M.M 星の傷痕


<日常のシーンをリアルに描くことの大切さ>

 この「星の傷痕」という作品は同人サークル「Perpetual DayDream」で制作されたサウンドノベルです。C81の同人ゲームの島サークルで見つけたことが切っ掛けであり、パッケージの綺麗と日常的でどこか非日常的なあらすじで割と第一印象が良かったので買ってみました。このサークルについても完全に前情報なしでして、本当に島サークルを回っていて偶然見つけたんです。プレイ時間も短めという事でいざプレイしてみましたが、なる程日常の描写というものはとにかくリアルに描くことが要なんだなという印象を持ちました。

 この作品、OHPだけでは正直なところどんな作品なのか分からないと思います。もちろんあらすじはありますし登場人物紹介もありますので、これらの人物が登場する学園ものなんだなという事は分かります。ですが、そんな普通の学園ものではなんだろうなという事もOHPから感じるかと思います。そうです、この作品は普通の学園ものではなく非日常的な要素を含んだ作品です。

 こういった類のシナリオは割とよくあると思います。表向きはファンタジー性なしの日常的なシナリオに見せて、佳境に入っていくにつれ奇跡的な要素を含みだしそれらの要素を上手く包括してエンディングへ向かう。ちょうど「Key」が好きそうなシナリオ展開ですね。割と王道のシナリオ展開だと思っておりますので基本的に外れが無く、そういう意味でどんなシナリオ展開になってもとにかく最後まで読みきってから初めて色々なことを考察しようと決めていました。

 そういう意味で前半は日常的な部分から始まるのですが、この作品、その日常的な部分が変にリアルなんです。ここで変と言ってますが、決して間違っているとか微妙であるとかそんな意味ではありません。あまりにもリアルすぎる日常であるという事です。サウンドノベルにおける一般的な日常シーンというものは、実は現実にはありえないようなセリフ回しばかりだったりします。主人公が異様にモテモテだったり、極端に性格が破たんしたキャラクターがいたり、現実の中では間違いなくありえない日常がサウンドノベルの中での日常であるのが真実です。そういう意味でこの作品の日常は本当に私が学生時代に交わしたような、普通のセリフ回しが多いんです。

 そしてこの事に気が付いたのは後半で非日常的な部分が出てきた時でした。日常シーンって、実際のところ退屈であったりします。そんな退屈な日常シーンが続くからこそ非日常シーンが際立ち物語を盛り上げてくれます。ですが同時に非日常に入って初めて日常の大切さにも気づくんですね。ましてやその日常シーンがリアルであればリアルであるこそ大切さも大きくなる気がします。この作品はそんな日常の大切さを感じさせてくれた作品でした。

 その他の要素についてですが、基本的なシステム周りは普通の同人サウンドノベルと遜色ありません。ただ割と選択肢が多いので流し読みみたいに読んでいると知らず知らずのうちに選択肢を選んでしまうという事になりかねませんのでそこは注意ですね。あとBGMについては残念ながらそれほど印象には残りませんでしたね。主題歌はなんと初音ミクでした。なる程最近の同人サウンドノベルという感じですね。

 という訳で割と満足出来た内容でした。ここ最近プレイした同人ゲームと比較しても平均的な完成度なのかなという印象です。このれべるの作品が普通になっていけば同人業界も安泰ですね。これからも良い作品を作っていってほしいです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<「読む」という行為を阻害する要素は徹底的に排除するべきだと思うのです>

 結局は「夢落ち」という事でしたね。結局とか言ってしまいましたけど、それ程大きなどんでん返しがあった訳でもなく言ってしまえば想像の範疇という事だったという事です。それでも日常と非日常のバランスはそれなりに良く、短いながらも一つの作品として良くまとまっていたと思います。それよりも気になったのは、タイトルにもあります通りテキストの方でした。

 私にとってサウンドノベルで一番注意しなければいけないと思っていることは「読むという行為を如何に邪魔しないか」という事です。サウンドノベルは文字通りサウンドとノベルですから、当然重要になってくるのは音楽とテキストです。この2つがしっかりしていなければそれ以外の要素が如何に素晴らしくても総合的に心に残るサウンドノベルにはならないと思います。そういう意味でテキストがしっかりしているというのは、私の中では読むという行為を邪魔しないという事にそっくりそのまま置き換える事が出来ます。

 もっと具体的に書きますと、この作品のテキストは夢と現実の間の曖昧な感覚を表現する為に「…」や「--」や「『』」のような記号を多用しています。そういう意味では作者の狙い通りだったのかもしれませんが、単純に読みにくいのです。段落分けの頻度も少なかったので文章の折り返しの唐突さも目立ちましたし、それに記号が乱立すれば残念ながら読もうという意欲も削がれてしまいます。後は画面いっぱいにいきなりテキストが出てくるのも良くないですね。Enterキーを2回押すと突然読まなければいけない文章が大量に出てきて視覚的な意味で抵抗を感じます。実はプレイ始めて最初の1時間程度でちょっと長めの休憩を取りましたし、その後も2時間くらいで休憩してモチベーションを保ちながらプレイしました。そうしないととても最後まで読み続けられるテキストではなかったという事です。

 結局はそういう事なのです。サウンドノベルにとって「読む」という行為を阻害する要素は致命的なんです。読み物なのに読み続けることが疲れる、これではサウンドノベルではありません。そういう意味で各ブランドでは出来るだけ読むという行為を阻害しない工夫をしています。例えば「ねこねこソフト」では1画面に表示するテキストは最大2行までと決めており一度に目に入る情報量を極力抑えてストレスを軽減しています。ALcotはテキストをキャラクターごとに色分けしさらに登場人物のそばに表示することで誰のセリフなのかという事を考えるタイムラグを減らしています。もちろんそこまでの努力義務が必要な要素ではないかもしれませんが、読んでもらえなかったらオシマイである事を分かっていると分かっていないでは全然テキストの作り方が違うという事です。

 シナリオは悪くなかったですけどね。日常も楽しかったですしそのところどころに散りばめられた伏線も最後の七夕の願いというターニングポイントで全て解決できましたし、登場人物の過去を乗り越えるという意味での成長感も感じる事が出来ました。そんなシナリオだからこそ、読みたくなくなるテキストは残念でした。

 とは言え人物描写のリアルさは注目する部分でもありましたし、これからに期待といった感じですね。結構制作に年数がかかっているみたいですので次回作がいつ拝めるかわかりませんが、その時は足を運んで買ってみようと思っています。


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