M.M 灰色の夜が明けたとき
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
8 | 8 | 6 | 79 | 4〜5 | 2024/7/13 |
作品ページ | サークルページ | パッケージ&副読本 副読本 |
<細部にまで拘ったファンタジー世界の中で、登場人物達の細かな心の揺れ動きを楽しんで下さい。>
この「灰色の夜が明けたとき」は同人ゲームサークルである「白砂庵」で制作されたビジュアルノベルです。白砂庵さんの作品をレビューするのは今作が初めてです。切っ掛けですが、私とcrAsmの代表である倉下さんとで行っているビジュアルノベルオンリーというオンラインイベントに参加頂いた事です。イベント企画の中で灰色の夜が明けたときを紹介させて頂いたのですが、丁寧に作られたファンタジー設定と取っつき易い登場人物が印象に残っており改めて最初から最後までプレイしなければと思っておりました。コミックマーケットでパッケージ版を買わせて頂いた縁もあり、今回のタイミングでプレイし直し本レビューに至っております。
舞台は現実ではないファンタジー世界。ここには聖魔法使いと闇魔法使いが存在し、それぞれ治癒を司る魔法と破壊を司る魔法を使う事が出来ます。一方全ての人間が魔法を使えるわけではなく、ニルと呼ばれる魔法を一切使えない人も存在します。かといってニルが不利な立場かと言ったらそんな事はなく、多少のいざこざはあれどそれなりに秩序を持った世界となっております。ただし、グリゼオと呼ばれる聖魔法と闇魔法の両方を使える存在を除いては。今やグリゼオは伝説の存在となっており、お伽話の中でしか存在しません。そんな世界で、薬師見習いとして生活しているニルの少年ディノはある日一人の少女と出会います。彼女の名前はシルヴィア、闇魔法使いでした。偶然出会った二人が冒険を始める事で、彼らを中心とした人間関係が変化しやがて大きなうねりとなっていくのです。
この作品の特徴は、丁寧に作られた世界設定にあると思っております。聖魔法使いと闇魔法使いという相反する存在が共存しているというだけで、何かしらぶつかり合いが存在する事は想像できます。事実この属性の違いによる痛ましい事件も起こっており、またお互いの立場から双方に対して意見や正義を持っている様子が細かく表現されておりました。舞台設定も細かく、主人公ディノが住んでいる田舎町ベルム、ヒロインシルヴィアが住んでいる北の集落、そして聖都と呼ばれているピストリアなど、数多くの街が存在しまたそれぞれの距離感や規模感も細かく設定されております。本当、古き良きファンタジーRPGをプレイしているかのような感覚でした。
最大の特徴は、数多く登場する登場人物間の心理描写です。プレイし始めはディノとシルヴィアによる冒険ですが、そこから一人また一人と主要人物が増えていきます。最終的には立ち絵のある人物だけで10人は軽く超えており、またそれぞれの人物で立場や属性が違っております。驚くべきは、そんな彼ら全員にしっかりとした見せ場があり何かしら繋がりを持っているという事です。誰一人欠けてもこの作品の目指すエンディングにたどり着く事は出来ません。プレイ時間が増すごとに深まる人物像や絡み合う関係性の複雑さに舌を巻く事と思います。是非丁寧にメモを取りながらプレイして頂きたいです。
その他の要素として、音楽や背景などで数多くの素材を使用しております。特に音楽はBGMだけではなく主題歌もあり、物語を盛り上げてくれます。個人的には、ラウリという街がありその裏手にある鉱山で流れるBGMが大変気に入ってしまいました。マリンバをベースとしたサウンドで、洞窟らしい暗さだけではなく先に進む事でお宝が待っていそうな期待感も込められておりワクワクさせてくれました。背景について、例えば街の背景だけ数えてみてもこの作品に存在する街ごとに背景が用意されております。田舎の街や港町、大都市や村など細かく描き分けており、これも見るだけでワクワクさせてくれました。
プレイ時間は私で4時間50分くらいでした。エンディングは2つあり、選択肢を吟味する事で両方のエンディングにたどり着く事が出来ました。様々な要素を活用してファンタジー世界を作り上げており、久しぶりにハイファンタジーの良さを感じる事が出来ました。サークルさんの設定プレイ時間は6時間であり、同人ビジュアルノベルとしては長めです。ですがそんなプレイ時間を感じさせない魅力だらけで、集中して最後まで読み切る事が出来ました。後半になるにつれて明かされる真実に、どんなエンディングが待っているのだろうと気になってしまうと思います。是非そんな作り込まれた世界観を堪能して頂き、最後までプレイして頂きたいです。素敵な作品をありがとうございました。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<灰色の夜は明けましたので、後は皆がそれぞれ自分らしく幸せに生きて欲しいですね。>
最後の最後まで驚きの連続でした。各登場人物の繋がり、グイードとモニカの真実と過去、そして物語の結末、様々な要素が綺麗に繋がりスッキリとした読後感に包まれております。ファンタジーらしさが詰まった素敵な作品だと思いました。
この作品の主人公はディノでありヒロインはシルヴィアですが、物語の中心にいたのはこの世界で恐れられている存在のグリゼオであるグイードとモニカでした。他の人が持っていないものを持っているが故の苦しみ、そして嫉妬の心が容赦なく2人を襲いました。特にグイードに対する仕打ちは辛辣で、私利私欲で動いている大人の言いなりになるしかない姿は痛々しかったです。それでも、グイードにはこの世界で一二を争うほどの魔力が備わっていました。本当であれば、こんな大人たちに負けるはずのない力があるのです。ですが、やはり幼い時のトラウマというものは罪深いですね。父親を人質に取られていた事もありますが、ディノはモニカと出会わなければずっと暗澹とした気持ちで過ごしていたのかも知れません。
モニカも普通の人とは違う人生を歩まざるを得ませんでした。その切っ掛けはやはりグリゼオであった事でした。幼い時に悪魔狩りに会い両親を失ってしまいます(本当は父親であるアルベルトは生きていましたが)。ただ、幸いなことにモニカには優しくしてくれるオリカナの人たちがいました。健やかに育ち、その後悪魔狩りの真実を知る為に中央教会に赴きました。そこで出会ったのがグイードでした。ストレートに自分の気持ちを伝えてくれるグイード、始めこそは軽くあしらってましたが次第にその一途な気持ちに惹かれていきました。同時に悪魔狩りの真実を知ってしまい、間接的に両親を殺した犯人がグイードである事も知ってしまいます。昔のモニカだったら、グイードに復習していたのでしょうね。ですがそのグイードから沢山の愛情をもらい、いつしかグイードの為に死んでも良いと思える程になりました。
この作品は、全体を俯瞰すればグイードとモニカの成長物語と言えるかもしれません。悲しい出来事に絶望し、心を砕かれながらも自分の足で人生を生きていく様子に感心しました。そして、そんな2人の様子を主人公であるディノの視点で見届ける事が出来ました。ディノはニルですので魔法が使えません。そしてこの世界はやはり魔力がある人の方が有利です。それでもディノが物語の中枢に関われたのは、好奇心と素直な心を持っていたからかなと思いました。比較的無口であり不愛想なシルヴィアと仲良くなり、彼女の母親であるソフィアと再会させる事が出来ました。その後中央教会でグイード・モニカ・ダヴィデ・エンリコと仲良くなり、モニカが起こそうとしている計画において大事な役割を担う事になりました。唯の一般人であるはずのディノの周りには、いつの間にか大勢の人が集まっていました。これこそがディノの魅力であり、主人公らしさなのかも知れませんね。
全体を通して本当に登場人物が輝いており、誰一人欠けても最良のエンディングにはたどり着けませんでした。力を恐れる人間の気持ちが起こしてしまった悪魔狩り、そしてグリゼオであるグイードに対する仕打ち、そんな人間の闇の部分もありましたが最後には収まるところに収まったという感じでしょうか。コミカルあり、シリアスあり、冒険あり、恋愛あり、と様々な要素がバランスよく配分されており、最後まで楽しく読む事が出来ました。後は、グイードを始め皆さんには幸せに生きて欲しいですね。ディノとシルヴィアは割とマイペースですし、モニカは結構チートですし、グイードはそんなモニカの傍に居ますし、きっと良い関係のまま年を取っていく事だと思います。灰色の夜が明けたとき、それは長いトンネルを潜り抜けてやっと太陽の元にたどり着いたときを表しているのかなと思いました。ありがとうございました。