M.M 金魚の姫と明日の夏海




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 9 7 82 3〜4 2023/4/2
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<人間の主人公と金魚のヒロインと共に、夏の暑くも爽やかな風を感じながらひと夏の出来事を追ってみましょう。>

 この「金魚の姫と明日の夏海」という作品は同人サークルである「Nice Net Neat」で制作されたビジュアルノベルです。Nice Net Neatさんの作品をプレイしたのは今作が2作目です。1作目である「オレンジアワーグラス」は、全体的に穏やかな雰囲気づくりに努めておりいつまでも浸っていたくなる世界観が素敵でした。BGMや効果音等の細部へのこだわりが印象的で、そんな徹底的に作られた世界観の中でこれまた柔和な登場人物の織りなす物語が楽しかったです。今回レビューしている「金魚の姫と明日の夏海」もまた、オレンジアワーグラス同様作品の雰囲気作りが徹底されておりました。パッケージから心躍りましたからね。金魚と人間が織りなすひと夏の物語、是非皆さんにも感じていただきたいです。

 物語の始まりは突然でした。夏祭りにやってきた主人公の夏海歓(なつみよし)は、屋台では定番となっている金魚すくいをします。決して金魚を取りたかったわけでは無かった歓、ですが偶然か必然か一匹の金魚を取ってしまいました。そうしたら、その金魚がなんと人間の姿になったのです。彼女の名前は金魚姫(かなうおひめ)。誇りある金魚一族の末裔で、自分達を連れていく人間たちを憎みいつか反旗を翻そうと考えておりました。そんな姫が人間に捕まってしまいました。果たして姫はどうなってしまうのでしょうか。歓と姫の、ひと夏の物語が幕を開けるのです。

 この作品の魅力は、なんと言ってもメインヒロインである金魚姫にあります。姫は誇り高き金魚一族ですので、正義感がありプライドも高いです。ですが年齢は人間で言う小学校高学年相当ですので、基本的に経験が足りず初めて見る人間界の景色に翻弄されっぱなしです。また褒められ慣れていないのか、歓や兄である蒼や父である洋貴に持ち上げられるとコロッと表情が緩んでしまいます。つまり、チョロインです。そんな人間味のある(金魚ですが)姿が愛くるしいです。また主人公である夏海歓も、姫に負けず劣らず愛くるしい姿を見せてくれます。歓も姫と同じく年齢的には小学校高学年くらいですが、その割に物の分別がつき頭の回転が速いです。その上で周りの人たちの事を真剣に考えており、真心を持って接するようにしております。見た目こそ幼く頼りない様に見えますが、ある意味この物語の誰よりも冷静で周りの事が見えているかも知れません。ですが姫に対する愛情は人一倍です。この作品は、なんと言っても歓と姫の物語ですからね。冷静で的確な判断を下しつつも姫や周りの人への気遣いを忘れない、そんな姿に注目してみて下さい。

 その他の要素として、BGM等の音周りが挙げられます。オレンジアワーグラスから思いましたが、Nice Net Neatさんの作るBGMは耳によく馴染みますね。全てオリジナル曲であり、穏やかな曲を中心に様々なジャンルの曲を取り入れております。個人的に「出会い」という曲に特に強く惚れてしまいました。この曲は歓と姫が初めて出会った時に流れるのですが、オルゴール調のサウンドを中心に柔らかい素材を使いつつも音の重なり合いが力強さを作り上げておりテンションを上げてくれます。そこから一転ワルツに変わり、笛の様な曲調のサウンドがしっとりと展開されます。一曲の中に物語性を感じ、まさに出会いを象徴する素敵な楽曲だと思いました。ちなみにゲームクリア後に音楽モードが解禁され、そこでタイトル名が分かりました。今現在レビューを書いているわけですが、まさに音楽モードで「出会い」を聴きながら書いております。効果音は、夏であり金魚ですので風鈴やガラスのぶつかる音など涼しげな物が随所に現れます。かなり細かい動作にまで効果音が設定されており、さぞ調整に時間を割かれたのではないかと想像出来ます。ほか、OP含めボーカル曲が複数あります。どれもシナリオに直結した歌詞となっており、こちらも音楽モードで聴けますので是非プレイ後にじっくりと聞いてみて下さい。

 プレイ時間は私で3時間10分掛かりました。この作品は全部で12の話と4つの閑話で構成されており、それぞれ5〜15分で読み終わる事が出来ます。話の終わりと始まりが明確であり、また細かく設定されてますので適度に休憩を取りながら読み進める事が出来ます。また選択肢があり、全部で3つのエンディングに分岐します。個人的に分岐の難易度は低いと感じましたが、分からない場合は公式HPに攻略情報がありますのでそちらを参照下さい。また1点注意ですが、公式HPでも書かれてますがパッチがありますので初版(v1.00)をお持ちの方は適用する事をオススメします。これからBOOTHでダウンロードする方は問題ありません。何れにしてもサークルさんのサポートが手厚く、安心してゲームを進めることが出来ました。是非最後までお読み頂き、金魚と人間の淡い物語を楽しんで下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人を好きになる事、そして人生の決断をする姿はどんな形でもカッコ良いですね。>

 最後までプレイして、この作品は歓と姫を中心としたボーイミーツガールではあるのですがそれ以上に生き方の物語なのかなと思いました。歓は人間で姫は金魚という種族の違いはありますが、種族の違いと生き方は直接的には関係ありません。どう生きるかを決めるのは、最終的には自分自身ですね。

 金魚と人間の歴史は思ったよりも長く、姫だけではなく多くの金魚が人間と交流を持っておりました。とりわけ金魚一族の人達はその頻度が多く、姫と従姉妹にあたる草、母親の掬、祖父母の鉢とこの作品では4匹の金魚が登場します。この4匹、人間と交流を持った切っ掛けもタイミングも様々でした。言ってしまえば偶然、必ずしも望んで人間と交流を持ったわけではありません。ですが、その根底にある想いは共通でした。それは人間を好きになってしまった事です。鉢は洋貴と出会い、恋をしました。ですが人間よりも時間の進みが早い自分の容姿を見られるのが嫌で、離れました。それでも洋貴に気付いてほしいと願い、自分の名前を冠したお店を開きました。そして洋貴は気づきました。こんなに嬉しい事はありませんね。鉢の晩年は身体も思い通りに動かず、痛みとの戦いだったと思います。それでも好きな人と精一杯恋をして、自分がやりたい事を成し遂げた人生に後悔はなかったのではないでしょうか。

 一方、掬は不本意な形で人間になってしまいました。金魚の時から洋貴に恋をしてしまった掬、そして自らの意志で人間になりました。ですが、そこにいたのは自分の母である鉢の遺体、掬はやはり人間は金魚にとって敵であると思ってしまったのです。そして、掬は自ら人間になりましたので金魚に戻ることは出来ません。物語が始まる現在まで積み重ねた人間への恨みは、さぞ大きかったことだろうと思っております。そんな洋貴に対する誤解は、母である鉢にとって解かれる事になるのです。「あなたとともに、"生きたかった"」、このメッセージは自らの気持ちの吐露であり娘である掬へのメッセージでした。鉢は洋貴と一緒に生きたかったのです。決して虐げられていたのではないのです。それを伝える事がギリギリ叶いました。掬がこれからどのような人生を歩むかは分かりませんが、十分慣れた人間界において自分の居場所を見つけていける事を願うばかりです。

 姫と草はこれからの人ですからね。今まさに目の前に好きな人がいて、好きな人と共に過ごせる時間のありがたみを実感していると思います。後は、彼女たちが自分の好きな人とどう生きるかを決断するだけでした。物語の最後、姫は渡された薬に対してどうするかの決断を迫られておりました。人間になるか、金魚に戻るか、人生最大の結論を下さなければいけないのは正直辛いと思いました。ですけど、姫は決断しました。どちらを選んでも好きな人の側に居られるのなら、自分はどうなっても構わない。そんな決意を感じました。人間になる選択をした姫、制服姿が眩しいですね!いつまでのその間柄でいてほしいと思います。金魚になる選択をした姫、恐らく物語最後では亡くなっているのでしょう。それでも、歓の手で絵本という形で残りました。ちょっと寂しい結末に涙を誘いました。

 4匹の生き方を見て、人を好きになるのはやっぱり素敵だなと思いました。そして、自分の気持ちと自分の立場に悩んで最後に決断する姿はカッコいいと思いました。鉢の生き方は、なかなか真似できませんね。自分だったら、女々しくても最後まで洋貴の側を離れられなかったかもしれません。自分の幸せと相手の幸せを考えて生き方を決める、自分もそんな風に生きれたらと思いました。少なくとも、今自分に好きな人がいたらその人のことを一生懸命考えてみて下さい。たとえ考えた結果好きな人と結ばれなかったとしても、好きな人が幸せで良かったと思えればそれだけで立派な事だと思います。きっと、そういう姿は誰か別の人が見ていますからね。事実、鉢の事を歓は見つけました。そんな感じで人生は続いていくのだろうと思います。一人の人間と一匹の金魚による物語はこうしてめでたしめでたしと幕を下ろしました。彼女たちのこれからの幸せを願ってレビューの締めとさせて頂きます。ありがとうございました。


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