M.M 花火の咲かせ方




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 7 - 61 1〜2 2018/2/11
作品ページ(無し) サークルページ(無し)



<短いながらも言いたい事を伝えようとしているシナリオに注目してみて下さい。>

 この「花火の咲かせ方」という作品は、同心サークルである「アルティメット饅頭」で制作されたビジュアルノベルです。アルティメット饅頭さんに初めてお会いしたのはC93で同人ゲームの島サークルを回っている時でした。まるで水彩画の様な淡いパッケージの絵柄、そして「大切な過去が、今を苦しめる」という象徴的なフレーズが何か意味深で気になってました。そしてタイトルである「花火の咲かせ方」というネーミングが美しいですね。教室のような場所で花を活ける少女の姿も印象的です。やや死生観を感じるシナリオが待っているのかなと期待しつつ、プレイし始めました。

 主人公である不知火花月が生きている世界、そこは煉獄と呼ばれる現世とは違う世界です。この煉獄に住んでいる人は既に現世で死んでいる人、ですがそれぞれどのような事情を抱えて煉獄にたどり着いたのかは、誰にも分かりません。煉獄では現世と違い、変化に乏しく四季が存在しません。そして一番の特徴はRPと呼ばれる自分の願いを叶える力が存在しているという事です。変わらない世界でそれなりに自分の好きなように生きる事ができる煉獄の世界。それでも、そこで生きている人達には超えなければいけない過去がありました。それを一つ一つ紐解いていくのが、花月に託された役割なのです。

 この作品の魅力は、苦しみを抱えている登場人物たちがどのように過去に向き合うかを描いたシナリオにあります。登場人物は主人公である花月を始め何人か登場します。そしてどの登場人物も人には言えない過去を抱えているのです。それは、自分が死んでしまう程に重いもの。それらを一つ一つ解決していきましょう。ですが、既に死んでしまい煉獄に来てしまった彼らにどのような解決する術があるのでしょうか。後悔先に立たず、果たしてそうでしょうか。頑なに話したがらない過去を彼らが語りだしたとき、その瞬間を見逃さずにしっかりと寄り添ってあげましょう。

 その他の点としてはBGMが挙げられます。決して目立つ事のないBGMばかりです。ですが、そのサウンドはどこか儚く、この煉獄という世界観を表現しているかのようです。悲しみの中に前に進もうとする決意が見える、そのようなピアノサウンドが中心となって雰囲気を作っております。どんなに登場人物達が元気でも町に活気があっても青空が綺麗でも、間違いなくここは現世ではなく煉獄である。そう確信させるBGMの力を感じました。

 システム面では多少注意が必要です。まずは既読スキップがありません。この作品には選択肢がありますので、どこかのエンディングにたどり着いたら再度やり直す事になると思います。その時にスキップするとうっかり未読のものも飛ばしてしまいますので慎重になるべきです。他にはゆっくりとしたカットインが入るのですが、それに対して場面転換は速いです。時間の経過や状況の切り替わりが速いですので、プレイヤーの時間間隔とゲーム上の時間間隔がズレるかもしれません。気が付いたら何日も経過している、重要な場面に入っている、そうならないように注意が必要ですね。

 プレイ時間は私で1時間10分程度でした。エンディングは幾つかありますが、そこまで選択誌の数は多くありませんので簡単に全ての分岐を検証する事が出来ると思います。上でも書きましたが、場面転換が速いですので人によってはあれよあれよという間に終わってしまったと感じるかも知れません。そしてどのエンディングがトゥルーでどのエンディングがバッドなのかもハッキリ定まっておりません。ある意味、プレイヤーが一番と感じたエンディングがトゥルーなのかも知れませんね。それでも、煉獄という世界の秘密に触れるエピソードにまで是非たどり着いて欲しいですね。短いながらも言いたい事を伝えようとしているシナリオに注目してみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分自身が納得し後悔しないこと。その事に絶対的な答えなんて存在しない。>

 最後までプレイして、もっともっとそれぞれのキャラクターのエピソードを深堀して欲しいと思いました。確かに彼らが死んでしまった理由や抱えている後悔は伝わりました。ですが、それが事実として淡々と書かれていては、中々彼らの気持ちに寄り添うのは難しいのかなと思いました。スピーディーなシナリオ展開は好印象ですが、正直勿体無いと思ってしまいました。

 どのヒロインも後悔を抱えておりました。涼風鈴は自分を庇って死んでしまった母親に一言言葉を伝えたい、菅井竜乃は気弱な弟が心配で目が離せない、小日向愛夷もまた自分の為に植物人間になってしまった友達に責任を感じている、どの後悔も簡単に解決できるものではありません。解決というよりも、解決させる事なんて出来ない事ばかりです。私が日頃思っていることで、お金で解決できる後悔は大した後悔ではないという事があります。取り戻せる手段があるのであれば、それを実現するために踏ん張ればいいのですから。ですが、彼女達3人の後悔はどれもお金では解決出来ませんね。何故でしょうか、そこには死という絶対的な壁が立ち塞がっているからです。

 どんなにお金を積んでも、どれだけ医療技術が進歩しても、一度失ってしまった命を取り戻す事は出来ません。だから彼女たちは、自分の記憶を取り戻してもその事を簡単に他人に話さないんですね。話しても、解決できないからです。人が人に相談する時って、大なり小なり解決への糸口を探している体と思っております。ですが、それが実現不可能なのであれば、もう口を塞ぐしかありませんね。ですが、ここは煉獄でありRPがあります。彼女達だからこそ起こせる奇跡があるのです。そうであるのなら、後は決断するだけでした。花月の後押しもあり、彼女たちは自分が抱えている後悔を払拭する事が出来ました。

 それでは、主人公である花月の後悔とは何なのでしょうか。それはかつて共にこの煉獄へとやって来た友達の幸せでした。死者が持っているとされるRP、それはこの煉獄を管理している存在が割り振ったものでした。そして、その煉獄を管理している存在こそが、花月の友人である言乃葉泰でした。彼もまた後悔を抱えた存在でした。自分の正義感で、大切な友人を失ってしまったのですから。そこからは自分の感情を殺してシステム的に煉獄を動かし続ける泰の姿しかありませんでした。こんな姿、花月が見て納得するはずがありませんね。

 最後、花月は泰の役割を引き継いで自らこの煉獄を管理する存在となりました。そして、煉獄の全ての人間から自分の記憶を消しました。作中ではそれを「大きな花火」と形容しておりました。花火というものはとても美しいですし、一度の煌きで沢山の人の心を惹きつけます。ですが、それって一瞬なんですよね。たとえ一つの花火に見とれても、次の花火が上がればそちらに注目してしまいます。まさに花月という存在そのものですね。花月によってそれぞれの後悔を解決する事が出来ました。それはまるで花火のようです。ですが、それが終わってしまい記憶を失ってしまえば、もう忘れられてしまいます。そんな茨の道を、花月は自分で選択したのです。

 果たしてどのエンディングがトゥルーなのでしょうね。私は花月が最後誰の記憶にも残らない存在になった上記のエンディングをトゥルーとしました。ですが、そんな重い宿命を背負わずいつものように彼女らと仲良く過ごす日常を送るエンディングでも良いのではないかと思っております。正解なんてありません。世の中の正義感に揃える必要もありません。美しいものが何故美しいかなんて、誰も説明できないのですから。あとは、自分自身が納得できるかどうかですね。そんな潔い道を選んだ花月は、少なくともプレイヤーの心には残り続けるのだと思いました。ありがとうございました。


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