M.M Grms




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 5 78 3〜4 2022/12/17
作品ページ(無し) サークルページ



<BGMや効果音などの音周りやその他要素を駆使して、サイコホラーADVという雰囲気を作っております。>

 この「Grms」は同人ゲームサークルである「鶏唐雑炊」で制作されたビジュアルノベルです。鶏唐雑炊さんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けですが、私とcrAsmという個人サークルを運営している倉下さんで行っているcrAsM.M ビジュアルノベルオンリーに参加頂いた事です。crAsM.M ビジュアルノベルオンリーでは、イベント前に私の方で一部サークルさんの作品を紹介させて頂いております。今回レビューしている「Grms」も事前にプレイし紹介させて頂きましたが、この時は作品の雰囲気を掴む事を優先し登場人物の考察や背景描写について整理しておりませんでした。その為一度データ削除した後に改めて始めからプレイさせて頂き、今回レビューとしてまとめております。

 主人公のアキラは、この4月に転校してきた高校二年生です。都会から田舎へ、ガラリと変わった生活環境ですがクラスメイトが明るく迎えてくれました。特に、隣の席になった戸津初芽(トツハツメ)は献身的にアキラの面倒を見てくれます。初めての土地だけど何とかやっていけそうだ、そんな転校初日で終わる筈でした。ですが、この学校には一つの呪いが存在しているみたいです。学校の中に存在している西階段、ここでかつて人が死んだとの事。馬鹿馬鹿しい迷信と思っていたら、西階段を通ろうとしたら後ろからもの凄い音が聞こえてきました。それは屋上からの自殺の音、それでも「この学校、呪われてるんだって」と淡々と話す初芽に薄気味悪さを覚えます。果たして本当に呪いは存在するのでしょうか?それとも人の手による物でしょうか?若しくは神の裁きか何かでしょうか?主人公アキラの結末がどうなるのか見届けて下さい。

 この作品のジャンルは「サイコホラーADV」となっております。開始5分で、既にサイコでありホラーな要素が登場しており一気にプレイヤーを恐怖の世界へと引きずり込んでくれます。私、サイコでありホラーである事は本当に恐怖だなと思っております。何故なら、サイコは人間の内面に関わりますので根本的に自分がどうこうする事で対処出来ないからです。何考えているか分からない物ほど怖い物はありませんからね。加えてホラーです。完全に人知を超えた物ですのでこちらも人間1人で対処できる代物ではありません。そんなサイコでホラーなADVという事で、全く先の展開が予測できない面白さがあります。幸い、主人公がかなりの行動派ですのでシナリオ展開は比較的速いです。プレイヤーの皆さんも是非物語の真実が分かるまで置いておかれないよう付いていきましょう。

 その他の要素として、BGMや効果音などの音周りに拘りがあると感じました。BGMはフリー素材一部含めてオリジナル曲も多数存在します。サイコホラーな雰囲気を演出する為にコロコロと変化し、特に恐怖を駆り立てる場面での使い方が上手です。殆どBGMとは呼べない、環境音の様な曲は雰囲気満載でした。そして同様に効果音も多用しております。冒頭誰かが自殺する音から始まり、R-15推奨らしく人が死んだり殺されたりする音がリアルでした。テキストが無く効果音のみで演出している場面もあり、効果覿面でした。そしてOPムービーがありボーカル曲となっております。エレキギター中心のノリの良いナンバーで、キャラクター紹介もされていて作品の雰囲気を味わう事が出来ます。もちろん、音周りのみならず背景描写にも拘りがあります。朝昼夜の場面転換のみならず、主人公がいる時といない時でちょっとした色使いやぼかし具合が違う様子に雰囲気の違いを感じました。

 プレイ時間は私で3時間10分くらいでした。この作品は基本選択肢無しですが、一度最後までプレイする事でExtraが解禁されサイドストーリーなどの追加要素が現れます。本編にも追加要素が登場し、二周三周する事でこのGrmsという作品の世界観を味わう事が出来ます。最後までプレイして、果たして皆さんの心に残るのはどんな感情でしょうかね。私の場合は、ネタバレ有りでその辺りは書こうと思います。中々一言では言い表せない、複雑な心境になってしまいました。是非最後までプレイして、隅から隅まで味わってみて下さい。楽しかったです。ちなみに、プレイ後時間のある方はタイトル画面でしばらく放置してみて下さい。ビビりました・・・


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<呪いや神のせいにするのはある意味簡単。そこから抜け出せず抗えない結果が、このGrmsという作品だったと思っております。>

 物語の最後、人間が抗えない3つのものが語られました。恐怖と快楽、そして恋です。この作品は、どの登場人物も恐怖と快楽と恋に囚われておりました。それこそが呪いの正体であり神の正体だったんだなと思っております。

 戸津初芽は寂しがり屋でした。両親が離婚し母親は働きづめ、ずっと孤独という恐怖と向き合っていました。自分の孤独を満たしてくれる存在であれば誰でも良かったんですよね。花井先生は悪い先生ではありませんでした。ただ短期で不器用なだけだったと思っております。ですが、戸津初芽には魔性を持ち合わせておりました。どこか儚げで守ってあげたくなる存在、それが男の劣情を誘いました。これが、ある意味不幸の始まりだったのかも知れません。御門久遠はある意味一番普通の感性を持っていました。いじめられてましたが偶然そのいじめっ子が死にました。御門久遠にとって天にも昇るような嬉しい出来事だったと思います。そりゃ、神の存在を信じたくなると思いますね。神を信じる事が、御門久遠の快楽だったんだなと思っております。

 坂田敏子はそもそも快楽の原点がズレておりました。人を傷つける事でしか快感を得る事が出来ない彼女に、人殺しをしてはいけない倫理観など何の意味も持たせてはくれませんでした。それが快感なんですからね。だからこそ、伊坂新九郎との相性は最高でした。痛みを快楽と捉えてしまい、加えて不死の力を持ってしまいました。お互いがお互いの快楽を満たすので、こんな最高の相性はありませんね。ただ、2人とも恋していた訳ではなく純粋に快楽のみ追及していただけでした。ここにアキラが入る事で噛み合っていた歯車が狂ったのかも知れません。斎藤由香里は、ある意味普通の女性だったのかも知れません。快楽主義なのはアキラに対する行動で間違いなさそうです。不幸なのは、それが坂田敏子に見つかった事ですね。

 そして物語で最も恐ろしい存在が、主人公であるアキラだとは思いもしませんでした。アキラは正義感の強い人間でした。この事自体は悪い方向に働かなければ問題ありません。ただ、アキラは正義感が強いうえに思い込みも強かったのです。戸津初芽を好きになった事で、彼女の周囲に写る男が全て敵に見えてしまいました。勿論これは戸津初芽の思わせぶりな態度も原因の一つではあります。しかしだからと言って、人を殺していい訳ではありません。特にEND03に向かう時のアキラは唯の異常者でした。花井先生を殺す事に何も違和感を持ってなかったのですから。まあ、戸津初芽もアキラが花井先生を殺したと知っていながら自分が愛されている事を実感していましたのでそれで良いと思ってましたけどね。結局は、自分の中の抗えない物に支配された結果でした。考えれば、END02でも無理やり御門久遠を説得してましたからね。相手の言う事など聴く耳持たずですよ。これが正義感 を持った人間の怖いところだなと思いました。

 どの人物も、自分が恐怖し快感を感じ、そして恋している事から逃れる事が出来ませんでした。そしてその気持ちとほんの少しの偶然が、学校の呪いを作り出したのです。呪いは伝播し正当化され、益々彼らの抗えない物を正当化していきました。神の仕業?いいえ神は自分の中にいるのです。その事に、誰もが薄々気付いていて気付かない振りをした結果がこのGrmsという作品でした。良い悪いという話をすれば、悪いんでしょう。何故なら、自分の事だけしか考えていないからです。ですけど、これが人間の本質だとすればそれに抗うのは不健全なのかも知れません。最終的にこの学校は廃校になるそうです。そりゃ、皆が呪いのせいにして好きな事をやれば人は集まらなくなりますよ。まさにサイコでホラー、そんな儚い物語を楽しませて頂きました。

 そんな神様に憧れて、神になろうとした少女がいました。橋本佳奈子です。ですが最終的に彼女は神になる事は出来ませんでした。この作品において、唯一の常識人です。常識を持って周りを気にかけられる人が、唯一の存在である神になどなれる筈がありません。安田兄も安田弟も、神という架空の存在に怯え囚われてました。それでも弟は兄の探しものを見つけ、1つの決着をつけました。いずれ、彼らが怯え囚われ憧れた神は居なくなると思っております。人は、不可解な物を呪いや神と位置づけ逃げようとします。そこから逃げなかった彼ら3人は、きっと人間らしい未来が待っていると思います。他の登場人物は、きっとどこかで破綻するでしょうねぇ。最後そんな事を思いました。


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