M.M 蜜月の蝶〜ぼく、メイドはじめました〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 5 5 64 1〜2 2017/4/5
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<少年がメイド服を来て奉仕する姿は蜘蛛の巣に捉えられた蝶々そのものでした。>

 この「蜜月の蝶〜ぼく、メイドはじめました〜」という作品は同人サークルである「BlackCamellia」で制作されたビジュアルノベルです。BlackCamelliaさんの特徴と言えば一にも二にも男の娘です。サークル代表であるるちこ氏が男の娘が好きで立ち上げたサークルですので当たり前と言えば当たり前ですね。ですがその内容は多岐に渡っており、ビジュアルノベルを始めタイピングゲームや脱出ゲームなど様々あります。今回レビューしている「蜜月の蝶〜ぼく、メイドはじめました〜」は、そんなBlackCamelliaさん初の男の娘ゲームです。男の娘作品を作り続けるスタートとなる記念すべきタイトルであり、ここにサークルさんが一番言いたい事が詰まっていると思いプレイしてみました。

 主人公である鈴城繭は両親にその身を売られた幸薄い少年です。目を開けばそこは見たことのない豪華な調度品で彩られた広い屋敷、そしてそこに住んでいるのは美しい2人の姉妹である小鳥遊薫と小鳥遊結。繭を買ったのは目の前にいるこの姉妹であり、繭に対してこう言い放ったのです。「あなたはこれからメイドとなって、私たち姉妹に尽くしなさい」と。主人公は、言わば蜘蛛の巣に捉えられた蝶々そのもの。そしてそんないたいけな蝶々をこの姉妹はじっくりと嬲るように食べ尽くすのです。男なのにメイドの姿になり、望まない奉仕を繰り返していく繭。果たしてその先に待っているのは希望なのでしょうか、それとも絶望なのでしょうか。繭の未来の全てを決めるのは、この姉妹の気まぐれ1つなのです。

 この作品の特徴はなんと言っても2人の美しい姉妹ですね。姉である小鳥遊薫はむっちりとした体つきに服を着ていても分かる豊満な胸を持っております。まさに蝶々を惹きつける蜜そのもののような存在であり、メイドになった繭を手のひらで転がすようなシチュエーションが多数存在します。一方妹である小鳥遊結は姉とは対照的にスレンダーな体付きと真っ平らな胸、そして何よりも子供っぽい仕草が特徴です。姉のような色気は微塵もないのですが、何故か目が離せない存在です。まるで保護者になったかのような感覚になり、シチュエーションもそんなわがままな彼女の言いなりになる物が多めです。あなたはどちらの姉妹がお気に入りですが?是非自分が奉仕したいと思う方に真っ直ぐ向かってみて欲しいですね。

 その他の特徴としてBGMが挙げられます。オリジナルではなくフリー素材ではありますが、ミステリアスなものが多く屋敷に囚われた少年の心理をよく表現したものとなっております。日常のシーンだけでもミステリアスなのですから、Hシーンになったときは尚更ですね。自分が何故メイド服を来てこんな事をしているのか、そんな心の迷いと姉妹に翻弄され何も抵抗できない様子を増長してくれます。屋敷の高貴な雰囲気も半分BGMが作っていると言って良いと思います。是非テキストだけではなくBGMにも注目して読んでいって欲しいですね。

 プレイ時間は私で1時間5分でした。この作品には幾つか選択肢があるのですが、それは全て「黒い首輪」か「赤い首輪」を選ぶのみです。黒は姉である小鳥遊薫、赤は妹である小鳥遊結を示します。つまり、その時その時でどちらの姉妹に奉仕するかを選ぶことが出来るのです。親に身を売られ一切の権利を失ってしまった繭が持てる唯一の権利がこの首輪の選択です。どんなに空に羽ばたきたくても決して蜘蛛の巣から解放される事が出来ない、自由に見えてどこまでも姉妹の手のひらで踊らされる様子を味わってほしいですね。そしてあなたがどのような選択をしたかで幾つかのエンディングに分かれます。ただ毎回姉か妹を選ぶだけではないのです。加えてどのエンディングも割と自分にとって斜め上の結末でした。そんなシナリオ部分にも注目です。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<たとえメイドになっても人としての気概を忘れない事、それが3人の幸せに繋がる鍵でした。>

 まさか最後に小鳥遊結が死んでしまうとは思いませんでした。そして一方的に繭が奉仕するだけではなく、しっかりとヒロインと純愛しているシナリオに驚きました。何と言いますか、単純に男の娘を楽しもうという気持ちはいつの間にか消えておりましたね。お金を持っていてもどこか孤独に感じていた姉妹。問われれていた蝶々は繭ではなくこの姉妹だったのかも知れません。

 繭は確かに両親に身を売られた幸薄い少年です。ですがその瞳は完全に輝きを失ったわけではなく、メイド生活でもそれなりに楽しもうという気持ちを持っておりました。そしてどうせ姉妹に奉仕するのであれば、形だけではなくしっかりと心も込めて行おうという気概もありました。そうした前向きな姿勢は確かに姉妹に伝わり、いつしかそれは愛情となってふたりの中で育っていきました。正直言いまして、繭は女装はしておりますが女の子には見えなかったんですよね。私には凛々しい少年に見えてました。そしてそれは姉妹にとっても同じだったようです。

 そんな繭だからこそ、姉である薫は妹の結の世話を頼んだのかも知れません。余命何年もないと宣告された結、彼女にとって学校など意味のあるものではなく、ただひたすら死ぬまで自由に過ごすだけの時間を送っておりました。勿論結もはじめは繭の事をただの暇つぶしの道具のようにしか思ってませんでした。ですが、自分の事を金で買った存在であるにも関わらず無償の愛を注いでくれるのです。そこまで奉仕されたら、期待してしまうというのが正直なところだと思います。もう残り少ない自分の人生、この人に捧げるのも悪くはないかも知れない。そう思ったのかも知れません。

 薫もまた気が付けば繭の事を好きになってました。はじめはメイドとして自分への奉仕を強要するだけの関係でした。ですが日数が経つにつれそのシチュエーションは徐々に変化していき、最後には繭が主導で薫を責め立てるまでになりました。ですがこれもまた薫が望んていた事でした。病弱の妹を持つ薫にとって、姉らしく振舞うことは必然であり弱みを人に見せるなどあってはならない事でした。知らず知らずのうちにそんな自分の振る舞いがストレスになっていたのかも知れません。それを開放してくれた繭、これからもきっと繭と薫は仲良く信頼し合いながら生きていくのだと思います。

 この作品のゴールは繭の献身的な気持ちが伝わったかどうかでした。例えその先に死が待っていたとしても、その瞬間に幸せを感じる事ができればそれで十分でした。だからこそ、姉と妹の間をフラフラしているようではいつまでもこの蜘蛛の巣から抜け出す事は出来なかったんですね。繭は、ただ奉仕するだけのメイドになってはいけないのです。メイドになっても人としての気概を忘れず、愛情を持つ事が大切だったのです。3つのエンディングのどれもが手放しでは喜べないものでした。それでも繭や薫にとって納得のいっているものであれば、それがきっとトゥルーエンドなんだろうなと思っております。ありがとうございました。


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