M.M 慰愛の詩




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 79 1〜2 2019/8/9
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<想像力が、この作品を印象付ける全てだと思います。ですが、それが良い方向に行くとは必ずしも限りません。>

 この「慰愛の詩」という作品は、同人ゲームサークルである「サキュレント」で制作されたビジュアルノベルです。サキュレントさんの作品をプレイしたのは本作が初めてです。サークルの代表である山野氏の作品は、以前所属していたゆにっとちーずというサークルさんの作品を中心に何本かプレイさせて頂きました。人間の負の感情を独特の文体と世界観で描くシナリオは多くの人に受け入れられ、私の周りでもコアなファンの方を何人もお見かけしております。そんな山野氏が今回新サークルであるサキュレントの処女作として制作されたのがこの「慰愛の詩」です。今度はどのような心の内側を見せてくれるのだろう、そんな事を期待してプレイし始めました。

 主人公である田無ちさ子、彼女は自分がまだ幼少期だった時に交通事故に合い入院生活を送っておりました。退屈な入院生活に飽き飽きしており、どこか斜に構えていたちさ子はある日から病院を抜け出し外を散歩するようになりました。そして、立ち寄った公園でとても美しい少年と出会いました。彼の名前は輿水令二、ちさ子と同じく病院に入院している3歳年上の少年です。令二は心臓の病気を持ってました。そんな2人は幼いながらもどこかシンパシーを感じ、夜の会合を繰り返します。そんな、懐かしい思い出を夢見たちさ子は今は高校を卒業しライン工で仕事をしております。仕事と漫画だけが生活の全てだったちさ子。ですが、目の前にあの日出会った令二が立っていたのです。時を超えて再会したちさ子と令二、ですがその出会いは決して祝福される出会いではありませんでした。

 この作品のコンセプトは「BLに割り込む女」となっております。とても興味を引くコンセプトですね。既にBLという関係が出来ているのに、その間に女が割り込んでくるのです。このコンセプトでハッピーエンドになるのでしょうか?いやきっとならないと思います。誰かの気持ちを優先したら、きっと誰かの気持ちを犠牲にする事になる、そんなシナリオが待っている気がしてなりません。勿論、BLだったのにそこに女が割り込んでグチャグチャにするシナリオのはずもありませんね。そんな、分かり易い正義と悪であれば物語にする必要などありませんもの。どうしてBLの間に女が割り込めたのか、間違いなく男の側にも理由があります。何れにしても、山野氏の詩的でありドロドロした内面を描くテキストが光りました。気が付いたら泥沼にはまっている、そんな感覚を味わって頂きたいです。

 またこの作品はフルボイスとなっておりますが、立ち絵は存在しません。あるのは背景のみで、登場人物の姿や表情はパッケージの美しいスチルでしか描かれておりません。こんな儚げな彼らが、果たしてどのような表情で場面場面を動いているのか是非想像しながら読んでみて下さい。また、BGMは真島こころ氏によるピアノを中心とした透明感のある楽曲で構成されております。心が洗われるような楽曲であり、だからこそ純粋に彼ら3人の行動や心理描写に寄り添う事が出来ると思っております。何れにしても、想像力がこの作品の評価を良くも悪くもするのだと思っております。もしかしたら、プレイ後に考えれば考える程後味が悪くなっていくのかも知れません。それもまた、この「慰愛の詩」という作品の魅力に思えました。

 プレイ時間ですが私で1時間40分程度でした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。上でも書きましたが、この作品は立ち絵がありませんので登場人物の心理描写を知るにはテキストとボイスしかありません。そういう意味で、是非全てのボイスを聴いてその時の感情を想像しながら読み進めて頂きたいです。特に、物語の核となる輿水令二の内面を覗く行為を欠く事は出来ません。その為に、ボイスの力を精いっぱい活用していきましょう。慰愛という、どこか後ろ向きな愛の形はどのようなものなのでしょうか。それを是非一人ひとりの視点で確認してみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<令二が持っているのは究極の自己愛。それでもそれを許してしまうのだから、もはや救いは無いですね。>


「人と文化を共有できないって、どういう気持ちなんだろう」


 物語を最後まで読んで、結局のところ令二はこの自分が発した疑問の答えを見つける事が出来たのでしょうか?恐らく見つけられなかったのだと思います。見つけられなかったから、ちさ子は雨の中叫んで外に出て行ったのだと思います。自分が求める美、そこに至らせてくれるためだけの存在であるちさ子、最後までこの関係が変わる事はありませんでした。そして、その事に対してちさ子は「悲しい」と思いました。これが、2人の愛の結末でした。

 思うに、令二はちさ子の事も伊佐治の事も好きではなかったのだと思います。令二の純情を受け止めてくれる伊佐治、令二の愛欲を受け止めてくれるちさ子という存在が好きだったのだと思います。そして、そんな2人がいるから令二は最高の詩を書く事が出来たのだと思います。完全に、愛の方向が自分に向かっているんですよね。自分の美意識の為であれば周りの人間の気持ちなんて関係ない、そんな傲慢さすらも感じました。まあ、芸術家という存在はそんなものなのかも知れません。自分が信じている美しいものに正直になる、その真っ直ぐさと一途さが唯一無二の作品になるのですから。

 そんな令二の真っ直ぐな愛に対して、ちさ子は受け止める事は出来ませんでした。ちさ子は令二の事が好きでした。ですがそれももしかしたら恋に恋していただけなのかも知れません。人間離れした美貌と自分を求めてくれる行動に、完全に酔っていたのだと思います。セックスはするけどキスはしてくれない、キスはしてくれるけど抱き締めてくれない、最後の最後でどこか気持ちがズレてしまう、そんな令二の姿に次第に不安になってしまいました。ですがそれは仕方のない事、何故なら令二は自分が好きなのですから。後は、その事実を聴いてちさ子がどうするかだけでした。普通であれば、令二と結ばれるのを諦めるのでしょう。ですが、そうはなりませんでした。始めちさ子は令二と共に死のうとしました。ですが、それは出来ませんでした。最終的に、令二の自己愛を許す自分がいました。これがちさ子の結末、それを自ら「悲しい」と評したのです。

 伊佐治についても同様でした。むしろ、伊佐治は令二との付き合いが長いだけに既に令二との付き合いを割り切っている印象でした。令二は伊佐治が好き、ですがそれば純情をぶつけても受け止めてくれる伊佐治が好きなだけでした。少なくとも、伊佐治を信頼し労わる為に好きになった訳ではありませんでした。その事を、伊佐治は知っているのです。だからこそ、伊佐治は令二に「この子を傷つけるのはもうよせ」と言ったのです。ちさ子の恋心に気付いた伊佐治だからこそ、最終的にちさ子が傷つく事を見抜きました。この言葉の意味を、令二はどこまで理解していたのでしょうね。いや、もしかしたら理解していないのかも知れません。そうであるのなら、伊佐治が言うように本当に令二は「邪悪な奴」になってしまいますね。事実そうなのでしょう。それでも付き合っているのですから、本当令二は魔性の存在だと思いました。

 この作品は「BLに割り込む女」というコンセプトでしたが、実際は割り込む事すら出来ずそもそもBLではありませんでした。ただ、令二という美しい少年の美意識に捉われた2人の男女の物語でした。令二と付き合う未来はありません。その道を進もうとした時点で、バッドエンドは確定してしまうのです。せめてもの救いは、自分の恋心は令二には届かない、令二は身勝手である、それでもそんな令二を許している自分がいる、という事実に気付いた事かも知れません。バッドエンドがバッドエンドになってくれて、ある意味良かったと思っております。少なくとも決着は付きました。後は、ちさ子の問題ですね。令二に振り回されるのも、伊佐治と付き合うのも、それ以外の男性を付き合うもの自由です。せめて、ちさ子が後悔しない未来を進む事を、私たちプレイヤーは祈るだけですね。愛は本当に身勝手なものだと、そしてそれが真実なのだと見せつけられました。ありがとうございました。


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