M.M KANON




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 9 8 83 20〜30 2006/5/17
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<美しい世界観の上に語られた奇跡>

 おそらくギャルゲーという言葉を知っている方なら、間違いなく一度は聞いたことのあるタイトルだと思います。現在のギャルゲーの基礎を作ったとされる「Key」の処女作「KANON」。その名に違わず、爽やかな感動を与えてくれました。

 このゲームで特に際立ってすばらしいと評価出来る物は、自分の中で特にありませんでした。しかし、このゲームの本当の素晴らしさはそういう個々の要素ではなく、全ての要素が完全一体となって一つの感動を生み出している点にあります。このゲームは、冬の地方都市を舞台にした学園物という位置づけになっています。そのため、冬を表現する雰囲気、学園を表現する雰囲気が必要不可欠です。そこでこのゲームでは、主に「背景」や「音楽」でその雰囲気を作り出しています。しかもそれが、文章を読み進める過程の中で全くストレスなく表現されているのです。よく多彩な画面効果による演出やマップ移動などのゲーム性によってプレイヤーを引き付ける作品は多々あります。しかし、それはあくまでシナリオを語る上での飾りでしかありません。これは例えば、レストランで料理が運ばれてきた時に、飾りつけや皿がやたら豪華であるということと似ているかもしれません。しかしこのゲームでは、あくまでプレイヤーをシナリオに大きく引き付ける要素がテキストのみであり、その他の要素が全く「主役」になることがないのです。こういった雰囲気の中で、プレイヤーに非常に爽やかな感動を与えてくれる事は、まさに「奇跡」と呼べるのではないかと思います。

 そしてシナリオですが、始めは本当に普通の学園物の雰囲気を出しています。前にも言いましたが、本当にテキストのみでシナリオに引き寄せられるので、特別ストレスを味わうこともなくごく自然にシナリオが展開していきます。そして後半ですが、普通の学園物という要素は影を潜めて、このゲームのテーマである「奇跡」をテーマにしたシナリオに進みます。ここで、このシナリオの展開が非常に自然でした。気づいてみたらもう物語のクライマックスといったことが本当に多かったです。そして、個々の感動的なシナリオとエンディング、ゲームを終えてから改めて全体を振り返ってみると、本当に爽やかな感動を与えてくれたことに気づきます。時間的にも一人当たりおおよそ5〜6時間位で、標準的な長さと言えます。感動を味わいたいのなら、間違いなくオススメできるシナリオです。

 多少選択肢がややこしいといったところはありますが、バッドエンドに行ってしまってもあまり不快感を覚えることなく再プレイすることが出来ました。今でこそ古い作品ではありますが、古き良き名作を嗜んでみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<奇跡や感動に辻褄は不必要か?>

 この「KANON」というゲームを最後までやり終えて心の中に残ったのは、本当に爽やかな感動でした。今こうしてレビューを書いている時でも、プレイした時の緊張と感動が蘇ってきます。しかし、改めてこの感動の原因を探っていくと、ある一つのことに気づきました。それは、このシナリオには「奇跡」が起きたという事実関係に、明確な裏付け理由が存在しないからです。

 例えば「美坂栞シナリオ」にて、最後に栞が死なずに健康になった原因は、本編では明確な裏付けは語られていません。それでもプレイヤーは、栞が生きていたという事に対してあまり不信感を持たずに受け入れることが出来ることと思います。「沢渡真琴シナリオ」でも、そもそもどうしてただ一匹の狐が人間になることが出来たのかという疑問に明確な解答は用意されていません。それでも、真琴が無理して人間になってまで祐一の傍に居たいという気持ちに純粋に心打たれると思います。ここまで考えて、私は一つの考えにたどり着きました。それは、奇跡を語ったり人を感動させることに、「事実関係の辻褄合わせ」は不要なのか?というものです。

 私がシナリオに求めるものの大きな要素に、「事実関係の矛盾の解消」があります。よく「謎解きゲー」と言われるジャンルのゲームがありますが、私はこの手のゲームはなかなか好きです。その理由として、提示された事実関係が一つに繋がった瞬間の「ロジック」の作り方に感動を覚えるからです。しかし、この「KANON」というゲーム、そういった明確な事実関係の説明を意図的に省いているにも関わらず、見事にプレイヤーを感動させてくれました。

 こういったゲームの特徴として「明確な答えはプレイヤーに委ねる」といったものがあり、最近この手のゲームが増えています。しかし、それらの多くは明らかな説明不足のものが多く、感動どころか疑問ばかりが残ってしまうものです。そういった意味でも「KANON」の完成度は素晴らしく、狙い通りプレイヤーを感動させてくれました。このゲームが、後のゲームに「感動系」というジャンルを植えつけることになったことは十分納得できます。

 色々と語りましたが、感動系としてこのゲームはいつまでも世に残り続ける事と思います。今後もこういったシンプルで爽やかなゲームが増えていって貰いたいものです。


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