M.M 時空改札のフェアリーテイル




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 5 6 73 4〜5 2016/8/2
作品ページ サークルページ
(作品ページと同様)



<時空改札という言葉から大いに妄想して頂き、思春期らしい行動に大いにこそばゆさを覚えてください。>

 この「時空改札のフェアリーテイル」という作品は同人サークルである「みらいチューン」で制作されたビジュアルノベルです。みらいチューンさんの作品をプレイしたのはこれが初めてでして、C89で同人ゲームサークルの島を回っているときに手に取らせて頂きました。一目見て爽やかな印象を覚えるパッケージ、可愛らしい登場人物、そして時空をめぐる現代ファンタジーという事で心地よくも読み応えのあるボーイミーツガールかなという第一印象でした。実際にプレイしてみて、印象通りの雰囲気であった事は勿論それ以上に思春期特有の男女の心の触れ合いがこそばゆい内容でした。

 主人公である「苅安賀セト」はどこにでもいる普通の高校生です。愛知県のちょっと田舎に住んでおり、優しい姉と元気の良い妹と弟、そして親友でありクラスメイトである「梅須賀つくで」に囲まれて平凡ながらも幸せな日常を過ごしておりました。そんなある日、いつもの通りつくでと一緒に下校していると一人の時代錯誤な格好をした少女が地元の神社に駆けていく姿を目撃しました。普段であれば気にしない光景。ですが何故かその姿が気になったセトはその少女を求めて神社の中で。そこでセトはまるで天使のような白に包まれた少女「萩原サヤ」と出会い、それが時空をも超えた物語の始まりの合図だったのです。

 時空改札という言葉を聞いてどのような印象を持つでしょうか。よく分からないけど時を越えるシナリオなのかな?改札だから電車が出るのかな?改札っていうのはあくまで比喩で、何かの出発点とかスタートとかっていう意味なのかな?とりあえず私はそんな印象を持ちました。実際タイトルロゴには線路のマークが書かれておりますし、パッケージでも登場人物たちはどこか駅のホームに立っております。そしてあらすじを読みますと、予想通り時を超えて人を運ぶ「時空列車」というものが登場するようです。これでヒロインのうち何人かは間違いなく時を越えている事が想像できます。ではそのヒロインは何故時を越えるのでしょうか?時空列車とはそんなに頻繁に走っているものなのでしょうか?自分も時空列車に乗って未来や過去へ行けるのでしょうか?プレイ前から幾つもの妄想が広がり、取っ掛りの良さを感じました。

 一番の魅力は登場人物たちの言動や行動だと思いました。セトは16歳の高校一年生という事で、まさに思春期のど真ん中にいます。女の子を見れば見境なくドキドキしてしまいますし、かと言ってそれを悟られるのが恥ずかしいので面と向かって会話をする事が出来ません。素直になるのが一番苦手な年頃ですね。ですがそれはセトだけではなく他のみんなも同様です。思春期らしい大人と子供の狭間で揺れ動く気持ちは、時に衝突したり時に空回りしたりとハラハラさせられます。ですがそれは私たちも同様に通過した道。こそばゆさを覚えながらも懐かしい気持ちにさせてくれます。ましてや彼らは時を超えているのです。それだけ秘めた想いが有り、成し遂げたいことがあります。思春期の不安定な心に課せられた重荷は何なのでしょうか。是非当時の淡い気持ちを思い出しながらプレイして欲しいですね。

 他にも注目するべき点として、所々で積極的に愛知県をPRしております。セト達が住んでいる田舎は森下という地名であり、これは愛知県に実在する名称です。他にも養老山脈や木曽川などの地名が頻繁に登場します。そしてセトが登下校している通り道や学校の外観、そして運命の出会いをする神社などは全て実際の風景を加工して使用しております。加えてセトが住んでいる田舎のみならず、名古屋市など中心街の風景も幾つかあります。個人的に多いなと思ったのは鉄道関係の写真でした。時空改札というタイトルにある通り、駅のホームや発車標、実際の電車や座席などその種類は非常に多いです。恐らく登場人物達が歩いた軌跡を追おうと思えば追えるのかなと思っております。聖地巡礼したくなる内容だと思いましたし、地元を愛する気持ちを感じました。

 プレイ時間ですが私で4時間20分程度かかりました。注意点としまして、この作品には修正パッチがあります。修正パッチを当てないと途中フリーズしたり、何よりも一部のルートを解禁出来ませんので充てること必須です。選択肢はそれ程難しくはないと思います。数もそこまで多くはありませんので、是非メインのエンディングは見て欲しいですね。何よりもこの作品はエンディング毎にボーカル曲が違います。各キャラクターをイメージしたものとなっておりますので、是非全ての曲を聴いて欲しいと思いました。調度季節も夏の作品ですので、この作品を通じて是非夏の田舎の雰囲気を堪能してみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<絆を信じ自分が根を下ろしたいと願った場所を目指して、今日も時空列車は走り続けるのです。>

 もし目の前に時空列車が停車していたら、そしてあなたの手に過去や未来への片道切符を持っていたら、果たして乗るでしょうか。自分だったら恐らく乗らないと思います。それはこの現代でやりたい事があるからです。逆に言えば過去や未来に希望や夢を持っていたとしたら、なりふり構わず時空列車に乗っていたかも知れません。この物語は可能性の物語。そして夢や希望を追いかけ絆を信じる事の大切さをテーマとしたものかなと思いました。

 地球温暖化が進行し海底火山が噴火した事で海底が5メートルも上昇してしまった未来の地球。過去におじいちゃんと見に行った懐かしい景色は無くなり加えて両親からの暴力に耐える日々を送っていたさおりとこまきにとって、もはや未来を生きる事に意味など持っていなかったんですね。それでも過去へ行くという事はこれまでいた時空に戻れる保証がないということです。作中でも「永遠の家出」と言ってましたが本当その通りだと思いました。もう帰れないんです。両親に会おうと思っても会えないんです。でも未練はありませんでした。遺伝子で結ばれた絆を信じ欠けた愛情を取り戻す壮大な家出は、苅安賀家という居場所にたどり着きました。やっと根を下ろす事が出来たんですね。ここからはさおりとこまきの人生がリスタートします。

 同じく未来から来たつみきもまた不安を抱えておりました。高校に通っても一人ぼっちの日々、それでもお世話になった時折空符の下で雑用係として仕事をする日々でした。そんなつみきに初めて話しかけたのが他ならぬセトでした。この時から彼女はセトの事を信頼していたんですね。この人なら自分の事を受け入れてくれると。男として振舞っていた彼女が女である事を告白するのは時間の問題でした。時を越えてきた事を告白するのも時間の問題でした。学校のプールに夜忍び込んだ時、つみきは「心の夜明け」と言っておりました。ずっと不安を抱えていた彼女もまた、この時ようやくセトの隣に根を下ろす事が出来たのかなと思っております。

 そして彼らとは逆に過去から来たサヤ。彼女が生きる時代は第二次世界大戦真っ只中でした。食べ物は不足し、自由に恋愛する事も出来ませんでした。それでも許嫁として決められた相手を愛そうと決めました。でもそんな許嫁相手も徴兵されるという運命。悲しみにしか包まれていない時代に、既に未練など無かったのかも知れません。サヤの許嫁とセトの顔が似ていたのは偶然でしょうか。恐らくもしサヤが現代へと来なければ、この許嫁相手と結婚しその子孫としてセトが生まれたと思います。まさに運命であり遺伝子で結ばれた絆と言わざるを得ません。それを感じたからこそサヤもまたセトの事を信頼し好きになったのだと思います。彼女もまた、最終的にセトの隣へと根を下ろす事が出来ました。

 それにしても、さおり、こまき、つみき、サヤと全てセトの血縁関係になっている人物が一堂に会したのは本当に偶然だったのでしょうか。思うに、これこそが時空列車が成し得た奇跡と絆の力なのかなと思っております。時空列車はそれぞれの時代に停車する各駅列車という訳ではないようです。むしろ100年単位で飛び越す快速列車が当たり前であり、同じダイヤで走る列車は125年先でないと来ません。セトがたった1人と出会えただけでも奇跡なのにそれが4人同時ですからね。偶然ではありません。セトを巡る遺伝子の絆に、時空列車が応えたのです。それを感じたからこそ時折空符もまた彼らを見守り協力したのかなと思っております。まさにフェアリーテイル。絆を信じ自分が根を下ろしたいと願った場所を目指して、時空列車は走り続けるのです。

 誰もが元居た時代へと帰る選択肢を持っておりました。でも誰一人として帰りませんでした。それは全員がセトのいるこの時代へと根を下ろしたからです。これが彼らの夢の終わり。そして新しい人生のスタートでした。もしかしたらもう彼らの元に時空列車は来ないかも知れませんね。時折空符は顔を出すかも知れませんけど、切符は無いのでしょう。それでも時空列車は走り続けます。彼ら以外にも遺伝子の絆を信じ夢を追いかけている人は沢山いるのですから。全ての人を救う事はきっと出来ないと思います。それでも可能性がゼロでないのであれば、是非皆さんも時空列車を求め、ここではない時代へと足を踏み出してみては如何でしょうか。ありがとうございました。


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