M.M IRIS 豪雪の王




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 6 4 77 2〜3 2016/3/20
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<まずは入念に練られたファンタジーの世界設定に慣れ、そこから主人公の成長の軌跡を確かめて欲しいですね。>

 この「IRIS 豪雪の王」は同人サークルである「GriMo+」で制作されたビジュアルノベルです。GriMo+さんの名前を初めて知ったのは、COMITIA116にサークル部活動として参加するノベルゲーム部のメンバーとして名前をお見受けした事からでした。毎年春のCOMITIAに参加しているノベルゲーム部ですが、その参加サークルは毎回様々でありジャンルに富んでおります。GriMo+さんがメインとしているジャンルはBLファンタジーです。実は私、これまで能動的にBLゲーはプレイした事がなくどのような恋愛模様が描かれるが期待半分心配半分という心境でした。何しろ主人公をはじめ登場人物たちは全員超美形。R-15という事で淫らな描写は無いとは思いますが、視覚的でなくてもテキストで十分演出する事は出来ますのでそんな描写も楽しみにプレイ始めました。

 主人公であるルカ・ウィスタリア(以下ルカ)が生きる世界は神、巨竜、音霊という三つの《大いなるもの》の力を借りる三系統の"魔術"が文明を牽引する世界。魔術が電気に取って代わり当たり前に存在する世界であり、幼い頃から魔術の才能を持っている人は将来を約束された未来が待っている世界です。ルカはそんな魔術に対して天才的な才能を持ち合わせており、若くして王立魔術研究所で魔術士として研究を行っておりました。ですが何者かの陰謀により無実の罪に捉えられ、その事により王立魔術研究所から遠く離れた地方のガラドリエル初等魔術学校への出向を言い渡されます。将来に対する夢を失ったルカの前に現れたのはレオグリフという名の自分とは正反対の性格を持つ男。彼との出会いが物語のスタートであり、ルカにとっての大きな転機となるのです。

 この作品はBLではありますが前提としてファンタジーです。現代ではないどこか異世界の設定という事で、人の名前も町の名前も全て馴染みのないカタカナ語ばかりとなります。魔術の定義や《大いなるもの》という存在はもちろん、社会制度や一般常識もまるで違いますので、始めはそんなIRISの世界観に慣れるのが大変かも知れません。ですが逆に言えばそれだけ世界観に拘りを持っており、プレイヤーに作品の世界へ没頭して欲しいと思っている事でもあります。始めの数分くらいは固有名詞の事を把握できておらず何の事を言っているか分からなくても、何度も繰り返し見る事で慣れる事は出来ます。まずは人の名前や地名の名前を覚え、その後に世界観に触れて物語の中へ入っていって欲しいですね。

 他の特徴としましてこの作品には声があります。全てではなく主要なシーンのみではありますが、キャラクターに合っており熱が入っておりますのでテンションを上げてくれます。後はなんと言っても戦闘シーンが挙げられます。ファンタジーであり魔法が存在する世界ですので、もちろん強力なモンスターとの戦闘もあります。しかもその先頭は別パートとして区切られており、実際にプレイヤーがキャラクターの行動を選択して動かします。負ける事もありますし、そのときはそれなりのEDになってしまいます。是非相手と自分のパターンを見極めて勝ち進んで欲しいですね。他にはBGMも打ち込みを感じさせない豪華な仕様となっております。ファンタジーの世界観を演出する十二分の効果を感じました。

 プレイ時間は私で2時間45分程度掛かりました。この作品は比較的選択肢の数が多く、それによるEDの種類も少なからずあります。特にトゥルーエンドについては割とフラグの管理が難しく、一発でたどり着くのは余程運が良くないと難しいと思います。基本的には選択肢の総当りでたどり着けますし、正解の選択肢を選ぶと効果音が鳴る仕様になっておりますので分かりやすかったですね(全ての選択肢ではないので注意)。個人的にはトゥルーエンドとノーマルエンドの2つは最低限見て欲しいと思いました。どちらも物語開始時から成長したルカの姿を見せてくれます。久しぶりにファンタジーの楽しさに溢れた作品でした。BL要素というよりは友情に近いのかなと思いました。ちなみに本当のBL要素を楽しみたい方は、積極的にバッドエンドへ向かってください。きっと満足できる内容になっていると思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<2人が見ようとしなかった心の奥底にある想い、そこに吹く一陣の春風が物語終了の合図でした。>

 この作品の醍醐味は間違いなくルカとレオグリフの対比を見る事ですね。他人の事を気にせず自分中心に行動してきたルカと自分の事など気にせず他人の為に行動してきたレオグリフ。ですがこれはルカの考えが浅はかであるとかレオグリフの行動が尊いという一面的な見方をしてはいけませんでした。大切なのはそんな2人の行動原理になっている過去のトラウマを読み解くこと。そしてそのトラウマを解消する事が物語の終焉になるという事でした。

 ルカはかつて自分の実力を過信し大切な友人たちを失うという経験をしておりました。それでもイリスに対する情熱を捨て去る事は出来ず、一人でも大いなる力を解明しようと思っておりました。だからなのでしょうね、同じ研究院のメンバーに厳しく当たり肝心な事は全部自分で抱え込んだのは。これは二度と自分の目の前て関わった人に消えて欲しくいないという思いもありました。あんな寂しい経験をするのは自分だけで十分。そんな気持ちがルカの周りに見えない壁を作り、他人に対して深く関わろうとしない意識の原点になったのだろうと思っております。

 逆にレオグリフは他人の為に行動する事が全てであると思っております。レオグリフは幼少の頃から多くの人の愛情を受け、それを皆さんに返したいという殊勝な気持ちを持ったのでしょうか。決してそんなことはありませんでした。レオグリフもまたかつて自分が手を触れたイリスの石版によって多くの人を失うという事故を起こしておりました。ですがレオグリフはその事実を受け入れる事ができず、記憶のそこに沈めてしまいました。彼の他人に対する盲目的なまでの献身は、自分の心の弱さを隠すバリアであり過去の事実に対する贖罪でもありました。

 確かに第一印象はルカは人に冷たくレオグリフは人に温かいと思えます。ですが見方を変えればルカは心が強くレオグリフは心が弱いと読み取ることも出来ます。人の心は一面だけでは分からず多方面から見ないと本当のことは言えないのだと思いました。そしてそんな長所も短所も持っている2人ですが、面白いことにお互いの強いところ弱いところを補うとまるでパズルのピースのようにピッタリとハマるんですね。はじめは反発していた2人ですが、それは自分の中で見ようとしなかった心の奥底の願望を相手が持っていたからでした。それを認めてしまえば、もう2人が言い争うことはありませんでした。

 レオグリフの「誰かを殺して、生き残るなんて、俺にはできない」、ルカの「ただ償いたくて、報いたくて、愛おしくて、会いたくて」というセリフはそんな2人の本質を表現した言葉でした。ですがスプリングヒルから脱出し春を迎えることが出来た今、そんな2人それぞれの固まった心にも暖かい風が通り抜けます。新しい世界の扉は、身近なところにある。これからもルカとレオグリフの2人は良き友人として触れ合い一生大切なパートナーとしてやっていくのだと思いました。ありがとうございました。


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