M.M 一から始まる君との舞台




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 7 5 65 〜1 2020/2/14
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<短いながらも一貫したテーマが伝わる内容でした。BGMの使い方が好きです。>

 この「一から始まる君との舞台」は同人サークルである「mline」で制作されたビジュアルノベルです。mlineさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けはC97にて同人ゲームの島サークルを回っている時でした。ここ最近私がコミケに限らず各種即売会で同人ビジュアルノベルを手にする条件は、作品が完結している事です。完成していればジャケットが美しくても簡素であっても手に取ります。そういう観点で、今回立ち寄ったmlineさんのC97の新作はまだ体験版でしたので手に取りませんでした。今回手に取らせて頂いた「一から始まる君との舞台」はC96での新作です。当時手に取らなかっただけにこのタイミングで入手出来たのは嬉しかったですね。新作が完成する前にプレイしようと思い、今回のレビューに至っております。

 主人公である宮藤洋介は演劇部に所属している高校生です。かつて洋介はプロの脚本家として中学校の時から活躍しておりました。ですがとある出来事が起こりそれ以降脚本を書かなくなりました。それでも高校でも演劇部に所属しており、同級生や先輩と一緒に楽しく部活動を行っておりました。新年度になり新入生獲得の為活動している中、一人の女子生徒が演劇部の門を叩きました。彼女の名前は逢沢唯、それは洋介にとってあまりにも馴染み深い人物でした。洋介の脚本を求めて入部した唯、果たして洋介は再び脚本を書くのでしょうか。昔の思い出や傷痕を乗り越える、成長物語が幕を開けます。

 この作品は恋愛ノベルゲームとなっております。恋愛ですので、主人公である洋介とヒロインである唯の恋愛がシナリオの主軸になっているのは想像出来ると思います。ですが、それだけではないテーマが設定されておりました。過去に背負ってしまった傷痕がありながらそれを隠してきた洋介、そしてそんな過去を知っている人物と再会してしまったのです。その人の過去を知らなければ、出会った瞬間から思い出を積み重ねていけば良いと思います。ですが過去を知っている人であるのなら、どうしてもその事実を無視する事は出来ません。洋介と唯が結ばれるには必ず越えなければいけないハードルがある、それが何なのかとどのように超えていくのかを是非見届けてみて下さい。

 背景素材やBGMはフリー素材となっております。使い方が上手で、特にBGMは昼と夜の場面、部活とそれ以外の場面でメリハリがあり場面転換が良く分かりました。個人的には夜のとある場面でのBGMが統一されていて、加えて雰囲気に合っていて好きでした。夜になるのが待ち遠しかったです。またボーカル曲もあり、高校生の部活動らしい快活なサウンドが印象的でした。OPとEDはお手製のムービーが展開されておりました。EDでは製作者の名前とTwitterのアイコンが表示されておりますので、是非興味があればチェックしてみて下さい。

 プレイ時間は私で40分程度でした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。短いですのでサクサクと物語は展開していきます。そういう意味で、恋愛の進展のサクサク進んでいきますのでプレイヤーの想いが入り込むよりも速く展開が進んでいくかも知れません。併せて主人公が過去に背負った傷痕とそれをどう乗り越えていくのかという展開にも注目する必要がありますので、もっと日常の場面をたくさん読みたかったですね。それでも一貫したテーマがハッキリと伝わりましたので、きっとこれが製作者の伝えたかった事なんだろうなと思いました。サクッと終わりますので、是非ちょっとした息抜きのつもりでプレイしてみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<困った時は周りの人を頼ればいい、それを受け入れてくれるメンバーがいたからこそ本番を迎える事が出来た。>

 最後まで読んで、主人公の心情と決断を一貫して表現したシナリオが印象に残りました。脚本を書くのが好きだったのに、それを演じてくれるはずだった遥は病で命を落としてしまいました。決してその原因が洋介だけにあるとは思いませんが、それでも同じ轍を踏まないと決意し決断した洋介の行動は立派だったと思っております。

 全体を通して、洋介の周りには良い人が集まったなと思いました。洋介の才能を信じて演劇部に入部した唯、同じく洋介のやる気を信じて脚本を任せてくれた舞依、そんな洋介を信じて自分の役割を全うしようとする優斗と奏、そして死してなお洋介の事を心配する遥、これだけ多くの人に見守られている洋介は幸せ者だと思いました。ですが、当の洋介はそんな自分が抱えているトラウマを誰にも言いだす事はしませんでした。しませんでしたと言うより、出来なかったというのが正解かも知れません。もしかしたら自分が人を殺してしまったのかも知れない、そう思われてしまうのが怖かったのかも知れないですね。ですけど、彼らであればそんな洋介の過去を知ってもケセラセラと思ってくれると思いますね。

 作品中ずっと言われていた言葉に「周りの人を頼ればいい」というものがありました。これは洋介に限らず、私を含め全ての人に是非心に留めておいて欲しい言葉だと思います。社会で生きている以上人は人と関わらずに生きていく事は出来ません。何らかの形で、誰かに頼り頼られながら世の中は回っております。ですが、それは人が人を頼るから頼られるという関係が生まれるのです。自分一人で出来る事には限界があっても、何人か集まれば大きな事が出来ます。それは決して恥ずかしい事でも自分の弱みを見せる事でも何でもありません。また頼られた人も頼った人を下に見るとかそんな事も無いのです。洋介はきっと人に頼る事が苦手だったのですね。そんな自分の弱みを認めてくれたのも、演劇部の皆の素敵なところだと思いました。

 そしてついに脚本を完成させ、いよいよ本格的に動き出しました。ですが、ここで唯が体調を崩してしまいました。かつての洋介であれば、ちょっとした体調不良だろうと思いそのまま静観したのかも知れません。ですが、同じことを繰り返してはいけないと決意した洋介の判断は立派だったと思っております。保健室に付き添っただけではなく、ちゃんと体調を考えて春の公演を中止にする事を発表したのです。ともすれば唯だけを考えた決断に見えるかも知れませんが、素晴らしいのはそんな洋介の決断を尊重して中止を受け入れた演劇部の皆の優しさもあると思いました。ちゃんと洋介と唯の事を認めて、そして大切に想っている様子が伝わりました。

 夏の本番、そこには体調を回復し万全の状態で本番を迎える唯の姿がありました。その姿は自信に満ちていて、姉の想いも引き継いでやり遂げてやろうという気持ちが見えました。同じく脚本兼主演の洋介もまた準備万端でした。そこには且つてセリフを言えなかった姿は一切ありませんでした。そして演じる題目の名前は「遥かなる未来へ」、遥という名前と自分を含めた皆の未来を見据えた素敵なタイトルだと思いました。春から夏まで期間が立っておりますので、この作品で見せたのはほんの一部分だったと思っております。実際どのような練習だったのか、唯と洋介の心の繋がりはどのように深まっていったのか、読んでみたいと思うと同時にプレイヤーの想像に任せておきたいという両方の気持ちが混在しております。少なくとも、遥かなる未来を目指してこれからも元気に末永く幸せに生きてほしいと思いました。ありがとうございました。


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