M.M 東京都繰子の事件簿〜File03:覚の棲む村〜


<これはビジュアルノベルではない本物の「ノベルゲーム」。久しぶりにゲーム性に溢れたシステムでした。>

 この「東京都繰子の事件簿〜File03:覚の棲む村〜」は同人サークルである「はいぺりよん」で制作されたビジュアルノベルです。「はいぺりよん」さんの作品は過去に幾つかプレイさせて頂き、どの作品も非常に完成度が高いという印象を受けております。加えてジャンルも様々なものを作られており、純愛からグロ、抜きゲーと多岐に渡っております。今回プレイした「東京都繰子の事件簿〜File03:覚の棲む村〜」は文字通りミステリー物となっておりまして、プレイヤーは主人公である東京都繰子(読み方はひがしきょうとくりす)と共に遭遇する事件を解決に導いていきます。

 「東京都繰子の事件簿シリーズ」をプレイするのはこれで2作目となりますね。副題に「File03」とありますが、これは3作目という事ではなく東京都繰子が遭遇した3つ目の事件という事です。1作目が「File02」であり、まだ「File01」は明かされておりません。そういう意味でそれぞれのFileで事件は基本独立しておりますので、「File02」をプレイしていない方でもネタバレ無しで安心してプレイする事が出来ます。それでも主人公である東京都繰子を始め、ペットのマンフレットやライバルの古御堂月(読み方はふるみどうせれな)といったレギュラー人物は共通ですので、先に「File02」をプレイした方がキャラクターを掴んでいるので多少馴染み易いかも知れません。まあ特別気になる程ではありません。

 むしろ先に「File02」をプレイした方は今回の「File03」をプレイすると大層驚くと思います。今作の最大の特徴はゲーム要素をふんだんに取り入れた本格的な謎解きであるという事です。ビジュアルノベルにおいてミステリーものは割とメジャーであり、様々なジャンルのものを楽しむ事が出来ます。ですが一般的には選択肢を選んでいくものであり、言ってしまえば犯人が分からなくても総当りで選択肢を選べば真実にたどり着くことが出来ます。ですが今作はそんな生易しくはありませんでした。正直私も油断してました。前作の感覚で安易にプレイしていて、途中やっと事の重大さに気づきました。

 本作は「通常パート」→「事件発生」→「捜査パート」→「推理パート」と展開していきます。メインの謎解きは「捜査パート」→「推理パート」ですが、プレイヤーは「捜査パート」の中でテキスト中に緑色で表示された手がかりを集めていきます。この手がかりですが、一定数しか集めることが出来ず取捨選択する必要があります。そして集めた手がかりを元に「推理パート」で選択肢を選びながら謎を解くのですが、手がかりが不十分だと答えへの選択肢すら出ないのです。最悪無限ループになってしまい、何度も「捜査パート」からやり直す事になります。加えてセーブフォルダが3つしかありません。その為リスタートが自由に出来ませんので、一つ一つの事象を真剣に考えないと時間を無駄にしてしまいます。非常に複雑な構成でした。その分解き明かした達成感は一入でした。これはビジュアルノベルではない本物の「ノベルゲーム」ですね。しっかりとメモを取りながら結末へたどり着いて欲しいですね。

 そしてはいぺりよんさんらしくミステリー以外にも様々な要素が盛り込まれております。まずはオリジナルのボーカル曲が豪華です。OPムービーは気合が入っており、言ってしまえばカッコいいのです。何度も再生してみてました。そしてHシーンが豊富です。主人公である東京都繰子、見た目こそボーイッシュですが脱いだら凄いんです!そんな東京都繰子の魅力に溢れたシーンが多数収録されております。勿論他のキャラクターにもHシーンが用意されており、シチュエーションも和姦、強姦、青姦、百合等非常に多かったです。素直に感心しました。後は圧倒的な知識量ですね。この作品には用語集というシステムがあるのですが、日本神話を中心とした資料はとても豊富でありまるで図書館のようです。作者がこういった分野の専門家である事は間違いありませんね。個人で一から調べてたどり着ける境地ではありませんでした。

 プレイ時間は私で6時間30分程度掛かりました。これは全てのテキストを読みCGを100%にするまで掛かった時間です。実際EDにたどり着くまでは4時間30分くらい掛かったのですが、ここだけでもスキップを活用しながら何周もして何とかたどり着いたのです。そしてそこから更に2時間かけでスキップしまくりながら最善の答えを求め、中々解禁されない隠し要素を切り開きました。ハッキリ言って、CGを100%にするのは非常に困難です。上でも書きましたが、選んだ手がかりでその後の選択肢が変化していきます。つまり、自分で最適だと思って選んだ手がかりが本当に最適だと証明できないんですね。注意深く文脈を読むと朧ろげながら最善の答えが見えてくると思います。大切なのは洞察力と諦めない心です。是非CG100%を目指してプレイして欲しいですね。とてもやりがいがあります。久しぶりにゲーム性に溢れたシステムでした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。


































なお「繰子編了」までたどり着いた方であればネタバレの心配はありません。



































<相手の心を理解出来ることほど、この世にそんなつまらない力はない>

 いやいや、本当に難しい作品でした。システムの難しさもそうですが、それ以上に設定の深さとシナリオの重さをどう捉えるかが難しい作品でした。非常に業の深い設定でした。愛する人の為に全てを犠牲にしてでも楸を守りたい。その事は果たして罪なのでしょうか。そしてそんな業の深い真実を明らかにする事に意味はあるのでしょうか。登場人物の多くが悩み苦しんでました。

 初めに断っておきますが、この作品にはメインパートである「繰子編」の他に「月編」が存在します。作中に登場した怪盗月詠の正体が古御堂月である事は皆さんおわかりかと思いますが、その月の視点で書かれたパートの事です。これを解禁しないとCGは100%になりません。そして月編を解禁するには繰子編をほぼパーフェクトで解き明かすことが必要です。繰子編のEDにたどり着くだけであれば、実は途中の選択肢を幾つか間違っても良いのです。ですが月編を解禁するにはそれだけでは足りないのです。自力でたどり着くには何周もする必要があります。私も最低5周はしました。手がかりも幾つかパターンを模索し、栞も精一杯活用しました。正直難しいです。繰子編のEDにすらたどり着けない人には絶対解禁出来ません。下に私が月編解禁したときのメモを残しますので、どうしても無理な方は参考にして頂ければと思います。

月編解禁メモ

 そしてシナリオですが、まさか小集村の存在そのものが壮大なフェイクだとは思いませんでした。全ては七曲家が女工を人身売買したところから始まりました。そしてその事実や七曲家に掛けられた猿神憑きのレッテルを解消する為に用意されたのがあの覚の風習でした。繰子は本当に探偵なんですね。洞察力や閃きは勿論凄いのですが、ちゃんと探偵として足で稼ぐ事も知っておりました。繰子が足で稼いで手に入れた証拠と自身の頭脳の組み合わせる事、それがこの事件の黒幕である山田をあぶり出す為に必要でした。

 ですがその山田こそがこの作品の一番の被害者なのかも知れません。自分が慕っていた響子の死、そして甚三郎の歪んだ愛が踏みにじってしまった楸の心、それでもようやく楸の心を取り戻し結ばれました。ですがそれも再び甚三郎に潰され、ついに山田は鬼となってしまいました。この瞬間、山田は壊れてしまいました。最大限の苦痛を与えて甚三郎を殺すと誓ったその瞬間、彼女は同時に人の心を読むことの虚しさを知ってしまったんですね。山田のセリフで一番心に刺さったのは「相手の心を理解出来ることほど、この世にそんなつまらない力はない」でした。私としてはむしろ羨ましいと思いました。人の心が読めれば円滑に人間関係を築けますもの。ですが実際はそんな事は無いんですね。人のむき出しの心がダイレクトに刺さってくるのです。羨ましいと思うのはほんの最初だけだと思います。そんなダイレクトな攻撃、耐えられるはずがありません。

 そしてこの事は探偵である繰子も同様に思ってました。彼女の天才的な探偵の実力は、全ての真実を表に出してしまいます。繰子の最後のセリフ「真実を追究するという行為は、思っていたよりも清々しいことではない」がそれを如実に表してますね。真実というものは得てして汚いものです。ましてや殺人事件の真実なんて、ドロドロしていない筈がありませんね。それでも探偵の仕事は真実を暴き出すことです。それが出来るのは繰子しかいないんです。そしてその事は繰子が一番分かってました。彼女は清々しくはないと言っているだけで、嫌だとは言ってませんからね。自分の使命を認識して、たとえ辛くてもこの仕事を続けるのだと思います。次に繰子の前に立ちはだかる事件は何なのでしょうか。それがどんな事件でも、彼女は立ち向かう事だろうと思いますね。ありがとうございました。


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