M.M 変態な俺は紳士にならざるを得ない
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 7 | - | 72 | 1〜2 | 2017/8/18 |
作品ページ(R-18注意) | サークルページ |
<視覚と聴覚の両方で、言葉遊びのテンポ感とヒロインの魅力を感じてみて下さい。>
この「変態な俺は紳士にならざるを得ない」という作品は同人サークルである「3 on 10(読み方はサンオウトウ)」で制作されたビジュアルノベルです。3 on 10さんの作品は、過去に「永遠に美しき冬よりも」の方をプレイさせて頂きました。とにかくちょこまかと動く立ち絵と水の流れのように自然と展開される言葉遊びが特徴でして、小説や漫画では再現できない魅力がありました。シナリオも一辺倒ではなく、分岐に分岐を重ねて真のエンディングにたどり着いたときは大きな達成感がありました。そんな3 on 10さんのC92での新作が今回レビューしている「変態な俺は紳士にならざるを得ない」です。実に直球なタイトルで、どのようなコメディが展開されるのか楽しみにプレイ始めました。
主人公は変態です。それはタイトル「変態な俺は紳士にならざるを得ない」から容易に想像できます。ですが、タイトルをよく読んでみれば主人公は紳士にならざるを得ない様です。つまり、主人公にはヒロインと素直に恋愛できない事情があるという事です。この作品のヒロインは2人です。1人は主人公の妹であるイオリ、もう1人はそのイオリの友達であるイマリです。イオリとイマリ、似たような名前の2人はそれぞれ主人公の事を「兄さん」「あにい」と呼びます。イオリが兄さんと呼ぶのはまだ分かりますが、どうしてイオリの友達であるイマリが主人公の事をあにいと呼ぶのでしょうか。既にこのあらすじやキャラクター紹介だけで普通にどちらか1人を選ぶような恋愛シミュレーションではない事が想像つきます。変態である主人公が何故紳士でいなければいけないのか。そしてその紳士の仮面が解き放たれる時が来るのか。非常に気になります。
この作品の魅力は、冒頭でも書きましたが流れるように展開される言葉遊びです。物語開始直後からいきなり主人公とイオリのボケの応酬が始まり、それはイマリも同様で収集がつきません。全く物語が進まないのにテキストだけがどんどん消化されていくのです。ですが、気が付けばシナリオは展開しており自然と3人の距離感が変わっております。言葉遊びの中に絶妙に心理描写の変化を組み込んでいるのです。非常に技術の高い事をしていると思いました。これだけ見事な言葉遊びを繰り広げるなんて、相当の語彙の豊富さが伺えます。退屈に思えるように退屈にならないのです。是非この3 on 10さんの十八番を堪能してみて下さい。
その他の特徴としましてよく動く演出が挙げられます。これも冒頭で書きましたが、私はちょこまか動くと形容しております。立ち絵が前後左右に動いたり、視点が右左に動いたりととりあえず騒がしいです。CGではないスクリプトによる演出は、こちらも相当計算されて作られたと想像されます。イオリの素直になれない様子や、イマリの騒がしい様子がテキスト以外からも見る事が出来るのです。そして、ヒロイン2人にはボイスが付いております。それぞれキャラクターによく合っているだけではなく、上でも書いた言葉遊びを聞こえやすい声で届けてくれます。視覚と聴覚のどちらもフルに使い、ヒロイン2人の魅力を味わいましょう。
プレイ時間は私で1時間30分でした。この作品のもう1つの特徴として、ウィンドウサイズがテキスト2行分しかない点が挙げられます。一度に目に入るテキストの情報量が少ないという事です。これは私としてはとても嬉しい点でした。2行しかありませんのでサクサククリックが出来るのです。それはまるで言葉遊びのテンポを損なわない為の様。ですが私にとってはそれ以上の魅力でした。企業でもこのようにテキストサイズに拘っているところをよく見かけます。そんな他の良いところを取り入れている点も素敵ですね。気が付けば最後まで読んでいると思います。そのテンポ感を味わって下さい。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<変態である事を認め公言する事、それはもしかしたら常識の殻を破る一歩なのかも知れません。>
一通りプレイし終わって、最後の最後までハッキリした物言いはしませんでした。オープニングからエンディングまで全て言葉遊び、主人公とイオリとイマリの3人でどんどん関係が変化していきました。ですが1つだけハッキリした事がありました。それは1妹よりも2妹、2妹よりも姉妹の方が良いという事。変態である主人公は、素直に変態である事を表に出しながら紳士になったんだなと思いました。
この世界においてキーワードとなっている妹ナンバー制度。これについて細かいところは書いてませんでしたが、血縁があったり家族であったりする以上に、国から認めれる事が妹として最も求められる点でした。この制度に振り回され、イオリもイマリも自分の本当の気持ちを押さえ込みそれぞれ妹として主人公に接する事を余儀なくされました。そしてそれは主人公も同様でした。主人公はイオリが好きです。ですがイオリは妹ナンバー制度で決められた妹です。普通兄妹は恋愛しません。叶わない恋という事です。同様に主人公とイマリは同じ母親と父親から生まれました。ですがイマリは妹ナンバー制度で妹と認められておりません。他人であれば恋愛できます。血が繋がっていても他人なのです。あまりに歪な関係。そりゃ、主人公が紳士でないとすぐに破裂してしまう関係ですよね。
ですが、そんな決して結ばれてはいけない3人でしたがお得意の言葉遊びで一気に壁を越えていきました。物語後半、イマリは「兄妹とはココロのカタチである」と言いました。そして「誰でも、誰かが、誰かの、兄妹」とも言いました。大切なのは立場や制度ではなく自分の気持ち一つ、そう主人公に訴えておりました。それでもそう簡単に割り切れるものではありません。普段は言葉遊びではぐらかしている主人公も、この場面ではしっかりと国の制度について考えておりました。作中でも「意味はなくても考えざるを得ない、文化的問題」と言っております。自分の心を決めてもそれで世間を渡り歩いていけるのか、それはどうしようもなく切っても切れない問題ですね。
そして悩みに悩んだ上で主人公は決断しました。それはイオリとイマリの両方を妹にする事です。一応順番としてはイオリが1番の妹=最妹で、イマリが2番目の妹です。それでも両方妹であることには変わりありません。まるでイオリとイマリが姉妹になったみたいですね。主人公とイオリ、主人公とイマリという2人だけの関係ではなく、主人公とイオリとイマリの3人の関係、それが一番だと決めました。そしてその覚悟を示すために、自分の両親に手紙を書きました。まとめるとこうです。「妹が増えました、だからもう連絡しないで下さい。」と。もう主人公とイマリは他人ではないのです。そもそも血が繋がっているのですから他人のはずがありませんね。イマリは僕の妹です。なので僕の傍に置きます。だからもう関わらないで下さい。社会のルールを理解して、その上でなお一緒にいたいという気持ちの表れでした。
世の中は変態に対して厳しいです。だからこそ自分が変態と自覚している人は紳士でいなければいけないのです。ですが、自分が紳士でい続けたら決して手に入れられないものがあり、それがどうしても欲しいとしたらどうしますか?そしてその欲しいものがお互いの合意を得ていたらどうしますか。私もこの主人公のように潔く変態になれるでしょうか?いや、むしろ変態になれる人だけが欲しいものを手に入れられるのだと思います。この作品は、妹ナンバー制度を通して自分がやりたい事と常識の殻を破ることの意味を伝えたかったのだと思っております。是非プレイヤーのあなたも健やかな妹ライフを送ってください。そしてそれを周りに隠さないで下さい。みんな、すべからく変態なのですから。ありがとうございました。