M.M いたいけな彼女




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 8 8 75 10〜15 2011/1/19
作品ページ(なし) ブランドページ(R-18注意)



<「偏愛」を描く為の妥協しないシナリオ>

 この「いたいけな彼女」は、老舗のブランドである「ZERO」から出されたいわゆる「偏愛」をテーマにしたサウンドノベルです。ZEROと言えば「はじめてのおいしゃさん」「はじめてのおるすばん」と言った超ロリ作品を始めとしたユーザーの要望に強く答えた極端な作品を提供することで有名ですが、そんな作品群の中でひと際異彩を放っていたのが本作です。殆どの作品が「性癖」で差別化を図っていたのに対してこの作品は「シナリオ」で差別化を図っています。ZEROのゲームの中でもひと際評価が高い事もあり、果たしてZEROがシナリオで本気を出すとどうなるか知りたくてプレイしてみました。結果ですが、エッチシーンやシチュエーションに妥協しない一貫した作品だと思いました。

 「いたいけ」とは「かわいく幼いさま」と言う意味の形容動詞です。その名の通りヒロインである「七瀬ほのか」の容姿は幼く、それでいて主人公の命令には順応というかわいらしさも兼ね備えています。まさに「いたいけ」です。そしてそれ以上に主人公とヒロインには特徴的な性格があります。主人公は「他人を信用しておらず自分の言いなりでないと我慢できない」性格であり、ヒロインは「他人から命令されると安心し命令される事で幸福感を感じる」性格です。まるでパズルのピースが完全にフィットするかのような関係です。この歪んだ関係が2人の恋愛を進めていきます。

 まず話しておきますが、OHPの紹介を見ても分かります通り決して「明るい」雰囲気ではありません。いじめられっ子のヒロインといじめっ子の主人公です。加えてどんなありえないシチュエーションでも確実に絵にしていくZEROです。どんなシーンが待っているかはなんとなく想像できると思います。そういう意味でいじめや凌辱といったものを嫌う人には非常に嫌悪感を抱かせてしまうでしょうね。しかしこれはZEROの「偏愛を描く際に全く妥協しなかった」と肯定的に捕らえることもできます。

 もともと愛というものはそれほど綺麗なものではありません。むしろ嫉妬や不安といった部分の方が大きいのではないでしょうか。普通の愛でそういったネガティブの部分が多いのですから、それが「偏った愛」であればなおの事です。当たり前で真っ当なシナリオであるはずがありません。そういう意味で、いじめや凌辱シーンがあるからというシチュエーションの一端だけで回避するのはある意味非常に勿体ないと思います。どんな形になるかは分かりませんが、間違いなくプレイヤーに何かを考えさせる印象を与えてくれます。

 そしてその他の部分ですが、まずはグラフィックは非常にきれいです。CGの殆どはヒロインのものですが、いたいけな様子を丁寧に描いています。BGMも過度になりすぎず、シナリオを盛り上げる役割として最適な存在感を出しています。ボイスもヒロインだけですが、こちらもよくヒロインに合っております。つまるところ、その他の部分をとっても全てはこの「いたいけな彼女」をどのように表現するかに集約されている気がしました。

 そういう意味で、偏愛をどのように描いているかよりもヒロインである七瀬ほのかがどのくらい「いたいけ」なのかに期待してプレイした方が幸せになれると思います。エンディングも幾つかあるのですが、どのルートに行ってもヒロインの「いたいけ」な様子は伝わってきます。その上で偏愛の行く先とは何かを考えた方がいいかも知れません。

 とりあえず、偏愛だから、いじめや凌辱があるから、と言って構える事はありません。案外気楽な気持ちでプレイして、シナリオの中で色々と考えていった方が良いと思います。この作品のタイトルは「いたいけな彼女」なのですから。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<偏愛の行きつく究極的に真逆なエンディング>

 とりあえず「純愛END」と「凌辱END」の両方を見た訳ですが、ここまで偏愛の行く先をはっきり分けて描いたのは凄いと思いました。お互いの利害が一致していれば、心の成長があっても無くても2人で生きていけるのですね。

 結局のところ、このシナリオの一番の焦点はお互いが持っている心の影の部分をとりはらい成長できるかという事ですね。主人公は過去のトラウマが影響して人間を信用できなくなり、命令する事でしか人間と近づけなくなっています。そういう意味で、主人公が本当の意味で成長し生きていくためにはこのトラウマを克服し本当の意味で人間を愛することが大事になってきます。その為の存在として七瀬ほのかがいて、彼女の無償の献身が少しずつ主人公の心の闇を取り払い、本当の意味で人間を信じる事が出来るようになったのでしょう。

 ヒロインもやはり幼い事の両親からの虐待と命令で心に傷を負い、人から命令される事でしか人間に近づけない性格になっていました。そこには自分の主張はなく、ただ周りに流されるだけの生活でした。一見我慢強く健気な印象を受けますが、これが彼女にとって最も楽な生き方だったのでしょうね。そこでそんなほのかにただひたすら命令する主人公に出会った訳ですが、主人公の命令が結果ほのかのおばさんとの和解に繋がり、クラスメイトに自分の主張を言えるだけに勇気を得る事になった訳です。そんな訳で心の影をの部分を取り払った2人だからこそその偏愛は本物であり、他人から見たら異質なエンディングかも知れませんがそこには確かな信頼関係が出来上がっています。

 ですが、そんな風に心の影の部分を取り払わなくても生きていけるんですね。それを端的に表現したのが「凌辱ルート」だと思います。こっちのルートは全く心の成長がありません。主人公は最後まで人間を信頼できず、命令して従うほのかに対して愛を持っていると感じ外したままです。ヒロインも結局人から命令されないと動く事が出来ず、常に命令を与えてくれる主人公に対して愛を持っていると感じ外したままです。そんな極端な性格の利害があまりにも一致した為に2人は離れることなくエンディングを迎える事が出来ています。ですがおそらくこの2人の間に愛はないのでしょうね。あるのは命令し命令されるだけの関係でしょう。

 つまるところ、偏愛の行きつく先のある意味究極的な答えがこの「純愛END」と「凌辱END」なのだと思います。程度の差はあれ、相手と信頼関係を結べるか結べないかでここまで答えが変わってしまう訳です。シチュエーションだけ見たらさほど違いはないように見えますが、その中身は天と地ほどの違いはあります。

 とりあえず人によっては純愛ENDのみで凌辱ENDは見たくもないという人もいるでしょうし、その逆も然りでしょう。ですが、このシナリオで表現しようとしている偏愛の本当の意味を知るうえでは、両方のENDを見る必要はあると思いました。それでも、どちらのルートに行ってもほのかの「いたいけ」な様子に変わりはなく、タイトルを裏切ることがありません。どっちの「いたいけ」な様子も見る価値はあると思います。そんな、普通のサウンドノベルでは表現されない非常に面白いテーマの作品でした。


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