M.M かみさまの棺




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 9 - 83 2〜3 2019/11/13
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体験版



<サイコな演出が際立っておりますが、それによって描かれるBLは至高の美しさがあります。>

 この「かみさまの棺」は同人ゲームサークルである「cream△」で制作されたビジュアルノベルです。cream△さんの作品をプレイしたのは今作が初めてで、切っ掛けはC96の1日目に女性向け同人ゲーム島サークルを回った事です。C96は1日目に女性向けの同人ビジュアルノベル、4日目にオールジャンルの同人ビジュアルノベルが配置されるという事でどちらも私にとっては本命でした。特に今回は1日目の女性向け同人ビジュアルノベルに気になるサークルさんが幾つかありましたので、いつも以上に注意して見て回ってました。そんな中で手に取らせて頂いたのが今回レビューしている「かみさまの棺」です。4日目に手に取らせて頂きましたが、可愛らしい男性キャラクターによるBL×サイコホラーという事で女性向けです。あまり自分が触らないジャンルではありましたら雰囲気が気になりプレイしてみました。それが正解でした。

 主人公である知花ミチルは、人見知りで他人と関わるのが苦手な性格です。クラスに友達はおらず、孤独な毎日を送っておりました。それでもそんなミチルに声を掛けてくれるクラスメイトの切止笑太郎や、ミチルの家庭教師をしてくれる七科征花など、全く人付き合いがない訳ではありませんでした。そんな彼らと触れあっていく中で、少しずつミチルも言葉を交わすようになり何も楽しみが無い学校生活に楽しみを見出せるようになってきました。ですが、そんな学校生活が突然の事件で幕を下ろすのです。それは隕石の襲来、気が付けばミチルはこの世とは思えない謎の空間にたどり着いていました。外を見れば宇宙空間、そして残されたのはミチルとかつてのクラスメイトであった七科廻でした。そして廻は自分の事をかみさまになったと言いました。成りたてのかみさまと一人の人間による、自分を見つめなおす物語が幕を開けるのです。

 この作品はBL×サイコホラーとなっております。BLにつきましては、登場人物がほぼ全員男という事ですんなりと受け入れられると思います。むしろ、それ以上にサイコの部分がとても強い作品だと思いました。物語開始時の隕石衝突はサイコどころかファンタジーを想像させるのですが、その後の謎の空間での行動や演出が完全にサイコでした。謎の空間というよりも謎の家なのですが、とある部屋を開けたらそこには腐乱臭と肉の様な物体で構成されていたり、お風呂に入っていたら突然血に覆われる演出があったりと、何度もビックリする場面がありました。それが見た目の演出だけではなく効果音やBGMも総合的に活用して作っているのです。ここまでセンスを感じる演出も中々見る事はありませんね。このハラハラ感だけで十分楽しめると思います。

 そして、登場人物が皆整っていて可愛いですね。主人公は人見知りな性格ですが、金髪で癖っ毛な出で立ちはどこか母性本能を擽るものがあります。かみさまになった廻も、線の細さとボブカットの様な髪型と何よりも目の下にあるほくろがとても可愛いです。こんな2人によるBLなのでしょうか、いやそんな単純なものではありません。クラスメイトの切止笑太郎や家庭教師の七科征花もまた、男らしさがありながらもどこか影があるような出で立ちをしております。ある意味廻よりもずっとミチルに近い立ち位置で関わっていた2人ですので、何もないはずがありませんね。どのようなBLになるのか、そしてサイコの本当の意味は何なのか、是非目を離さず最後まで読んでみて下さい。

 プレイ時間は私で2時間45分くらいでした。この作品は選択肢があり、幾つものエンディングが用意されております。選択肢はここぞという場面で適切に用意されており、恐らくどのプレイヤーの方も悩む事になると思います。逆に言えば、プレイヤーが見てみたいエンディングに誘導する事はそれ程難しくはありません。完全クリアに周回プレイは必須ですので、目標を以って一貫して選択肢を選んでみて下さい。とりあえず製作者が想定しているTRUE END相当のものはありますが、どのエンディングも味があって考えさせられる物ばかりでした。是非コンプリートして改めて登場人物達に想いを馳せて欲しいです。サイコな演出が際立ってますが、振り返ればサイコ以上に尊い内容だったと思っております。楽しかったですしBLを読みたくなる切っ掛けになる作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<好きと愛するは明確に違う、それを履き違えたからこの悲劇は起こってしまった。>

 最後までプレイして、私は正直彼らは何故相手を求めたのだろうと不思議に思いました。好きになったから、きっとそれは正しいと思います。ですがそれ以上に自分がこの人がいないと駄目になるという気持ちが強かったのではないかと思います。それは純粋な好きとは違う感情、どこかで歯車がズレてしまったんですね。

 私も年齢が年齢ですので、ここ最近好きとか嫌いとか愛するとか結婚とかといった事を考えてしまいます。好きと愛するは、自分は真逆の気持ちだと思っております。好きは自分が主体、愛するは相手が主体だと考えております。好きになるのは割と簡単です。人でも物でも何でも良いですけど、好きか嫌いかと自分に問いかけて好き側に傾けはそれは全て好きになります。好きな人を言って下さいと言われれば、もう何人の名前が出るか分かりませんね。自分が出会った人の半数は、最低でも好きなのですから。

 ですけど愛するとなるとそう簡単には行きません。何故なら、自分の思う通りとか予想通りに相手が振る舞わなくても相手の幸せを願う気持ちを持ち続ける必要があるからです。例えば、あなたに好きな人がいたとしてその人に恋人がいたとします。その時あなたは恋人がいて幸せそうなその人にどのような感情を持つでしょうか。嫉妬だとしたら、好きなんでしょうね。幸せになってねと心から思えれば、それはきっと愛しているという事なんだろうと思います。愛するって中々難しいですけどね。そしてその愛する気持ちが双方向に持っている事を確認できた人が、一番結婚に向いているのだろうと思います。本当、世の中の結婚している人たちが羨ましいです。愛し愛される人を見つけたのですから。

 唐突に何故こんな話をしたのかと言いますと、この作品の登場人物には誰一人相手を愛している人はいなかったからです。笑太郎は、ミチルの首にキスマークがある事に逆上して無理やり行為に及ぼうとしました。ミチルにそういう行為をするのは自分でないと許せない、そんな気持ちが根底にあったのだと思います。征花もまた、ミチルを愛していると思い込んで2人だけの楽園を造ろうとしました。ですが、そこにミチルの気持ちを考える余地はありませんでした。ミチルが自分の事を愛してくれなかったら力ずくでも愛させる、それがあの洗脳されたミチルと征花の姿だったのだと思います。笑太郎も征花も自分の都合ばかり、ただミチルの事が好きでその気持ちが大きすぎただけだったのです。

 ただ、その気持ちも分かるんですよね。人を好きになる愛するという気持ちと同時に誰もが向き合わなければいけない気持ちに孤独があると思います。寂しさと言い換えても良いかも知れません。人は一人では生きていけません。それは、衣食住が満たされないという事ではなく人間的な生活が出来ないという事です。誰でも良いから社会との繋がりが欲しい、これもまた人間らしい当たり前の感情だと思います。もしかしたら、笑太郎も征花も一人になるのが怖いからミチルを束縛しようとしたのかも知れませんね。どれだけ社会から切り離されても、ミチルがいれば少なくとも一人ではありませんもの。人が結婚する理由に寂しいからという事も結構多くあると聞きます。ですが果たしてパートナーが寂しさを埋める存在でなくなったらどうするのかと思います。少なくとも、ミチルは笑太郎も征花も愛していないのですから。

 この作品はサイコな演出がとても効果的でセンスがあります。人を殺す様子やセリフ回しを感じるのもまた楽しみ方だと思います。私の場合は、なぜ人を殺したり傷つけたりしてまでミチルと一緒になりたいのかという事を想像してみました。結局のところ、最終的に2人が幸せになれればそれで良いんですけどね。ミチルと征花が抱き合って終わる恋人ENDなんて至高だと思います。BAD ENDに思っているのは外野だけ、本人たちがHAPPY ENDだと思っていればそれで良いのです。TRUE END相当である共存ENDが一番きれいな終わり方に思えましたが、どうも廻にも何やら邪悪な想いがあるのかも知れません。それでも、初めてミチルから会いたかったとセリフが出たのです。形の上ではミチルと廻は相思相愛です。後は、これがバランスよく続けば良いですがたぶんそうはいかないのでしょうね。続きがあるようでしたら是非読んでみたいと思います。ありがとうございました。


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