M.M IDEA 宣戦布告編




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 6 6 74 1〜2 2016/3/21
作品ページ サークルページ



<マイペースな主人公がどのように異世界へ干渉していくかを見届けて欲しいですね。>

 この「IDEA 宣戦布告編」は同人サークルである「GriMo+」で制作されたビジュアルノベルです。GriMo+さんの作品では過去に「IRIS 豪雪の王」の方をプレイさせて頂き、入念に練られたファンタジー世界の設定と丁寧な人物描写が印象的な作品でした。基本的に女性を対象としたビジュアルノベルを制作されるサークルさんであり、IRISの方はBLでした。今回レビューしているIDEAは恋愛シミュレーションであり、主人公である女子高生がとある切っ掛けで異世界に迷い込みそこで出会う2人のヒーローとの交錯が見所です。IRISと同様綿密に練られたファンタジー設定も健在であり、GriMo+さんの作り出す世界観へ旅立ちましょう。

 主人公である星崎未来はどこにでもいる普通の女子高生。過去に不幸な経験もありどこか夢を失って単調な日々を過ごしております。自分のことを「サラリーマンJK」と呼ぶほど悟ったかのような姿は非常に空虚。そんな彼女が突然異世界に迷い込んでしまうのですからさあ大変ですね。携帯電話は勿論電化製品は存在しない、元の世界に変える方法も分からない、魔術が当たり前に存在し自分には使えない。そんな四面楚歌のような状況でしたが、1人の男性に拾われる事で何とか先の見通しを立てる事が出来ました。その人物の名前はヨハン。ヨハンは一流の魔術師でありながら左遷のような扱いを受けており、その瞳はまるで自分の姿そのものの様に生気を失っておりました。そんな似た者同士の2人が出会う事でこの物語は動き出し、やがて世界を巻き込む出来事へと発展していくのです。

 一番の魅力は主人公である星崎未来その人です。基本的にマイペースであり、異世界の文化に戸惑いながらも自然と馴染んでいきます。特にメインヒーローとなる2人に対しても決して遅れを取ることなくグイグイと自分の主張をぶつけていきます。また女子高生らしい茶目っ気のある姿も見ることができ、ちょっとしたコメディが緊張感を緩和させてくれます。勿論主人公らしくシリアスな場面では自分のありのままの感情を表に出し、泣いたり笑ったりと非常に好感の持てる姿を見せてくれます。未来が2人のヒーローを振り向かせるというよりは、2人のヒーローが未来を取り合うような印象ですね。是非何も知らない彼女がどのように異世界に干渉し、そして変えていくのか見届けて欲しいですね。

 その他の特徴としましては、IRISと同様にボイスがあります。これも主要な場面のみではありますがどの声もキャラクターに合っており、プレイヤーのテンションを上げてくれます。またIRISにあったような戦闘モードはありませんが、闘う場面は存在し効果音などを活用して臨場感を演出しております。全体として音による演出が印象的であり、ビジュアルノベルの魅力に溢れた作品となっております。BGMもオリジナルではありませんがファンタジー世界にぴったりのものを選んでおり、場面によってはクリックする手を休めて聞き惚れるのも良いかも知れません。

 プレイ時間は私で1時間50分程度掛かりました。この作品はEDがなんと9つもあり、しかも初回プレイ時には行けるEDが制限されております。いくつかのEDを確認した後に新たに分岐が現れ、そしてそれによって今まで知らなかった真実が明かされるという仕掛けですね。基本的には選択肢の総当りで行けるのですが、選択肢の数も決して少なくありませんのでちょっと忙しいかもしれません。是非全てのEDを確認し、IDEAの世界を堪能して欲しいですね。あなたの想像を超えた結末が待っているかも知れません。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<サイレントマジックは誰でも使える究極の魔法。>

 最後までプレイしてこの作品がまさかループものだとは思っても見ませんでした。何度も大切な人の死を目の当たりにして、それでも2人で幸せになれる結末を求めて運命と戦い続けました。その過程は自分自身が覚悟を決め大切な人と添い遂げる決断をするためのもの。相手の事を信じ愛する事が出来た時、ようやくイデアから解放されました。

 魔術師と一般市民という同じ人間でありながら区別されている世界、当然そこに住む人たちの心には矛盾とわだかまりがありました。エリオットの根底にあったのは魔術師に対する憎悪。革命と言えば聞こえはいいですがそれは世界のためのを思っての行動ではなく自分自身の復讐の達成のための行動でした。そんなネガティブな気持ちから始まった行動原理がマナグレースに見破られ、エンブリオによる支配に飲み込まれそうになりました。エリオットもまた、イデアによる世界に縛られたまま自分の足て立てないでいたのです。そんなエリオットの目を覚まさせてくれたのが未来であり、彼女と添い遂げる将来を夢見て改めてイデアによる世界からの脱却を目指しました。

 またエリートとされた魔術師界でも血で血を洗うような争いが行われておりました。全てはイデアから生み出されるソーマを手に入れる事。その為に他人を蹴落とす世界が出来上がっておりました。ヨハンもそんな苦しい争いに巻き込まれ、自分の意志とは裏腹に人を殺してしまいました。それでも自分を正当化する事は出来ます。何しろ殺さなければ殺されるのですから。ですがそんなに簡単に割り切れる事はもちろんなく、常に自分を責めながら淡々と過ごす日々を送っておりました。だからこそ「何の為に生きてるの?」という未来の質問は大変心に響き、その後のヨハンの行き方そのものに影響を与えていきました。

 振り返ってみれば全てマナグレースの手のひらの上で弄ばれているだけのように見えてきました。人の負の感情を好みそれを喰らうことを生業としているマナグレース、その為に直接人間にアプローチするどころか世界の仕組みそのものを間接的に操り多くの人間の運命を翻弄していきました。さぞ楽しかったでしょうね。自分の思う通りに動き思う通りに絶望していくのですから。だからこそ、そんなマナグレースに歯向かい対抗する未来の存在は驚異だったのだろうと思います。何度絶望させても諦めず愛する人と添い遂げるために行動する。そしてイデアの真実を知りヒカリを救出するために自ら人柱になる。マイペースな彼女らしい潔い決断ばかりでした。未来がマナグレースに行った宣戦布告。これを承諾した段階で、もはやマナグレースに勝ち目は無かったのかも知れませんね。

 誰かの為にコーヒーを入れるのが好きという純粋で美しい夢を持っていたヨハン。世界に縛れれないで自由な体で自分の足て立って歩く事を誓ったエリオット。その思いは愛するパートナーと共に達成されました。魔術師でも何でもない未来が何故達成できたのが。それは彼女が夢に向かって諦めないというサイレントマジックを持っていたからでした。これこそ究極の魔法であり、誰にでも使える魔法でした。そしてその効果は想いが強ければそれだけ効果も大きくなります。彼女のサイレントマジックに包まれたドミニオンは、初めこそ苦労の連続でしょうがいつか人の心が行き交う美しい世界になるのだと信じております。ありがとうございました。


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