M.M カタハネ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 8 8 88 20〜30 2009/11/15
作品ページ(なし) ブランドページ(なし)



<箱庭のような世界で描かれる穢れの無い物語>

 この「カタハネ」というゲーム、知っている人なら知っていると思いますがとあるジャンルで有名です。ずばり「百合」です。何しろOHPでのTOP絵が既にそうですし、インストールして最初のメインメニュー画面でそれが確信に変わります。ですが、とりあえずOHPの内容をよくよく見ていくとそれだけではない事に気がつく筈です。

 このゲームの最大のポイントは間違いなくキャラクターや背景の作画です。これまでもCGの美しい作品を数多く見てきましたが、この作品は美しいという表現も当てはまりますがそれ以上に「やわらかい」「まるで絵本の中にいるような気分」にさせてくれます。それは、おそらく舞台設定が日本ではない西洋風のどこか、それも都会から田舎まで幅広く登場することが要因の一つです。外国に頻繁に行っている人はどうか分かりませんが、日本から出たことのない人にとって外国は知っているようで知らない未知の世界、TVで紹介されるのは有名な町くらいなもので、その国の姿の1%も映していません。だからこそ、フィクションとはいえ様々な顔を見せる舞台はプレイヤーを物語の世界に引きずり込むのに十分であり、そしてその世界に対してやわらかいという感想を持つはずです。

 そして、もう一つの要因であり最大の原因は登場人物像です。原画担当である「笛」が描くキャラクターはそれこそおとぎ話に登場するような柔らかいタッチで描かれており、その外見と同じような性格の持ち主ばかりです。さらにキャラクターの個性は様々であり、おとぎ話のような世界観に多彩なキャラクターとプレイヤーをワクワクさせる要素満載です。これだけでも十分なのですが、数多いキャラクターの中でも最重要に位置するキャラクターがいます。「ココ」です。

 OHPの登場人物の中でも一際目立つと思います。小さいです。そして何より人間ではありません。このキャラクターがシナリオ上どのような役割を持つかはそれぞれプレイして確認して頂ければいいと思いますが、開始数分で間違いなくココがこの作品の最重要人物であり世界観の構成に欠かせない存在だと認識せざるを得ないでしょう。ここまで見事に表現されたキャラクターはそうそういるものではありません。これだけでもプレイする価値はあります。

 それ以外では、群像劇が特徴として挙げられると思います。とにかくこの作品は視点がコロコロ変わります。それでもどの時にどの視点かで迷う事はありません。むしろ、他のゲームと比較してシナリオの進行がなめらかな本作を飽きないで進めるために非常に効果的でした。そしてこれは、全てのキャラクターを大切にしているという表れでもあります。舞台設定とキャラクター、そして群像劇とあらゆる手法を用いてとにかく完成された「箱庭」のような世界観を構築している作品、それがカタハネなのです。

 さて、冒頭で書いた「百合」についてですが、有名になるにはそれなりの理由がある訳です。プレイし終わって確かにこれは百合ゲーとして有名になる訳だわと納得してしまいます。ですが、頭から百合を求めてプレイする事は全くの筋違いです。同様に、百合だからといって嫌煙するのも間違いです。この作品の魅力はとにかく完成された世界観です。この世界観に浸りながらプレイしていき、気がつけば「そういえば百合だったなぁ」程度にしか感じません。何か穢わらしいものを考えている人はとりあえずその考えに蓋をして下さい。いい意味で期待を裏切ってくれます。

 名作かどうかは分かりませんが、何かゆっくりしたサウンドノベルをやりたい方には是非お勧めです。残念ながら制作もとである「Tarte」が倒産してしまったためもはや希少価値の高いものになってしまったかも知れませんが、中古屋のワゴンとかでたまに¥980とかで見かけたりします。見かけたら絶対買いましょう。それだけの価値はあります。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<過去から未来へ、物語はココに導かれて>

 結局のところこの物語は悲劇なのでしょうか。いやいやそんなことはありません。なぜなら、不幸な運命の中でも確かに登場人物は自分の思いを成就出来たのですから。

 まあ、全ての始まりは間違いなくヴァレリーの策略でしょう。もともとそれなりのバランスで成り立っていた赤、青、白の三国の関係、それにメスを入れた結果がこれです。ですが、この策略の中でクリスティナはエファと出会い、お互いに思いを確認しあいながら永遠に一緒になる事が出来たのです。これは運命のいたずらなのでしょうね。なぜなら、後見人であるアインも側近であるデュアも、そして策略の中心にいたヴァレリーも気づかなかったのですから。

 それでも、アインやデュアをはじめ全ての登場人物の決死の思いで二人は実を結ぶことが出来ました。それは、本当に心からクリスティナを敬っていたからできたこと、アインもデュアもクリスティナのためなら自分の名誉や命など必要無かったのです。傍から見れば不幸に見えるかも知れません、なにしろ報われませんからね。それでも、本人達は自分たちが正しい事をしたと胸を張って死んでいけました。だから、この物語は決して悲劇ではないのです。

 そして、この一連の不幸な出来事は遠い未来で晴らされることになります。その為の真実の物語を運んでくれたのがココです。ココはただ何も考えずに石を持っていた訳ではありません。アインやデュア、クリスティナやエファの約束を忠実に守るという確固たる意志がそこにありました。そうです、アインやデュアはクリスティナを守るだけでなく真実の物語を未来へ伝えるためにもその人生を賭けたのです。これは、過去から未来への決死の物語のバトン渡しなのです。バトンは石、渡し手はココです。

 バトンは様々な人の世話になって入れ物を変えながらも数百年も導かれていきました。そして、最終的にセロの物へやってきます。そして、ワカバの描く真実の舞台でようやくアイン、デュア、クリスティナ、エファの思いが成就されます。長い長いバトンでした。ワカバのセリフではありませんが、本当にココは苦労したと思います。ワカバは泣いていましたが、私も気づいたら涙が流れていました。ココの一挙一足に心が震えるしかありませんでした。よくぞここまで繋いでくれたと思います。

 作品全体はのんびりしたシナリオ展開でクロハネを除きそれほど暗い雰囲気は感じません。それでも2周、3周としていくうちに、キャラクターのセリフの陰に隠された思いが響いてきました。ココは勿論、ベルやレインなど、多くのキャラクターが過去からの払拭を望んでいました。本当に、あのクロハネから考えて最高の形でのシロハネだったと思います。

 まとめます。やわらかい雰囲気と登場人物の中で描かれた物語は心に響くものであり、温かい気持ちになる事が出来ました。特にココの存在は作品全体を明るくし、悲劇に見えたシナリオをハッピーエンドにしてくれました。百合も世俗的なものではなくお互いの思いの成就の果てに生まれた至高のものでした。傑作です。ありがとうございました。


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