M.M 日廻り〜HIMAWARI〜
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 6 | - | 70 | 〜1 | 2018/5/2 |
作品ページ | サークルページ |
<短時間で焦点を的確に合わせた、ビジュアルノベルの醍醐味を詰め合わせた作品でした。>
この「日廻り〜HIMAWARI〜」という作品は、同人サークルである「SILK P.O.D.」で制作されたビジュアルノベルです。SILK P.O.D.さんの作品では、過去に「コトノ葉カナタ」「孤独ノユリカゴ」の2作品をプレイさせて頂きました。ピアノを中心とした透き通る世界観の中で哲学的な問いかけが印象的な電波ノベルという事で、非常に尖った作風な印象を持っております。そんなメッセージ性の強いSILK P.O.D.さんが作られた短編のビジュアルノベルが今回レビューしている「日廻り〜HIMAWARI〜」という作品であり、美しい背景からどのようなシナリオが描かれるのか楽しみにしておりました。
そしてこの「日廻り〜HIMAWARI〜」は少し特殊な経緯で制作されました。2018年3月3日〜4日に「ノアフェス.1」というイベントが開催されました。ノアフェスとは「ノベルゲーム/アドベンチャーゲームフェスティバル」の略称でして、「ゲーム制作をもっとカジュアルな文化にしたい!」という思想の元に結成された団体です(公式HPはこちらからどうぞ)。そしてノアフェス.1とはノベルゲーム制作大会でして、そのルールは「2日間(約16時間)以内に、チームで、ノベルゲームかアドベンチャーゲームを制作する」というもの。一見非常にハードな大会に思えました。ですが逆に期限が明確に決められているからこそそのゴールに向かってがむしゃらに走り抜ける事が出来ます。そんなロックなイベントで制作された作品の一つがまさに「日廻り〜HIMAWARI〜」でして、「学生賞」という賞を頂いております。制作時間が16時間ですので勿論短いです。だからこそ、その短い時間に何を詰め込んだのかも気になるポイントでした。また哲学系なのか、電波系なのか、全然違うのか、新しいSILK P.O.D.さんの姿を見る事が出来る予感がしました。
主人公であるショウは、とある田舎で印象的な出会いを経験します。サッカーで遊んでいてつい勢いよくボールを飛ばしてしまったショウ。失ったサッカーボールを探してたどり着いたのは、一面に広がるひまわり畑でした。自分の身長よりも高いところからショウを見下ろす無数のひまわり達、その姿に圧倒され子供ながらその姿に惹かれました。そんな幻想的な景色の中で、1人の女の子と出会う事になります。彼女と過ごす夏の穏やかな時間。ですがそれは永遠に続くものではありませんでした。出会いがあれば別れがあります。このひと夏に出会った2人も迫って来る別れの時、果たしてそこにどのような結末が待っているのでしょうか。淡く切ない気持ちにさせてくれる作品です。
最も印象的に思ったのはひまわり畑の描写でした。水彩画で書かれたいっぱいのひまわりは、夕日に彩られてとても幻想的に見えます。それでいて主人公の身長よりも高い力強さも備えており、まさに夏の風物詩です。ひまわりの花びらは黄色です。近くでは一輪一輪丁寧にひまわりが描かれ、遠くではまるで黄色のじゅうたんのように大胆な構図で描かれております。この一枚絵もまた16時間という時間の中の成果物です。勿論この1枚だけではありません。様々なひまわりの姿、主人公とヒロインの姿、そのどれもがずっと眺めていたくなる儚さを持っております。BGMはオルゴール調の柔らかく寂しげなものを主軸として何曲か収録されております。コンパクトながらビジュアルノベルに必要な要素で妥協しない作りこみが見事でした。
プレイ時間は私で13分でした。更に言えば、この作品には声があります。これもまた16時間の成果物です。その音声をしっかり聞いての13分でした。シナリオ展開は速いです。ですがそれは必要最低限の要素を含んでおり、話が飛んでいるという事はありません。夏の象徴的な姿は丁寧に、その繰り返しはあっさりと、まるで数学の因数分解の様な効率さだと思いました。その為ダレる事など決してなく、最後まで甘酸っぱくサッパリと読む事が出来ます。現在ふりーむで一般公開されております。本当に直ぐに読み終わる事が出来ますので、是非16時間の成果を味わって下さい。16時間でこれだけのものが作れるのです。まさにビジュアルノベルの醍醐味的な作品だと思いました。オススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<誰も彼も幼い時の出来事は思い出に昇華される。もしかしたら、その中に少しだけ運命的な何かがあるのかも知れませんね。>
プレイし終わって直ぐ、「なんでヒマワリはあそこで諦めてしまったんだろう?」って思いました。例えショウが忘れていても、「10年前の約束覚えてる?」って一言いえばショウは絶対に思い出し結ばれると思います。ですけど、プレイ後少し時間を置いて改めて全体を振り返ってみて、ああそれでは意味がないんだなと思いました。何故なら、それでは「運命の人」にはならないからです。
この作品を語るキーワードに「匂い」があります。ショウが惹かれたひまわり畑、そに理由は一面に広がる壮大な景色もそうですが、そのひまわりから放たれる匂いによるものもありました。ひまわりの匂い、ヒマワリの匂い、それが夏の匂いでありショウの想いでの匂いとして記憶に刻まれたのです。そしてそれはヒマワリにとっても同様でした。ひと夏に出会ったとある少年。その若々しい匂いはヒマワリにとって象徴的な物であり、同様にヒマワリの記憶にも刻まれました。皆さんにとっての夏の匂いは何ですか?「お日様の匂い」とはよく聞く言葉ですが、1人1人にとってのお日様の匂いがあるはずです。ひまわりの匂い?プールの匂い?海の匂い?山の匂い?何でも良いと思います。是非あなたの象徴的な匂いを思い出してみて下さい。
そして、ショウとヒマワリのお別れの時が来ました。その時ヒマワリは言いました。「ショウの匂いは覚えたから」と。ヒマワリは、ショウを姿形以上に匂いで覚えたんですね。どんなに年月が経過して姿形が変わっても匂いは変わらない、だからヒマワリはショウに会いに行けるのです。もしかしたら、それはヒマワリが持つ化け物としての特性なのかも知れません。人間にはとても真似できない代物なのかも知れません。ですが、そんな理屈は関係ありませんでした。何故なら、10年後に再会出来るからこそ「運命」だからなのです。
あなたに「運命の人」はいますか?もしくは「運命的な出会い」というものがありますか?きっとそれは奇跡に奇跡を重ねたような経験、もしくは不可能と思われたことが達成された経験に言えるのだと思います。簡単に達成できては、それは運命的ではないのです。私は、ここにこの作品のテーマがあるのだと思います。とある田舎で出会った1人の人間と1人の化け物、その出会いは運命的だと思います。ですが、その運命的な出会いが永遠に続くことはありませんでした。だからこそ、この2人が再び出会えたらそれこそ運命的だと思いませんか?ヒマワリは匂いだけを頼りにショウを探しました。そして見つけたのです。凄く運命的だと思いました。
ですがショウの方はヒマワリに気付きませんでした。狐の耳としっぽの姿のイメージを持っていたショウにとって、人間の姿をしたヒマワリはあの時の運命の人に思えなかったのだと思います。ですが、もしここでショウがあのひまわりの匂いを、そしてヒマワリの匂いを覚えていたら?それはとてもロマンチックで運命的だと思いませんか?ですがそれは達成できませんでした。ショウが気付いた時には、もう手遅れでした。きっと、ショウとヒマワリは運命の人ではなかったのですね。そして、ショウもヒマワリもあの時の出来事は思い出に昇華され、それぞれの人生は交わる事無く歩むのだと思います。この作品は大人になる事の哀愁を描いた作品でした。ですがそれ以上に匂いと運命のハーモニーを描いた作品だと思いました。そんな、どこにもである小さな出会いと別れを丁寧なテキストと背景描写、BGMで表現した心温まる作品でした。ありがとうございました。