない残忍な戦いに発展してしまいます。ですが、主人公である暮端克己は異能力を持っておりません。彼はただ、当たり前の日常が続けばそれでよかったのです。異能力なんて要らないのです。ですが、皮肉なことに暮端克己こそがこの戦いの中心に位置してしまいます。彼らはなぜ異能力を持っているのか。どうして戦わなければいけないのか。目の前の大切な人が殺されたとき、主人公がどのような選択をするのか。是非想像力を働かせて読んで欲しいですね。

 読み進めるに当たって非常に大切な注意点があります。この作品にはバックログがありません。つまり、読み損ねてクリックしてしまったテキストを読み返せないのです。この作品は異能バトル物ですので、固有名詞の数が非常に多いです。またご覧のとおり登場人物たちの名前が非常に特殊で読みにくく、中々顔と名前が一致しないと思います。何が言いたいのかと言いますと、本当であれば何度もバックログで読み返すべきテキストなのにそれが出来ないのです。非常に慎重にクリックして、決して読み損ねがないように頑張ってください。色々とデザインは拘っているのですけど、テキストを読む際の最も基本的な部分のシステムが実装されていないのは、ちょっと残念でしたね。

 プレイ時間は私で2時間15分掛かりました。タイトルにあります通り、この作品はまだ第一幕です。物語は始まったばかりで、主人公が異能力バトルに巻き込まれてから今後どういう決断をするのかまでを描いております。選択肢は幾つかありますが、まだ第一幕では意味を成さないので特に気にしなくて大丈夫です。それよりも固有名詞の数とバックログが無い事がプレイヤーとしては大切です。サークルさんの想定時間よりも長くなってしまったのはこの為ですね。逆にじっくり読むことで登場人物たちの心理描写によく触れられますので、是非誰が何を考えて戦っているのかを見極めて欲しいですね。これからどのようにバトルが展開していくのか楽しみです。その際は、是非バックログを実装して欲しいですね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。










































<作中全体に漂っているのは圧倒的な恐怖。それを断ち切れたとき、物語は終わるのかも知れません。>

 自分が絶対に叶わない存在。そんなものに出くわしたら、自分だったらどんな行動を取るでしょうね。大人しく殺されるなんて真っ平御免ですが、そんな生殺与奪すら握られているのです。きっと足掻くと思いますが、死んでしまうのでしょう。それでももし万が一生き残ることが出来たら、やはり残りの人生は復讐に染められてしまうのでしょうか。そんな事を思いました。

 まだ第一幕でしたが、もうここだけで非常に多くの情報が詰まっておりました。とにかく登場人物の数が多いです。主要なメンバーだけで10人は超えておりますし、まだ名前だけで姿が分からない人物も何人かおります。そして誰もがその胸の中に何を思っているのかを明かしていないのです。ただ、心の中にあるのはどうやら非常にネガティブな気持ちのようです。でなければ、アディペイアーを発症しピディアスクになる筈がありませんからね。アディペイアーとは強い治療願望が発現させる能力との事です。治療願望ですので、何か大きな心の傷を負ったことは間違いありません。そしてよくよく見てみれば、ピディアスクになっているのはまだ若い男女だけでした。この症状はもしかしたら思春期特有の病気なのかも知れません。まだまだ分からない事だらけです。

 そしてやはり一番気になるのは主人公の能力と過去とこれからですね。心敵外晶の能力はちゃんと説明されておりませんでしたが、恐らくその名の通り相手に自身のトラウマを思い出させる能力なのだと思います。兵士たちが何かに怯えるように同士撃ちしてしまい、あれだけ気高かったフランシエル・プレパンスールも心を乱してしまいました。どんな人間でもトラウマで無力化してしまう、物理的なダメージを負わせるよりも充分怖いです。そしてこの能力が発動した切っ掛けは恐怖でした。これはきっと主人公はかつてとてつもない恐怖を味わってますね。それが思い出されたからこそ、心敵外晶なんていう能力が生まれたのかなと思っております。そして能力を発動した主人公はもはや別人ですね。殺しに対して非常に積極的な性格、あのニヤケた口元が印象的でした。途中の選択肢は今後第二幕以降で意味を持ってくるのでしょうね。殺すという事への拘りがその後どう関わってくるのか気になります。

 実際のところ本当にまだ第一幕ですので、これ以上は何も言うことが出来ないんですよね。全て想像の話になってしまいます。この異能バトル物を用いて、作者が何を訴えたいのかも見えません。ただ、伝わったのは死に対する恐怖。絶対的な存在に対する恐怖。人の心に対する恐怖でした。恐怖とは潜在的に動物が持っている感情だと思います。自分の命が脅かされるのです。これに対峙した時、人間の本心が浮き彫りになるのかも知れません。そしてその結果が、この作品ではアディペイアーとして現れるのだと思います。アディペイアーについてもよく分かっておりませんが、少なくともアディペイアーによって新たな恐怖が作られ、それが新しいアディペイアーを生み出しているように思えてなりません。せめて物語の最後では、この世からアディペイアーが無くなっている事を願いますね。続きが楽しみです。


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