M.M 1人殺すのも2人殺すのも同じことだと思うから




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 - 84 11〜14 2023/2/2
作品ページ サークルページ
フリーゲーム夢現



<あなたも是非、主人公のみすずと一緒に1年間の楽しい学園生活を味わいましょう。>

 この「1人殺すのも2人殺すのも同じことだと思うから」は、同人ゲームサークルである「虹猫」で制作されたビジュアルノベルです。虹猫さんの作品をプレイするのは今作が初めてです。実を言いますと、この1人殺すのも2人殺すのも同じことだと思うから(以下ひとふた)という作品は何年も前から存しておりました。私の周りの同人ビジュアルノベルプレイヤーの方々がよく口にしていたからです。気にはなっていましたが、イベント等で実際に手に取った作品などをプレイしている中でどうしても優先順位を上げられずにいました。そんな中で、プレイして欲しい作品としてノミネート頂いた事で着手する切っ掛けとなりました。また、C101にて遂にパッケージ版を入手する事が出来ました。2023年の1作目はひとふただなと、小さな決意と共にプレイし始めました。

 1人殺すのも2人殺すのも同じことだと思うから、とにかくタイトルが目に引きました。そもそも人を殺す事自体許される事ではありませんし、ましてやこのタイトルの感じですと1人2人というレベルで人を殺している訳では無さそうです。そして、パッケージに描かれているのは制服姿の女の子でした。キメ顔でポーズを決めているスチルが、可愛らしくもどこか恐怖を感じさせます。恐らくこの子が人を殺しているんだろうなと思うのですが、どうしても人を殺すイメージが結びつきませんでした。こんな華奢な女子学生が、どうやって人を殺すというのでしょう?そんな色々なハテナが浮かんだ状態、それがプレイ前の私であり多くのプレイヤーも同様なのではないでしょうか。この時点で掴みは最高ですね。とにかくプレイしてみたい、そう思わせる素敵なタイトルとパッケージでした。

 物語は、主人公であるみすずの1年間の学園生活を通して展開されます。物語開始、みすずの家は火事で燃えてしまいました。この火事で母を亡くしてしまい、三学期から転校と一人暮らしを余儀なくされます。とても不安な気持ちを抱えたままのみすずですが、気さくなクラスメイトのお陰で少しずつ学園生活に慣れていきました。このままそれなりに楽しい学園生活を送るんだろうなと思っていたのですが、そんな希望は一瞬にして打ち砕かれました。この作品は各月で1つの章となっており、それぞれ1月編・2月編と展開されていきます。とりあえず軽い気持ちで1月編をプレイしてみたのですが、その感想がこのパラグラフとなっております。1月編の最後から一気にひとふたという作品の本質が垣間見れるのです。これでハマってしまったら、もう抜け出せませんね!最後の12月編まで、頑張って読み切りましょう。

 この作品の魅力は、みすずを始めとした登場人物のキャラクターにあると思っております。学園ものという事で、みすずを始め数多くの女子学生が登場します。それぞれが個性的で可愛らしく、誰もが魅力的です。そして、登場人物の初対面イメージと最終的なイメージは変わるものです。特にこのひとふたの場合はそれが顕著であり、どの登場人物についても余韻を噛み締め存在を考えさせられる事になります。恐らく、プレイヤーの数だけお気に入りのキャラクターがいると思いますね。あなたのお気に入りの登場人物は誰でしょうか、そんな事を考えながらプレイするのも楽しいと思います。まあ、余韻を噛み締めるとか書いている時点で、登場人物の多くが死んでしまう事バレバレですけどね!

 その他の要素として、BGMの使い方がお気に入りでした。日常の場面・楽しい場面・悲しい場面と幾つものBGMを使い分けているのですが、どのBGMも曲調とイメージがハッキリしてますので現在の場面がどんな雰囲気なのか的確につかむ事が出来ます。そしてBGMの切り替えタイミングがかなり細かいです。コロコロと変わりますのでプレイ中ダレる事無くテキストを読む事が出来ます。BGMそのものも結構主張してきますので、お気に入りのBGMが流れた時は自然とクリックする手にも力が加わりました。背景素材も非常に多いです。あまり見ない物でしたのでオリジナルなのかなと推察されます。あとはテキストも工夫があります。登場人物で名前の色を変えておりますので誰が話しているか分かり易いです。大体は髪の色と連動している感じですね。ビジュアルノベルらしさを上手く利用していると思いました。ちなみに、テキストの色使いにはそれ以外の意味も持ち合わせております。是非これに気付いて欲しいです。

 プレイ時間は私で12時間40分くらいでした。この作品は1年間の学園生活を1月編から12月編まで描いた作品です。各月で約1時間で、1つの月が終わるとタイトル場面に戻りますので区切りがハッキリしております。私も1日一月位のペースで読み進めました。同人ビジュアルノベルで12時間はかなり長めだと思います。そのプレイ時間に裏打ちされた重厚なシナリオと深く練られた設定でした。是非メモを取りながら、ひとふたの世界観を感じ状況を整理して読み進めてみて下さい。そして、そんな世界観や雰囲気を堪能しながら、主人公であるみすずの楽しい学園生活を見届けて下さい。プレイ終了後、あなたがみすずに想う気持ちは何なのでしょうね?是非聞いてみたいです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<全てはみすずという人物を光らせる、その為に何十人という女の子が犠牲になったんです。>

 最後の最後まで、みすずのサイコパスが光った作品でした。そしてBABYシステムとそれに翻弄された人達、陰暦家や鷺沼家の血塗られた歴史など盛りだくさんの内容でした。皆さんは、この作品に何を思いましたでしょうか?

 自分の子供には幸せなって欲しい、これは子を持つ親であれば誰もが思う事だと思います。では、幸せになる方法とは何でしょうか?人より秀でている事、それは1つの答えかも知れません。自分には出来ないのに他人には出来る経験は、辛いですからね。だからこそ、BABYシステムによって人よりも少しだけ秀でている子供が生まれました。そしてその人より秀でているところがアイデンティティとなり、自分らしさの確立に繋がりました。少子高齢化に悩んでいた世界は、BABYシステムによって持ち直し一定の成果を得たのです。

 では、人より秀でている力を持った子供たちは幸せになったのでしょうか?作中に登場する数多くの登場人物を見る限り、どうもそんな事は無さそうですね。力がある故に悩み、また力がある故に周りに振り回される人ばかりでした。それはそうだろうと思います。意図的に人より秀でている子供を作れるのなら、更に秀でている子供を作りたいと思うのは当然だと思います。そしてその研究はどんどん加速し、BABYシステム誕生から200年経った現在、陰暦家と鷺沼家という二大巨塔がぶつかり合うという悲劇となりました。正確には、陰暦弥鈴というモンスターを生み出した事が原因でした。BABYシステムを利用して世界を手に入れようとした人たちは、ことごとくそのBABYシステムの最高傑作に殺されてしまったのです。

 この作品を語る上で、主人公であるみすずを省くことは出来ません。天性のサイコパスであり人を殺す事を何とも思わないみすず、その行動を予測する事は難しく誰もか彼女の行動を止めることは出来ませんでした。加えて、元々持っていた脳派の受信型能力に加えていすずの付与による脳派の送信型能力も手に入れて名実ともに最強の力を手に入れてしまいました。もう、誰もみすずを止めることは出来ません。みすずはその本能のままに、自分が楽しい事をやり続けました。生徒会長になり、爆破事件を起こし、修学旅行に行き、それはそれは楽しそうでした。良かったですねと、素直に思ってしまいました。ここまで突き抜ける物を見せられたらもう清々しさすら覚えてしまいます。どこまで行って欲しい、絶対に負けないで欲しい、曇った表情なんて見せないで欲しい、私はそんな事を思ってましたね。

 だからこそ、そんなみすずを許せないと思う人がいました。それがもう一人の主人公である生田小春でした。彼女の目的は、みすずを更生させる事でした。表面的な謝罪などではなく、心の底からみすずという人間の性格を更生する事です。そうでなければ、みすずは永遠に人を殺し続けますからね。それは、こはるが歩んできた道のりに象徴されていました。厳しくも本当は愛情を持っていた母、常に見方であり続けたメイドさん、そして自分が愛したはるま、こはるの周りには彼女に愛情を与えてくれる存在がこんなにもいたのです。みすずとこはる、この対照的な2人の主人公を中心に、沢山の人達の生き様を見る事が出来ました。

 この作品は、本当に楽しみ方が沢山あると思います。BABYシステムを始めとした物語の設定や世界観の考察を深める、自分にとってお気に入りの登場人物が誰かを考える、リョナや百合といったシチュエーションを楽しむ、人と人の愛情ある姿を堪能する、本当様々な要素が盛りだくさんで飽きることがありませんでした。物語の最後まで読んでも「えっ?」とした感じで終わってしまい、最後の最後までしこりを残してくれました。なるほど、これは確かに私の周りの同人ビジュアルノベルプレイヤーが話題に出すのも納得です。私の場合は、やっぱりみすずのサイコパスな姿が美しいという印象ですね。他にも魅力的な登場人物は沢山いましたが、彼女たちがどんなに美辞麗句を並べても結局のところみすずの気持ち一つに叶わないのです。そんなみすずの美しい程のサイコパスが素敵な作品でした。

 正直な所、全ての登場人物がみすずのサイコパスさを際立たせる為のエッセンスに思えてしまったんですよね。きかとすずの友情、こはるとはるまの愛情、みふゆの決心、確かに尊かったです。だからこそその尊さをぶち壊すみすずが光るんですよね。みすずの為に犠牲になった何十人という登場人物、でもまあそれがみすずの魅力でありみすずの力なんだと思っております。みすずが更生する?みすずがそんなやわな存在な訳ないでしょう!清く正しく美しく生きる、そんな台詞をサイコパス本人が口にしたところで何も信頼できる筈がありませんからね!最後の最後まで、みすずの美しさが光る作品でした。とても突き抜けた作品だと思いました。楽しかったです、ありがとうございました。


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