M.M 葉みな月31にち
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
4 | 8 | - | 70 | 〜1 | 2021/11/13 |
作品ページ(サークルページと同じ) | サークルページ |
<とにかくマッタリした雰囲気と、細かいところに配慮されたシステム周りが魅力です。>
この「葉みな月31にち」は同人サークルである「ty屋」で制作されたビジュアルノベルです。ty屋さんの作品をプレイするのは今作が初めてです。切っ掛けですが、私とお知り合いの倉下さんの共同で主催している「第一回crAsM.Mビジュアルノベルオンリー」にty屋さんが参加頂いた事でした。今回当イベントには本当に多くのサークルさんに参加頂いているのですが、その中でも個人的にこのty屋さんの持つ雰囲気はかなり独特の物だと感じました。まず、どこかレトロな雰囲気を思わせるドットな絵柄と色の種類が限定された画面が類を見ません。世代によっては懐かしさすら感じます。そして、プレイすれば分かりますが非常に緩い空気です。当たり前の日常を感じる事が出来ます。そんなty屋さん初めての作品でした。
主人公であるリクノ(名称変更可)は、おっとりとした性格で糸目が特徴の女の子です。時はハロウィンである10/31。この日は幼馴染である成彦・あやみー・クグさんを合わせて4人でまったりとしたハロウィンパーティーをしておりました。ハロウィンパーティーだからといっても、集まるのはいつものメンバー。何か起こりそうなのに、何も起きないいつもの空気でした。そんな中、話の流れで肝試しをする事になりました。ハロウィンパーティーをしている成彦とあやみーの家(2人は兄弟)には昔から建っているお堂があります。4人いますので、くじ引きで2人ペアになり始まったちょっとした肝試し。果たしてその先には何が待っているのでしょうか。
個人的にとても気に入ったのがシステム周りでした。この作品はRen'Pyを使用しておりそのデフォルト機能なのか分かりませんが、BGMや効果音がなると画面左上に名前が出るのです。音楽が好きな私にとってこの機能はありがたかったです。もちろん、それ以外の基本的な機能は揃っております。プレイ後には音楽鑑賞モードもありますので、あの緩い雰囲気を演出しているサウンドを再び聞く事が出来ます。他にも、選択肢までの誘導にセンスを感じました。この作品はクイズゲームの様相もあり、とある場面で3択クイズに挑む事になります。この結果でエンディングが変化する訳ですが、人によってはクイズなんて無視してさっさとエンディングを網羅したいという要望もあると思います。そんなニーズに対して、何とそのクイズパートをバッサリと飛ばす機能があるのです。作品のコンセプトすらすっ飛ばしてまでユーザーの事を考えた仕様、お見事だと思いました。
プレイ時間は私で50分でした。この作品は全部で6つのエンディングがあり、1ルート15分程度掛かります。それでもトータル50分で終わったのは、上で書いたクイズパートをバッサリ飛ばす機能や既読スキップを活用できたからですね。短い作品ではありますが、その実はまったりとした雰囲気と幼馴染としての間柄を象徴したテキストに魅力があります。本当はクリックなどせず、オートモードで眺めているくらいが調度良いかも知れませんね。何となく仄々としてしまう読後感も良かったです。現在Windows版・Macintosh版・Linux版・ブラウザ版が頒布されておりますので、お手持ちの環境に合わせてダウンロードしてみて下さい。これもRen'Pyが為せる技でしょうか。面白かったです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<唯々こそばゆい、それもまた幼馴染の信頼関係な成せる空気なのかも知れませんね。>
最後までプレイして、よもやここまで最初と最後でテンションが変わらないとは思いませんでした。ですけど、彼らは幼馴染なのでそれで良いのかも知れませんね。こういう間柄、とても羨ましいと思いました。
妙齢の男女が同じ時間と場所を過ごしているだけで、少なくとも彼らには信頼関係がある事が伝わりました。そしてそれは肝試しをしている時の男性陣の行動や言葉に現れていました。3人とも、一歩踏み出せ無さそうで踏み出している感じが素敵ですね。そしてそれをちゃんと理解しつつどこか戸惑っているリクノもいました。気持ち的には、男性陣の方が瀬っている感じですね。それをリクノがやや遠目から見つめているという構図でしょうか。よく言われている事で、男女の精神年齢は一般的に7歳差だそうです。だとすれば、同い年の男女であれば恋愛に対する向き合い方に差が出るのも頷けます。最も、それを理解してなおお互いを慕っている事が伝わりましたね。とても大切な関係だと思いました。
実際のところ、シナリオ上クイズ要素はあまり意味はありませんでした。もちろん、クイズそのものはトリビア的な要素が沢山あって面白かったのですが、どうしても唐突な感じは否めませんでしたね。まあだからこそ、本編でもクイズのある無しを選べたのだと思います。もしかしたら、何か次の一歩に進む為の切っ掛けが欲しかっただけかも知れませんね。それがたまたまクイズだったという事で、そういった姿もまた若い男女という感じがしました。私、このクイズの展開を見て占いを思い出しました。占いもまた、中々決断を下せない男女が何か切っ掛けなれば良いなと縋るものだと思っております。良い結果が出ればそのまま前に進みますし、悪い結果が出れば保留にするだけですからね。こういうのを、案ずるより産むが易しと言うんですね。
それにしても、3人のリクノ対するアプローチは本当に素敵でした。「すごくぎゅっとしたいとは、今、思ってる」「本当はずっときみの毛布になりたいと考えていた」「頬をぷにぷに」「まだ四人にはなりたくない」「好きだから今まで見たいに遊べなくなる」「特別なにかしてなくても、なんか安心するからかも」こんなこそばゆいセリフのオンパレードですからね。大切に想いつつもどうアプローチすれば分からない、それでも何か一歩踏み出したい、でも嫌われたくない、でも前に進みたい、そんな葛藤を感じるものばかりでした。難しいですよね、今まで仲の良い幼馴染だったのにその関係性を変えてまで前に進むのが正しいのか。いっその事ずっと幼馴染でも良い気もします。ですけど、そんな簡単に割り切れないのは恋愛だと思います。よく悩んで、相手の事を考え抜いて欲しいです。
とても優しい気持ちになる事が出来るシナリオでした。レトロ調の雰囲気で生み出されるマッタリとした展開、そしてその中で展開される男女の気持ちの機微、きっと誰もが通り過ぎた出来事なのではないでしょうか。そんな懐かしい気持ちを思い出させてくれる作品でした。ありがとうございました。