M.M 万華鏡ステラ
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 8 | 7 | 79 | 2〜3 | 2019/3/10 |
作品ページ | サークルページ | 体験版 |
<何も持たないあなたが突然地球を救う使命を持たされた時、どのように振る舞いますか?>
この「万華鏡ステラ(読み方はカレイドステラ)」は同人サークルである「CHARON(読み方はカロン)」で制作されたビジュアルノベルです。CHARONさんに初めてお会いしたのはC95で同人ゲームの島サークルを回っている時でした。私は基本的にコミケで同人ビジュアルノベルの島サークルを周るときは全てをなぞるように周ります。そういう意味で、細かいサークルチェックはあまり行っておらず割と自分のフィーリングと勘で選んでいたりします。そんな時、このCHARONさんのスペースに長蛇の列が出来ているのを見つけてしまいました。正直、C95まで存じてなかったのですがこれだけ人が集まるのであればきっと有名なのだろうと思い、私も勢いで列に並びました。その時に購入したのが今回レビューしている万華鏡ステラです。私の好きそうなジャンルでもありましたので、楽しみに思いプレイ始めました。
主人公である星海マナコはどこにでもる普通の高校生です。マナコは少しだけコミュニケーションが苦手で、残り一週間で終わる夏休みと新学期が始まる事に不安を覚えておりました。そんなマナコが住む街に、ある日突然UFOが落ちてきました。妹の星海メメと一緒にその現場を見に行ったのですが、いるのはマスコミとヤジウマばかりで何も見る事が出来ません。まあそんなものだろうと帰ろうとしたら、目の前に民族衣装を着た倒れている女性が居ました。彼女を家に連れて帰り解放し、そしてその口からとんでもない事を聴かされるのです。「この地球はあと1週間で滅びます」「それを救えるのはあなた様しかいません」普通の夏休みから一変、地球を救う使命を背負った終末の物語が幕を開けます。
普通の人間だった主人公が突然地球を救う使命を背負う、まるで最近流行りのなろう系のようなプロットに見えてしまいます。ですが、この作品の主人公はなろう系のように突然力に目覚めたり、自分に自信があったり、主人公補正があったりする訳ではありません。あくまでその姿は等身大の高校生です。というよりも、等身大の高校生よりも少しだけコミュニケーションが苦手ですので、心底自分が地球を救う使命を背負う事を嫌っております。それでも、周りの人の後押しや期待に応えようと彼なりに精一杯考えてミッションをこなしていくのです。そんな、主人公マナコの成長物語だなとプレイして自分は思いました。地球が滅びるまで1週間しかないというこの短い間に何が出来るのか、そしてその先に何が待っているのかを是非見届けて下さい。何か、ジンワリと心に残るものがあると思います。
そして、万華鏡ステラのタイトルの通りこの作品と星は切っても切る事が出来ません。UFOが登場し地球の命運を背負う物語です、時には空を見上げて助けを求めたくなると思います。それでも空に浮かぶ星たちはただ輝くのみ。そんな途方もないスケール感を、背景やBGMで丁寧に表現しております。星空のスチルは流石枚数が多く、その時の心理状態でこんなにも見え方が違うんだなという事に気付かせる演出に思いました。BGMは全てオリジナルであり、アコースティックギターやハープなどの弦楽器をメインとしたクラシカルな曲が多いです。そして、個人的に物語終盤に流れるKaleido of meteorsという曲が大変気に入ってしまいました。シナリオの盛り上がりとも重なり、何度も聴いてしまいます。女性キャラクターフルボイスでありボーカル曲もあり、大変力を入れて制作された事が伝わりました。
注意点が一つあります。この作品は選択肢の数が大変多いです。一つ一つセーブを取ってフラグ管理をしようと思っても圧倒的にセーブ数が足りません。ですが実際にフラグに関わる選択肢はほんの一握りしかありませんし、それもプレイしていればすぐに分かります。個人的に、この選択肢の多さはマイナス要素かなと思いました。何故なら、殆どの選択肢がどちらも同じ様な文言だからです。言ってしまえば、選択肢にする必要性が無いのです。選択するという事は多少なりともプレイヤーの意思を反映させるという事です。ですが、選ぶものがどちらも同じではプレイヤーの意思など関係ありません。そうであるのなら、多少は選択肢を削減しても良いのではないかと思いました。特に私の様に細かくメモを取る人にとってはダイレクトにプレイするテンポにも関わりますからね。
プレイ時間は私で2時間50分くらいでした。これは全てのスチルを見るまでの時間です。この作品はBADENDも幾つかありますか、大筋からそこまで逸れませんので基本的にはメインのエンディングを目指してプレイしていけば良いと思います。プレイを進めていく中で、少しずつ登場人物が増えていきます。そして、そんな登場人物に関わっていく中で主人公が目指す物がハッキリしていきます。最終的に地球を救うことは出来るのか、終末の果てに何が待っているのか、主人公はどんな決断をしなければいけないのか、そんな事を想像しながら読んでみて下さい。オススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<人は人で他人は他人、それを貫き通す事のなんと孤高で尊い事か。>
最後までプレイして振り返ってみますと、割と様々な要素が詰め込まれたシナリオだったなと思っております。孤独とは何か、正義とは何か、死とは何か、そんな人生において逃れる事が出来ない事柄についてそれぞれがそれぞれの立場で精一杯考えておりました。そして、そこから逃げずに考え抜く事が最終的に地球を救う事に繋がったのかなと思っております。
この作品の根底には「人は人、他人は他人」という基本スタンスが流れていると思いました。ABAというFPSに夢中になり引きこもりの生活を送っていた引篭リコ子、別に引きこもりだからといって誰かに迷惑を掛けていなければ何も問題ないと思いますし鑑賞するべきではないと思います。そこを他人が勝手に正義を振りかざすから、制裁を喰らうんですね。干渉するのであれば相手と同じ土俵に乗ってから、これはリコ子に限らず他の誰とコミュニケーションをとる時も同じだと思いました。人は人で他人は他人、だからこそ人との距離を詰めるのは難しく一生懸命その方法を考えるのだと思います。
姫路マホリなんてその典型でした。彼女は自分の正義を盲信し他人の正義などに耳を貸しませんでした。そういうスタンスなのですから、初めからマナコも自分の正義に従って行動する事が正解でした。話し合いをしようというのは一見正しそうに見えますし平和的に見えます。ですが、結局のところそれも他人目線です。当の本人がそれを望んでいなければ、後はそれに従って相手の土俵に乗ってやるだけでした。だからこそ、マホリはいきなり殺されても文句を言わなかったのだと思います。きっと、こうなる事を薄々覚悟していたのではないでしょうか。だからこそ、目の前に死を意識して周りの人が自分を慕っている様子を見て、悪魔ではなく天使がほほ笑んだのだと思います。人を殺すのは罪ですが、結局のところそれも他人が決めたルールですからね。
では、人は基本的に自分の正義に従い信念の通りに行動すればそれで良いのでしょうか。そうではありませんでした。何故なら、マナコの背中には何億という人間の運命が掛かっていたからです。人は人で他人は他人、これはあくまで迷惑を掛けなければの話だと思います。これが他人に迷惑を掛ける信念であれば、そんなものは信念ではなくワガママです。地球を救うのか火星を救うのか、ミラを救うのか救わないのか、そんな重い決断をマナコはしなければいけませんでした。きっと、どちらを選んでも正解や不正解ではないのだと思います。それでも、どちらを選んでも犠牲は出てしまいます。だからこそ考えるんです。短絡的に自分の信念や正義に従うのではなく、相手の気持ちを考えて本当に大切な物を見定めて決断するのだと思います。
よくよく考えれば、正義を貫く事ほど孤独に近づく事も無いのではないかと思いました。自分と同じ人は絶対にいませんので、自分の正義を貫いた先は絶対に一人です。もしかしたら、この作品で言っている「孤独と戦え」とは「自分の正義に負けるな」という事なのかも知れません。自分が悪い事をしていないと自信があるのならそれを曲げる必要は無い、これ程現代社会にとってエールになる言葉はありませんね。TRUEENDにて、マナコは夏休みが終わったいつもの日常に戻りました。きっと、クラスメイトから謂れのない視線を向けられるのだと思います。それでも、きっと今のマナコなら大丈夫ですね。ちゃんと自分で自分に向き合い自分で決断するという経験をしたのですから。今となっては夢物語の様な一週間でしたが、マナコにとって掛け替えのない時間になったのだろうと思っております。ありがとうございました。