M.M ハートピストル




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 7 84 15〜18 2015/12/24
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<是非レディの圧倒的な「紅」に熱くなり、それぞれのキャラクターの信念に熱くなって欲しいですね。>

 この「ハートピストル」は同人サークルである「GoodDaysMaker」で制作されたビジュアルノベルです。GoodDaysMakerさんの初めて出会ったのは1年前の春に行われたCOMITIA108で同人ゲームサークルを回っている時でして、その時に手にとった「ハートピストル 体験版」が大変印象に残っておりました。ジャケットの中心には高貴な雰囲気を感じる女性が妖艶な微笑みを浮かべており、実際にプレイして開始1分で血の匂いが広がるシナリオでした。その女性は最強の吸血鬼、主人公はなぜこの吸血鬼と出会うことになったのか。そしてここからどのように物語が展開していくのか非常に楽しみになりました。そして今年の夏に行われたCOMITIA113で製品版を入手させて頂き、今回のレビューに至っております。

 この作品を語る上でジャケットの中心にいる赤髪の彼女=レディ・ヴァンパイアについては必ず触れなければいけません。今作のメインヒロインであるレディは吸血鬼であり、人間の血を思い通りに操ることができます。そしてただの吸血鬼ではなく世界中から処女王として恐れられている存在、誰も彼女に触れることが出来ないのです。夜の街の地面に広がる人間の血と肉、その上を凛として歩く姿は圧倒的なカリスマ性と恐怖を演出しております。自分以外の存在は全て平等、というよりも全て無価値。生きるも死ぬも全てレディの気まぐれしだいなのです。常に中心にいるのは否応なしにレディ。この作品の背景・効果音・BGMなどの全てがレディの為に用意された物であり素材なのです。

 そしてそんなレディの存在を絶対的にしているのが、作品全体で表現している「紅」の演出です。この作品は多彩な戦闘描写があり、多くの人物がレディを狙って先頭を仕掛けてきます。ですがそんな刺客など物ともせずレディはあしらっていきます。その時に場を支配するのはレディの血を使った数々の術。何をするにも彼女から作られる「紅」の色が世界を覆うのです。地面を見ても紅、空を見上げれも紅、気が付けば自分自身も紅に包まれております。何よりも彼女自身が紅の象徴ですからね。ここまで一貫して紅に拘りレディの強さにこだわる姿勢こそがこの作品の最大の魅力だと思っております。

 ではそんな圧倒的なレディに対して一般人である主人公=火雁竜司はどのように関わっていくのでしょう。普通の人間であればレディを見ただけで震え上がり動くことすら出来なくなります。勿論竜司もその姿に見とれ戦慄しますが、同時にレディを止めたいと思うようになりました。気が付けばレディと同棲するようになり、その数奇な運命の中心に引きずられていきます。レディもまた一般人であるはずの竜司に興味を持つようになり、自ら竜司に関わっていきます。レディの目的は何なのか、そして竜司は何者なのか。このあたりを常に頭の中心に据えて読んで頂ければより物語の核心に迫ることが出来ると思います。

 合わせてこの作品には10人を超えるキャラクターが登場するのですが、その全員が大変魅力的です。幼馴染であるゆちのほんわかした雰囲気に誰もが癒され、レディを狙うローラやエリザ、バードの信念に心が震えます。合わせてレディの下僕であるフランクやメイドにもそれぞれ生き様があり、全員がレディを中心に自分自身の存在意義を問うていきます。一言で言えば情熱的なのです。中途半端な存在は誰ひとりいません。全員が信念を持っており全員が壁にぶつかり悩む事になります。自分の行動が正しいのか間違っているのか、間違っていたらどうすればいいのか。自分自身と他者に対して真剣にぶつかる事で情熱的な雰囲気が生まれ、この作品の熱を上げてくれます。是非レディの圧倒的な「紅」に熱くなり、それぞれのキャラクターの信念に熱くなって欲しいですね。

 プレイ時間は私で16時間30分程度掛かりました。同人ビジュアルノベルとしては比較的ボリュームたっぷりであり、1日2日では終える事が出来ません。それはボリュームもそうですが何よりもシナリオが熱いですのでそれに当てられてそう何時間も連続でプレイ出来ないのです。合わせてとにかく動きまくる背景と戦闘描写、そして効果音とBGMが作品全体を盛り上げてくれます。個人的にすごいと思ったのがカットインの豊富さですね。この作品は場面が切り替わるタイミングでカットインが入り区切りを分かりやすくしているのですが、本当に数が多くこれだけで相当なボリュームです。そんな演出に時間を忘れてずっとプレイしてしまい、途中情熱に当てられて休憩を挟む。そんなリズムの繰り返しになると思いますので、是非作品に呑まれる覚悟でプレイしてみて下さい。体温が上がるのも下がるのもあなた次第。それでも必ず何か1つ印象に残る事と思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<失敗しても後悔しても「これから始まる」という信念を忘れない、それが一歩前に出るという事。>

 最後の最後まで本当に情熱的なシナリオでした。誰もが自分が生きる目的について悩み葛藤しておりました。そして苦しみ後悔しながらもそれら全てを糧として、前を向いて進んでいく姿が印象的でした。この作品は登場人物全員の成長物語であり、人生観に訴える作品だと思いました。

 デモンズの1人であり誰も触れる事が出来ない事から処女王と呼ばれたレディ、そんな彼女にとって生きるという事に何も意味はなくただ悠久の時を歩んでおりました。信頼できるものも存在せず大切なものも存在しない、自分以外の全ては当価値であり無価値と思っているレディにとって、生き方という事を考えるきっかけすら存在しませんでした。それを変えてくれたのが主人公である竜司でした。誰もが自分を見て恐れ震えるのに対し竜司は変えたい言ってくれました。それはきっとレディにとって一番欲しかった言葉。本当はレディはずっと1人で寂しかったのかも知れません。そんな彼女の心に訴えてくれた竜司は掛け替えのない存在となり、2人は永遠の愛を誓うことが出来ました。

 勿論竜司もいきなり始めから自分の生き方を定められた訳ではありませんでした。ナイトメアの力によって無意識的に同じ世界を繰り返してきた竜司、それでも記憶は引き継がれず心に刻んだものしか思い出せませんでした。勿論時間はかかりました。竜司の中では毎回ベストを尽くしているのですが、その行動は実は空回りだったり的外れだったりしておりました。結局のところレディに触れることは叶わず、それどころか周りにいる人すら救う事は出来ませんでした。毎回挑戦して毎回失敗する。後悔の連続であり自分自身はやり直していることにすら気付かない。本編では3回のループでしたが、実際は永遠とも思えるループを繰り返していた事と思います。

 それでも毎回のループの中で竜司が忘れていない事がありました。それは失敗しても後悔しても「これから始まる」という信念を忘れないという事でした。これは竜司だけではなく私自身もそうですし皆さんそうだと思うのですが、人生の中でもう穴があったら入りたいと思うほど恥ずかしい行動をとった事が何度もあったと思います。時には大切な友達を傷つけた事もあったでしょうし、その後悔に潰され自信を失う事もあったと思います。ですが、後悔って割と簡単に出来るのですけどそこから立ち直るって相当の体力と勇気が必要なんですよね。立ち直る為には自分の恥ずかしい部分を認めなければいけませんし、それを踏まえて二度と同じ失敗をしない事が必要です。これはとても怖いこと。自分が正しいと思っていた事を捨てなければいけないのですから。

 ですがそれが出来た竜司の成長は素晴らしいものでした。特に3回目、ライトとブラッドの両方を兼ね備えた竜司はその実力もそうですがそれ以上に決して折れない信念を持ち合わせておりました。しかもその信念は過去の途方もないループの中で導き出した答え、数え切れない後悔の果てにようやく彼ら全員が報われる時がやってきたのです。作中でも竜司は「憶測や偏見で感情的になるのはもうやめた」と自信を持って言っております。相手が凶悪な力を持っていても、人間を殺した過去を持っていても感情でぶつかるのではなく話し合いで解決しようと徹底していた竜司。無謀とも思える信念ですが、そこには可能性という宝物が隠れておりました。この作品はレディの高潔な姿を拝む作品ではありますが、同時に竜司の成長を描いた作品だと思っております。

 そして他のキャラクターもループを経て少しずつ変わっていきました。特に印象的だったのはやはりローラですね。チャーチに兵器として利用され自分の生き方を持っていなかったローラ。人間以外を全て悪と見なしそれ以外の言葉に聞く耳を持っておりませんでした。一時はそんな自分の信念が間違っていたことを知り、相棒のロンギヌスの槍すら持てなくなりました。それでもそんなどん底から再び彼女の人生は始まるのです。「あたしがこれからを作る!あたしの軌跡がここから始まる!」と決意したローラは強かったですね。元々の女の子らしい性格と可愛らしい容姿もあり、彼女が一番好きというプレイヤーもさぞ多い事と思います。それも全て竜司が導いてくれた事。そんな彼だからこそ、ローラはたとえ自分が選ばれなくても彼の幸せを祈る事が出来たのだと思っております。

 段々とまとまらなくなってきましたのでそろそろ締めようと思います。全体を通して「紅」の演出と動きのある背景は戦闘描写をより説得力あるものにしておりました。全てはレディの為であり、レディが竜司という安息の地を見つかるまでの物語でした。ですがそれはレディが1人で勝手にたどり着いたのではなく、登場人物全員の失敗と後悔の果てに一歩前に進む事ができたからたどり着けた境地でした。手を抜いたキャラクターは1人もおらず、情熱的な描写はプレイヤーに勇気を与えるものでした。彼らの生き様は間違いなくカッコいいもの。私も彼らを見習って後悔に潰されるのではなくそこから始めて一歩前に出れるよう頑張らなければと思いました。ありがとうございました。


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