M.M 少女と罪 栞編 〜jalouse〜
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 8 | 7 | 79 | 1〜2 | 2020/6/7 |
作品ページ (サークルページと同じ R-18注意) |
サークルページ (R-18注意) |
体験版 全年齢版 パッチ |
<シナリオを読み進めるというよりは、雰囲気を感じ尽くす方がよりこの作品の魅力を感じられるかも知れません。>
この「少女と罪 栞編 〜jalouse〜」という作品は、同人サークルである「PurePurple」で制作されたビジュアルノベルです。本作はPurePurpleさんの処女作であり、C97にて島サークルを回っている時に手に取らせて頂きました。パッケージを一目見て、完璧に雰囲気を作っているなと思いました。水色や若草色といった淡い色で全体をコーティングしており、その中心でお嬢さま座りをした女の子2人が悲しげな表情をして佇んでおります。これだけでこの作品は百合である事が分かり、この2人の行く末が単純なものではないという事が分かります。裏を見れば幾つかのスチルと簡単なあらすじと人物紹介、やはり百合をテーマにした物語でした。そして個人的に注目したのは作曲担当の光田氏と主題歌担当のnayuta氏の名前でした。光田氏はMusicPandoraという音楽サークルで楽曲を制作しており、私もM3等のイベントで毎回手に取らせて頂いております。nayuta氏も同様で7uta.comというサークルでボーカル曲を制作しており、M3やコミケのイベントで必ずと言って良いほど新作を予約しております。どちらもピアノを中心とした柔らかい音色を奏で、全ての要素でこの作品の雰囲気を作っていると確信しました。何か美しいものが待っている期待と共に、プレイし始めました。
主人公である草壁栞は、この春にお嬢さま学校である聖純女学院に入学します。引っ込み思案だった栞はこの入学を切っ掛けに何かを変える事が出来ればと思っておりました。ですが聖純女学院は全寮制であり、親元を離れなければいけません。頭では分かっていても不安を隠せない栞、そんな少し憂鬱な気持ちで聖純女学院がある長野県K町に向かっておりました。聖純女学院に到着し荷物を運び出す栞、そこに手を差し伸べてくれた女の子がいました。その子の名前は茅ヶ崎美姫、何と偶然にも栞と美姫は聖純女学院の寮で相部屋となったのです。自分に優しくしてくれた美姫、栞の学園生活は順調に思えました。ですが引っ込み思案も栞に対して美姫はとてもアクティブ、どんどん新しい友達が出来そんな美姫に嫉妬していました。そしてつい心無い言葉を行ってしまった栞、美姫と疎遠になってしまった栞はこの学園に伝わるとある言い伝えに縋ります。それは、願いを叶えてくれるマリア様の言い伝え。ですが願いには代償が伴う事を栞は知りませんでした。これは欲望と代償の物語です。2人の未来はどうなるのでしょうか。
冒頭話しましたが、とにかく柔らかい雰囲気が素敵でした。光田氏が奏でるピアノを中心とした楽曲の中で、栞と美姫を中心とした学園生活が描かれております。背景は全てオリジナルであり、本当にこの学園が存在するような感覚を覚えました。何よりも凄かったのは、全テキストがフルボイスだったという事です。これは登場人物だけではなく、地の文全てにナレーションが付いております。非常に制作に時間を掛けている事を感じました。まるで箱庭の中にいるような感覚でした。自分でそこまで積極的にクリックしなくても物語が流れてくれるのですから。スチルの枚数も非常に多く、特に重要な場面では必ず専用のスチルが登場します。ビジュアルノベルらしさを良く活用しており、読んでいてとても心地よかったです。システムはUnityという事で非アクティブ時にはストップします。スキップなど行う時は少し注意が必要です。
そしてシナリオですが、あらすじの通り登場人物の心理描写を丁寧に描いたものとなっております。引っ込み思案だけども友達が欲しい栞、そしてそんな自分の理想を体現したような存在の美姫、まるで光と影のような関係に思えました。人間、なかなか自分と性格が違う人の気持ちを察するのは難しいものです。栞は美姫のアクティブな行動に嫉妬してしまいますが、美姫にとっては何故そんな事で栞が嫉妬するのか分かりません。そんなちぐはぐなすれ違いに苦しむ事になります。そして、この作品はR-18です。すれ違った状態で栞は美姫の別の一面を見てしまいました。友達になりたいという気持ちに合わせて生まれてしまった新しい気持ち、そんな思春期の少女らしい振る舞いがとても印象的です。物語の重要なファクターとなっているマリア様の願いは2人の関係をどのように変えていくのでしょうか。栞は自分の願いを叶える事が出来るのでしょうか。是非自分だったらどうするだろうと考え乍ら読んで頂ければと思います。
プレイ時間は私で1時間10分でした。選択肢はなく1本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。パッケージには3.5時間と書かれておりましたが、これは恐らく全てのボイスを聴いた時間だと思います。普通にクリックして読んでいたら1時間と少しのプレイ時間で終えてしまいました。そういう意味で、お時間ある方はAUTOでプレイしても良いかも知れません。元々箱庭のような美しい世界観が魅力の作品ですので、ボーっと彼女たちの軌跡を見届けるのも有りだと思いました。シナリオを読み進めるというよりは、雰囲気を感じ尽くす方がよりこの作品の魅力を感じられるかも知れません。そしてタイトルに「栞編」と書かれております。つまり、続編があるという事です。それでもこの段階でしっかりと物語が収束しておりますのでプレイしても問題ありません。むしろ続編が楽しみになりましたので、是非積極的にプレイする事をオススメします。久しぶりに美しい世界を楽しませて頂きました。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<寂しいのはお互い様ですからね、自分から行動したらそれは割と成功すると思います。>
最後まで読んで、とても読後感の良い作品だと思いました。友達を作りたい栞、でも自分のコンプレックスで距離が空いてしまった栞、そしてマリア様に縋り偽りの友情を手に入れた栞、代償を実感し絶望する栞、そして最後にマリア様の祈りを断ち切り自分の力で友情を引き寄せた栞、確かな成長を感じる事が出来ました。もう彼女は大丈夫ですね。自分の力で道を切り開く事が出来ると思いました。
寂しいという感情は、きっと人間であれば誰もが向き合わなければいけない感情だと思っております。孤独と言い換えても良いかも知れません。自分という存在を認知するには、どうしても他人の視点が必要ですからね。誰かに認知されないと自分という存在は確立できない、この事が多くの人を悩ませ苦しめていると思います。実際のところ、繋がりなんて何でも良いんだと思います。仕事の付き合いだったり、趣味の付き合いだったり、SNSの付き合いだったり、結婚だったり、とにかくどこかで誰かと繋がっている事が実感出来ればそれで良いんだと思います。多くを求める事は割と贅沢なんじゃないかと最近思います。本当に会話が出来る数人の方が居れば十分だと思うようになってきました。必ず最後は1人で死にますからね、その瞬間まで傍にいる人がいる事はとても幸せな事だと思っております。
ですが、まだ学生であり引っ込み思案な栞はそう思う事は出来ませんでした。友達がいない事は良くない事であり、ましてや誰かに嫌われるなんて絶対に避けなければいけない事だと思っております。だからこそ、初めての土地で初めての一人暮らしのなかで偶然出会えた美姫の事を失う訳には行きませんでした。他の友達と仲良く話す美姫に心にもない事を言ったのは、美姫に自分を見て欲しいという想いの裏返しでした。結果として美姫に愛想をつかされてしまいました。そんな栞が出会ったのは猫であるミキ、動物は基本的に素直ですからね。人間みたいに小賢しい事を考える事はありません。寂しい栞にとって、ミキは一番の友達になっておりました。ですが、栞は人間ですのでどうしても人間らしい営みを望んでしまいます。それが、美姫と誰かの情事の場面でした。猫のミキでは満足できない、そんな気持ちからマリア様の呪いに手を出してしまいました。
すっかり親友になる事が出来た栞と美姫、そうであるのならもう猫のミキは必要ありませんね。願いが叶った代償として、猫のミキは衰弱しその命の灯火が消えようとしておりました。栞は分かっていたはずでした。自分の我が儘で、一つの命をもてあそんでしまったという事を。自分から積極的に行動するでもなく神頼みしか出来ない栞、だからこそシスターは怒ったのだと思います。意図せずともミキを死に追いやったのは栞、それが分かっているからこそ栞は夜中に4kmも離れた動物病院に向かいました。ですが無情にも病院は臨時休業、もう栞に出来る事はないと思っておりました。それでも、栞は死にたくないと思っておりました。まだ自分で何も成していない、そんな思いで再び教会へと戻りました。シスターもそんな自分の意志で行動しようとする気持ちを察したのでしょう。少し前とは打って変わって穏やかな表情でした。マリア様の呪いが無くなり、ミキは元気になり、美姫とは元通り。今度は栞が自分の力で美姫と友達になる番です。寂しいと思ったら自分で寂しくなくなる努力をする必要があります。その事に気付けたときが、この物語の終わりの時でした。
案外、踏み出してみたら上手くいく事ってあると思います。その理由は、大体は自分一人でやらないといけないという思い込みだと思うんです。世の中は意外と優しいですし勝手に回ってますからね。今回の栞のイメチェンは、むしろ頑張り過ぎた方かも知れません。勿論効果覿面で、美姫だけではなく沢山の人と仲良くなる切っ掛けになりました。寂しいと思ったら自分から行動する、これは殆ど間違いないと思っております。そしてそれは割と成功すると思います。お互い様ですからね、寂しいと思っているのは自分だけではないという事です。栞にとっての一歩はもしかしたら他の人にとっては小さな一歩かも知れませんが、とても勇気がいる確かな一歩だったと思っております。そんな節目が、きっと人生には必要ですしタイミングが現れるのだろうなと思いました。続編も楽しみにしております。ありがとうございました。