M.M 始まりのリフレイン




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 6 - 62 1〜2 2019/3/13
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<ループ出来るという強みを活かして、作品のテーマを見つけながらTRUEENDを探してみて下さい。>

 この「始まりのリフレイン」は同人サークルである「すずとはな」で制作されたビジュアルノベルです。すずとはなさんの作品をプレイしたのは今作が初めてでした。切っ掛けはC95にて同人ゲームの島サークルを巡っている時です。とても柔らかい表情をしている女の子の姿、そしてループものの青春ビジュアルノベルという事で簡単には終わらないシナリオが待ってるんだろうなと思い手に取らせて頂きました。私の中で、ループものと聞くとどうしても悲劇が待っているイメージがあります。この作品も同様なのかそうではないのか、まずは目の前の女の子を大切にする気持ちでプレイし始めました。

 主人公である片岡瞬は、今年の春から高校生としての生活をスタートさせます。運動神経抜群でコミュニケーションも得意な瞬ですが、あまり人と深くかかわろうという気持ちは持っておりませんでした。これはネガティブな意味ではなく、効率的に高校生活を送ってやろうというある種の意気込みの様な物です。ですが、そんな意気込みは4/1の投稿初日に出会った一人の女の子を前にして既に崩れようとしております。どうしても気になる目の前の女の子、彼女に近づきたくて同じ写真部に入部する事にしました。その帰り道、自分の真上から声が掛かります。そこにいたのは何と悪魔の女の子でした。彼女は瞬にこう言いました「あなたの大切な物と引き換えに、タイムリープの能力を与えてあげる」。どうして悪魔は瞬にこのような事を言ったのでしょうか、そして写真部の女の子との関係はどうなっていくのでしょうか。ここから非日常的な日常が幕を開けるのです。

 この作品はループものという事で、普通のビジュアルノベルにはない機能が備わっております。それは、主人公が付けている日記の日付を選ぶ事で過去へと飛ぶ事が出来るという物です。日記にはその日行動した事が3行程度で簡単に書かれております。もし日記の中身を見て「もしかしたら失敗したんじゃないか?」って思ったら、是非この機能を使って過去に戻りやり直してみて下さい。過去に戻って何が変化するのかは行ってみてのお楽しみです。私も完全に全ての変化を把握している訳ではありませんが、少なくともTUREENDへ進むためには欠かせない機能だったと思っております。一般的なセーブ&ロードとは少し違う、この作品ならではのループを感じてみて下さい。

 その他システム面ですが、Unityという事でやや使い難い部分があるように思えました。第一に、非アクティブの時は全ての動作が止まります。私の様にテキストエディタを起動しながらプレイしている人は、文字を書き込む度に動作が止まりますので注意が必要です。第二に、既読スキップがありません。元々コンフィグでも指定がありませんでしたので嫌な予感はありましたが、初めて読むテキストでも平気でスキップしてしまいます。特にこの作品はループものですので、何周かする中でうっかりスキップで読んでいないテキストを飛ばしがちです。スキップする時はくれぐれもご注意を。第三に、バックログが使い難いです。この作品は起動した時点までの全てのバックログが読めます。ですが逆に時間が経てば経つほどテキストの量が増え、スクロールバーをほんの少し移動させるだけで一気に過去のテキストに飛んでしまいます。少し手前のテキストを見返す時は逆に不便だという事です。以上により、出来るだけ今表示してある一文一文を丁寧に読み進めていってください。この作品の主題ではありませんが、一度通ったテキストは振り返られないくらいの気持ちが大切です。

 プレイ時間は私で1時間50分くらいでした。これは何周かしたのちにTRUEENDにたどり着くまでの時間です。この作品はループものであると同時に選択肢の数もそれなりにあります。そして、割とTRUEENDまでのフラグ管理はシビアだと思いました。それでも何周かすればきっとこっちが正解なんだろうなというのが分かってくると思います。後は、その直観を信じて諦めずに前に進む事です。TRUEENDに行ったなという変化はハッキリと分かります。自分も思わずガッツポーズしてしまいましたね。この作品は青春ビジュアルノベルですので、是非その甘酸っぱさを感じてみてください。そして、その甘酸っぱさの中で伝えたい大切な物を見つけてみて下さい。心温まる作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<この物語は、幼なじみを大切に思う一人の少女の願いと、誠実な男子学生の想いが交わった奇跡の物語だと思いました。>

 最後までプレイして、実際のところこのループシステムはどこまで活かされていたのかは分かりませんでした。唯のセーブ&ロードではフラグが立たなかったのか、敢えてループする事でフラグが立つのか、何れにしてもあまりループ機能である必要性は無かったのかも知れないと思いました。

 ビジュアルノベルに限らずゲームにおける最大のタブー、それはプレイヤーが神の視点を持っておりプレイヤーの行動一つでゲーム中の登場人物は如何様にも動かせてしまうという事です。選択を誤ればその前に戻ってロードしてしまえばいい、セリフを飛ばしてしまったらバックログで見返せばいい、そんな感じでゲームそのものをコントロールし意のままに操れるのがプレイヤーの特権です。今作では主人公そういう意味でのタイムリープ能力が備わりましたが、これでは主人公とプレイヤーの能力が競合してしまいますので今一強みが活かされなかったのかなと思ってしまいます。やるのであれば、セーブ&ロードの機能をいっその事失くしてしまうのが良いと思いました。そうすればプレイヤーは嫌でもタイムリープせざるを得なくなり、その繰り返しによってたどり着いたTRUEENDの喜びは一入だと思います。

 後は、作中で定めたタイムリープのルールと代償について全く考慮されていない様子が残念でした。確かルールでは「一週間しか戻れない」と書いてあった気がします。ですが、実際はそれ以上戻る事が出来ましたので矛盾していると思いました。他にもタイムリープには代償がつくとありましたが、実際に代償が付いたのは2周目の最後に悪魔からの選択の部分のみに思えました。私も遊び半分で何度かタイムリープしてみたのですが、例えばシナリオが変化したりといった事は見受けられませんでした。選択肢が一部減っているのは確認したのですが、これが代償なのでしょうか。どちらかと言えば、繰り返したことにより正解の選択肢が見える化されたのかなと勝手に解釈しました。何れにしても、折角の面白い設定が活かしきれなかったように思えました。

 それでも、正しい選択肢を選んでいく中で徐々に楓子が幼なじみから卒業し瞬に心を開いていく展開は嬉しく思いました。勝手な解釈ですが、悪魔に依頼したのは幼なじみなのかなと思っております。いつまでも死んでしまった自分に囚われている楓子に早く卒業してもらう為に、瞬だったら出来ると思って依頼したのだと思います。いや、もしかしたら悪魔そのものが幼なじみなのかも知れませんね。1枚だけ小学生時代の楓子と幼なじみの姿が映ったスチルがありましたが、髪の色とか似てますからね。何れにしても、悪魔はいわゆる悪魔なんかではなくちゃんと瞬と楓子の事を考えて行動しておりました。初めから、瞬の周りには味方しかいなかったんですね。

 もちろん一番大切だったのは、瞬がちゃんと思うだけではなく自分で行動したからでした。これはこの作品のテーマにもなっていると思います。自分がやりたい事やなりたい事があったら、思うだけではなく行動に移さなければいけない。そうでなければ相手に自分の想いは届きません。瞬は、自分は楓子の事を大切に思っているし慕っている。この事を行動に起こしたからこそ、なつきも瞬の事を認めて楓子の隣の席を渡しましたし、何よりも楓子に幼なじみを卒業させる事が出来ました。瞬は年の割に大人びた性格ですが、恋愛は初めてですので戸惑いがちです。だからこそ、選択を間違えますし時には楓子を守れなかったりします。でも、瞬にはタイムリープの力がありますからね。タイムリープを繰り返し正しい選択を選ぶという行動の結果が、あのTRUEENDだったのかなと思っております。

 実際の人生にifはありません。あの時こうすれば良かった、って思った時にはもう遅いのです。だからこそ人はそうした後悔を忘れないで、次に同じ様な状況になった時に活かしていくしかないのかなと思っております。誰だってタイムリープ能力が欲しいに決まってます。ですけど逆にタイムリープを持ってしまったら、その時その時の行動を真剣に考えなくなってしまう気もするんですよね。皆さんも、ビジュアルノベルをプレイする中でセーブ&ロードが無かったら絶対にもっと真剣に選択肢を考える筈なんです。何故なら、やり直せないからです。そういう事だと思います。この物語は、幼なじみを大切に思う一人の少女の願いと、誠実な男子学生の想いが交わった奇跡の物語だと思いました。ありがとうございました。


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