M.M 遥かに仰ぎ、麗しの




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 10 8 89 30〜40 2012/2/5
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<共通のテーマを全く違う2つの雰囲気で表現した心温まる作品>

 この「遥かに仰ぎ、麗しの」は、2006年に「PULLTOP」から出されたサウンドノベルです。2006年に出されたサウンドノベルの中でも非常に人気があり、もともとPULLTOPというメーカーの事は知っていただけに是非プレイしてみようと思っていました。実のところ、学園ものでありながらこの人気の高さはちょっと特殊だと思っており果たして何がこの作品をここまでの人気にしているのか気になっていました。結果としては、壮大なシナリオでも泣きを誘う演出でもなく、本当に正当な学園ものというスタイルを丁寧に表現した結果だと思いました。

 この作品の特徴を語るうえで絶対外せない要素としてシナリオライターが2人いるという事です。まあ他のゲームでもシナリオライターが複数いるという事は何ら珍しいことではないのですが、この作品の特徴はこの2人のシナリオライターで雰囲気がガラリと変わる点です。OHPでも説明していますが、この作品のヒロインは全部で6人であり、それを本校系の3人と分校系の3人に分けています。そしてこれがそのままシナリオライターの違いでもあり、作品の雰囲気の違いでもあるわけです。

 もう少し具体的に書きますと、まず主人公の性格が違います。本校系では頭脳明晰で落ち着きのある性格ですが、分校系では諸突猛進で抜けがある性格です。これは多少の違いというレベルではありません。別人と言っても良いと思います。まあ根っこの部分や設定はさすがに同じなのですが、複数のシナリオライターだからといってここまで主人公の性格が違うというのも珍しいと思います。次に視点の違いです。本校系では主人公の視点だけでなくヒロインやその他のキャラクターの視点も多く取り入れ、多角的にキャラクターの心理描写を表現しています。その点分校系では基本的に主人公の視点しかなく、ヒロインの視点は途中に挿入されるあらすじでしか垣間見ることはできません。あとはシナリオですね。当然キャラクターごとにシナリオが違うのは当たり前なのですが、本校系は各ヒロインごとに独立したシナリオで基本的に他のヒロインのシナリオとの相互関係はありません。そして分校系はあらかじめ攻略できるヒロインの順番が決まっており、最終的に3人を攻略することで分校系全体の伏線を回収できるようになっています。

 という訳で本校系と分校系の違いがクッキリと出ており、人によっては別のゲームのような感覚になるかもしれません。そしてこの点がこの作品の評価を大きく分けているところでもあります。やはり主人公の性格に統一性がないのは作品として如何なものかという意見はよく聞きますね。私も先に本校系3人をクリアして分校系を始めたのですが、正直「何だこれは?」と首を傾げたものです。個別にみれば普通に面白いのですが、分校系をクリアした直後には本校系での爽やかな感動が台無しじゃないかと思ったものです。

 ですが、この作品のテーマはハッキリしていました。これは本校系でも分校系でも共通であり、雰囲気は違いましたが最後には心温まるシナリオになってました。後は舞台は同じですしBGMは変わりませんしヒロインの性格に違いはありませんでしたので、ある程度割り切れば総合的に満足のいく内容に仕上がっていると思います。この作品、雰囲気の差はあれど学園ものとしての作り方が非常に丁寧です。上流階級のお嬢様しか入学できない学園の雰囲気は見事でしたし、どのシナリオもヒロイン以外のキャラクターも多数登場し学園らしさを演出しております。この辺りは正統と言わざるを得ません。

 そして、そんな本校系と分校系という雰囲気の違いと正統な学園ものという設定が良い効果を生み、今日の人気の高さにつながっているのかなと思いました。この作品、各キャラクターの魅力というものも非常に大きいのです。というよりも、各キャラクターを魅力的に見せるやり方が上手いといえるかもしれません。とりあえず本校系は本校系、分校系は分校系でそれぞれ魅力があり、いっそのこと同じ世界観という設定の違うゲームとして割り切るくらいが調度よいかもしれません。

 とりあえず、この作品の人気が非常に高い理由は分かりました。どのシナリオをプレイしても心温まること間違いなしです。数多くのサウンドノベルをプレイされている方にはちょっと退屈に思う部分もあるかと思いますが、初めてサウンドノベルをプレイするような心持ちでのんびり進めるのが良いと思います。初心者から熟練者まで、誰にでも進められる作品です。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<お互いを信頼し愛し合い、一緒にいることの大切さ>

 …全てのシナリオを終えてここまで心がほっこりする作品はそうそうないと思いましたね。とにかく正統な学園ものでありキャラクターは魅力的であり、主人公とヒロインの純愛を描いたシナリオは丁寧であり、基本的に文句のつけようがない作品だったと思います。

 この作品のテーマは「お互いを信頼し愛し合い、一緒にいることの大切さ」なのかなと思っています。やんごとなき事情でこの分校に在籍しているヒロインたちと本当の意味で心を通わせるのは難しく、また主人公もトラウマを抱えていましたので最後にお互いを信頼し愛し合うまでに非常に長い時間がかかりました。ですが長い時間がかかったからこそ、最後に2人が結ばれ一緒に学園を離れるエンディングを見たときは心が洗われるようで、いつまでも幸せにいてほしいという気持ちになりました。この作品は、そんな愛し合うものならば誰でも通りような当たり前の恋愛の過程を描いた作品なんだなと思いました。

 それではちょっと細かく見ていこうと思います。まずは本校系ですが、とにかく多重視点で描かれる登場人物の心情の揺れ動きが見事でしたね。シナリオは違いますが基本的に2人が出会って心を通わせ最後に結ばれるという流れです。途中のイベントはそれを盛り上げるだけの要素でしかなく、ただ2人の距離が少しずつ縮んでいく様子を描いているだけです。それなのに退屈せずに最後まで読み切ることができたのは、心情の揺れ動きの表現にプレイヤーの心も掻き毟るようなリアルさがあったからだと思います。それだからこそ最後に2人が結ばれたときは本当に良かったと思え、愛し合う2人というのは一緒にいるだけで幸せになれるんだなーと実感できる内容でした。まさに「完全なる純愛もの」と呼べるシナリオだと思います。

 次に分校系ですが、こっちは本校系ほど登場人物の心理描写はリアルではなく、どちらかといえばお嬢様たちの社会的・政治的な部分を描いたシナリオのほうが印象深かったです。ただ一緒にいたいだけなのに周りの都合でかき回される主人公とヒロイン、ある意味これもプレイヤーの心を掻き毟るようなシナリオでした。まあ、こういった愛し合う2人に襲い掛かる障害とそれを乗り越えるというシナリオはサウンドノベルの中では一般的でありますので、感想的には普通に良かったなーという印象です。それと、3人攻略してそれぞれのシナリオの伏線が回収され1つに繋がるのも良かったですね。この物語性という点では分校系のほうが良かったです。後は、分校系のほうがエロいですね。本校系は結ばれることがゴールでしたが分校系は結ばれた後がシナリオの真骨頂ですので必然的にHシーンの回数も多くなります。まあ、それを差し引いても分校系はエロいですね。特に「シリアナード・レイ」は…。

 とまあこんな感じで本校系・分校系に特徴はありましたが、あくまでも目指すものは愛し合う2人が一緒にいることの大切さなんだろうなと思います。言い方を変えれば、愛し合う2人が一緒にいるためならどんな努力も出来るといった感じでしょうか。そんなある意味当たり前の事をテーマにしながらもそれを丁寧に表現したシナリオは本当に見事で、まさに純愛系ゲームの鏡と呼べると思います。

 その他の要素としては、ネタバレなしでも書きましたがとにかく上流階級のお嬢様学校という雰囲気が見事でした。背景だけでなくキャラクターやBGMも上品であり、本当にお嬢様学校があるのならこんな感じなんだろうなと思うことができました。後は各ヒロインごとのシナリオに行ってもその他のキャラクターの掛け合いが面白く、キャラクターの性格をおさえたやり取りはまさしく学園ものという印象バッチリでした。

 そして私の中で地味にこの作品を印象付けた要素がエンディング付近で流れる「夜明けを運ぶ風」という曲ですね。この作品、お嬢様学校という事もありBGMはどれも大人しめて上品なものが多いです。ですがこの「夜明けを運ぶ風」はそんなことはなくビートを刻んだどちらかといえばヒップホップ系な曲です。そういう意味では異色ではあるんですけど、最終的に家柄だとかそんな縛りを取っ払って愛し合う2人が一緒になるというエンディングを表現する意味でこの異色な曲の持つ破壊力は思いのほか大きく、私の中で最高の演出だと思いました。曲調も私好みでしたし、もうこの曲を聴くためにシナリオを進めた部分も否定できませんね。

 まとめます。あらゆる要素が高レベルでまとまった雰囲気はお嬢様学校を印象付けるのに十分でした。その中で描かれる「お互いを信頼し愛し合い、一緒にいることの大切さ」というテーマは当たり前でありながら純粋であり、心が洗われるシナリオに仕上がってました。誰にでも広く進められる作品だと思います。ありがとうございました。


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