M.M 花は桜木 人は武士




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 6 - 75 2〜3 2017/3/30
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<楽しげな3人の言葉の掛け合いの中で、是非「武士」というものの生き方を考えてみて下さい。>

 この「花は桜木 人は武士」という作品は同人サークルである「飛石企画」で制作されたビジュアルノベルです。飛石企画さんの事を知った切っ掛けは、私の知り合いでありフリーゲームを制作されているフォロワーの方が積極的に作品を宣伝していた事です。私は基本的に同人ビジュアルノベルはコミケなどの即売会で入手しており、有料無料含めダウンロードで手に入れることは殆どありませんでした。ダウンロードに消極的と言うよりも、即売会で入手した作品のプレイを優先しているという事です。それでも最近はフリーゲームの制作されている方にフォローして頂いたり、ノベルゲーム部のサークルさんでダウンロード販売を専門としている方がいたりする関係で、割とダウンロードの割合も増えている気がします。今回レビューしている「花は桜木 人は武士」もまたふりーむでダウンロード出来る作品であり、無料でありながらまとまったボリュームと史実に基づいた設定が印象的な作品でした。

 タイトルに武士とあります通り、この作品の舞台は現代ではなくいわゆる戦国時代となっております。主人公である常世田言(とこよだこと)はとある田舎の農家で生まれ育った10代の女の子です。戦国時代は徹底した男子社会の時代、農家で生まれた言は母親と兄からひどい迫害を受けておりました。唯一味方をしてくれた父親も戦に召集されそのまま帰らぬ人に。自分の価値なんて存在しない、そんな心を押し殺す生活を送っておりました。そして戦が激化していく中でついに常世田家にも招集命令が下されます。そうしたら戦に行きたくない兄が何と言に「戦場へ行け!」と差し出したのです。それでも、既に自分の存在価値を捨てていた言にとってどうでもいいこと。むしろ戦場で死ねるならそれも悪くはないと思っておりました。ですがそこで言は運命の人と出会ってしまうのです。それが本多忠勝という忠義に厚い武士。その勇ましい姿に、言は武士の道を目指す決意をしました。女の子なのに武士を目指すという設定、忠勝を始め戦場で出会う武士たちとの関わり、そして何よりも「武士」というものと真正面に向き合う物語が幕を開けるのです。

 最大の魅力は、やはり主人公である言と攻略対象である忠勝・康政との掛け合いですね。言は女の子ですが人一倍度胸が据わっていて、一度決意したことに対して真っ直ぐ進んでいきます。それは戦という命の取り合いをする場面でも同じです。それでも自分の経験の無さや向こう見ずな性格が災いして時に大きな失敗をしてしまいます。その時の言は、本当に見ていられなくなるくらい落ち込むんですね。真っ直ぐな性格はポジティブにもネガティブにも働きます。そんな言を、忠勝と康政は上手に扱うんですね。忠勝は忠義に厚いですが人に対する気配りは苦手で、よく周りに誤解を与えてしまいます。言の思い込みと忠勝の適当さが良い具合に物語を回してくれましたね。この面白いくらいのすれ違いが見所の1つです。そして康政は逆に理詰めで物事を進める性格です。こちらもある意味気配りが苦手であり、言に対してストレートに諌めてしまい落ち込ませてしまいます。言葉と本心のすれ違いが見所ですね。そんな忠勝と康政という正反対な性格の2人だからこそ言は振り回され落ち込んだり立ち直ったりまた落ち込んだりまた立ち直ったり、それでも最後は自分で決意して前に進んでいくんですね。是非プレイヤーという神の視点で、彼らの行動を見守って欲しいです。

 そしてこの作品は戦国時代を舞台としているという事で、史実に対して忠実に設定を作っております。メインの3人に加えて、徳川家康や織田信長など実際の人物が登場し当然彼ら歴史の表舞台の人間の行動でメイン3人の人生も変化していきます。戦ったら絶対に勝てないのに時に戦わなければいけない、そうした理不尽な場面も見所ですね。また史実に忠実という事で土地柄も勿論正確であり、背景も一部のフリー素材を除き実際の写真を加工したものを使用しております。実際に現地で取材をしてきた物もあり、見た目以上に時間をかけて製作されている事が分かります。また背景や舞台については同じくフリーゲームを制作されているcrAsmさんの管理人である倉下さんが聖地巡礼を行っておりますのでそちらを参照頂くとより理解が深まります。

倉下さんによる聖地巡礼の様子はこちらからどうぞ(ややネタバレ有り)

 プレイ時間は私で2時間30分でした。この作品はいくつかの章に分かれており、それぞれの章が終わるタイミングで別窓でタイトルに戻るかを選択出来ます。一息ついたり休憩したりするのに最適なタイミングを指示してくれるのです。またタイトル画面から各章に飛ぶことができますので、細かくセーブしなくても問題ありません。また選択肢もいくつかあり、それによってエンディングも複数に分かれます。バッドエンドに行ってしまうこともあるかと思いますが、そのように選択肢をやり直したいと思った時は直前の選択肢に戻れますのでこれも親切ですね。勢いがあれば一日で終わってしまう事と思いますが、とにかく是非選択肢で変わるセリフや登場人物たちの掛け合いを楽しみ、武士として大切な事を自分なりに胸に刻んで欲しいですね。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<ただ自分の心に素直になりそれに恥じない様行動する。それが武士であり言が愛される理由。>

 最後までプレイして、やはり言の気持ちの揺らぎとその上で自分の行動に責任を取ろうとする気概が印象的でした。自分の存在価値を否定されて育った幼少時代、そんな言にとって初めての戦場で初めて見た武士としての姿、どれだけ輝いて見えた事でしょうね。自分も忠勝のようになりたい。そう思うのは当然だと思いますし、恥ずかしい事でも浅ましい事でも何でもないと思います。それでも言は思春期の女の子。自分に素直になりきれず、かといって湧き上がる気持ちを抑える事が出来ない。そんな人間味溢れる姿を楽しませて頂きました。

 とにかく言の中には色々な気持ちがありました。忠勝の様な格好いい武士になりたい。力も存在価値も無かった自分に意味を見出したい。忠勝や康政の傍にいたい。手柄をとって認められたい。そのどれもが言にとって正直な気持ちでした。恐らくこれらの気持ちに優劣など無かったのだと思います。ですが若い言にとってそんな貪欲な自分の気持ちは恥ずかしく浅ましい事だという認識があったのだと思います。これは何も言だけに限らず、私たちも同じだと思います。他人よりも優位に立ちたい、でもそんな気持ちを見透かされたくない。そんな自分の中だけの駆け引きにいつもその時の判断や決断を迷ってしまいます。本当、そんな駆け引きは自分の中だけなんですよね。他の誰も気づいてくれない、むしろみんな自分の悩みに気づいてよ!そんな声すら聞こえてきそうです。

 実際作中でも忠勝はそんな言の繊細な乙女心なんて全く理解してませんでしたからね。忠勝にとって、言は扱いやすい舎弟のような存在でした。それ以上もそれ以下もありませんでした。ただ、言が傍にいていつものように元気な姿を見せてくれればそれで良かったのです。言に実力が無いのは百も承知、それでも言が嘘を付かず素直な性格であるという事はちゃんと認めておりました。だからこそ、言が自分の気持ちに悩んでいる様子を見て忠勝はどうして言の様子が変わってしまったのか本当に分からなかったんですね。純粋に戸惑ってました。ならば自分から確認するしかない、そんな忠勝らしい真っ直ぐな行動力が、2人の誤解を解く鍵になったんですね。

 康政は逆に言の気持ちや葛藤に気づいていた節がありました。常に周りの状況を見て情報を収集する康政らしい洞察力でした。途中、言に対して声をかけるのを忠勝に譲る場面なんて康政らしいなと思いました。今この場を丸く収めてくれるのは、忠勝の真っ直ぐな行動力だと頭で分かっていたんですね。結果自分の気持ちに蓋をする康政、それでも3人なんだかんだ言って死ぬ事なく戦場のパートナーとしてやっていけました。だからこそ最後の戦い、本当に言も忠勝も失うかも知れないと思った時の行動力や発言に心を打たれました。康政からキスをする場面なんて、思わずガッツポーズしてしまいましたからね!康政の素直な気持ちが表に現れて、なんと言いますかホッとしました。

 そんな忠勝と康政という2人に囲まれて、言は回り道をしながらも確かに武士というものを体に心に刻んていきました。武士とは強い事、相手への礼を重んじる事。自分の行動が周りから避難されない事ではありません。自分の気持ちに素直になり、その気持ちを裏切らない様行動を律するという事です。もちろん上で書いた行動が結果として表に出ますのでそれを真似すれば武士”らしく”は見えます。言も始めは武士らしさが分からず、むしろ自分の素直な気持ちを押し殺して武士らしい行動に努めました。ですが、心が伴っていない行動に自分を納得させる事は出来ないんですね。手柄を立てる、首を取る、人に認められる、大切なのはこれらの行動に「何故?」と問いかける事だと思いました。そして最後の戦いでやっと答えにたどり着きました。言は”二人に認められればそれでよかった”のです。そしてその気持ちに素直になって良かったのです。そう思ったとき、自然と自分の行動が決まっておりました。

 始めは唯々二人に付いて行きたくてがむしゃらに真似をしていた言、そして見様見真似で武士の行動をなぞっていた言、それでも上手くいかずむしろ人に迷惑をかけてしまいました。落ち込みもしました。ですがそんな言を咎める人は誰もいませんでしたね。分かっているからです。言が素直であり悪気がない事が分かっているからです。忠勝も、康政も、家康も、そしていつも傍にいて見守ってくれた涼次郎も。一つだけ注文付けるとしたら、言はもっと涼次郎に対して感謝するべきですね。言の事を一番理解しているのは涼次郎なのですから。彼がいたから言は死なずに武士として生きているのですから。そんな誰からも愛される存在であった言。これからも道に迷う事はあるかも知れませんけど、彼女らしく自分の心に素直にそして相手の事を信じて前に進んでいく事と思います。ありがとうございました。


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