M.M 虚構英雄ジンガイアVol.1




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 - 81 3〜4 2015/2/2
作品ページ サークルページ



<大人になっても童心を忘れてないのは素敵な事、その気持ちを持ちながらプレイして欲しいですね。>

 この「虚構英雄ジンガイアVol.1」は同人サークルである「ばかすか」で制作されたビジュアルノベルです。ばかすかさんと初めて出会ったのはC86で島サークルを回っている時でして、始めはロボットもののバトル展開な設定の作品かと思ったのですがパッケージ裏のあらすじをみてそれだけではないようなプロットを感じたことが印象に残っておりました。その後ばかすかさんのシナリオライターであるまきなさんとTwitterでお話する機会があり、いい加減プレイしないとと思い現在に至っております。感想ですが、唯のバトルものではない人生観と家族愛に満ちたシナリオに唸ってしまいました。

 主人公である神原英雄はごく普通のサラリーマンです。住んでいるのはお世辞にも綺麗とは言えないアパートで決して裕福ではない生活を送っております。ですが綺麗で理解のある妻である神原鳴海がおり、5歳になる息子の大介と3最になる娘の真衣と4人で幸せな生活を送っておりました。5歳になる大介はやんちゃしたい年頃で、最近の流行りはヒーローごっこ。いつも英雄が悪者役で遊んでおります。余りに元気なため夜ふかししすぎて鳴海から怒られることもしばしば。やっと言葉を話し始めた真衣もお父さん大好きで、こんな幸せがいつまでも続くと思っておりました。しかしある日家族4人でショッピングモールに遊びに行ったとき、一瞬にして世界は変化してしまいました。

 公式HPの概要をご覧になれば分かりますが、冒頭「ヒーローになんてなれない」と象徴的なセリフが書かれております。男の子であれば誰もが一度は戦隊モノの特撮ヒーローに憧れたと思います。主人公は格好良いヒーローであり、苦労しながらも最後は悪者を倒す姿は一度はなってみたいと思ったのではないでしょうか。またドラゴンクエストに代表されるRPGも多くの人がプレイされたと思います。始めはレベルが低くて弱い勇者ですが経験を積み装備を揃えて最後に魔王を倒す展開に、自分もあのファンタジーな世界へ行ってみたいと思わせてくれます。ですがそれらはあくまでフィクションの話。実際は経済社会の中でお金を稼ぎ生活する為に生きる毎日です。ヒーローなんてこの世にいないと誰もが気付かされ、大人になっていきます。では、現実でそうしたファンタジーな展開が起きたときあなたは本当にヒーローになれるでしょうか。

 最大の魅力はやはりロボットと怪物の闘いの演出ですね。この作品のタイトルにもなっている「ジンガイア」は作中に登場する巨大ロボットです。そして怪物も同じくらいの大きさと禍々しさです。そんな両者の闘いは動的で且つ背景もBGMも緊迫した雰囲気を演出してくれます。怪物の攻撃にやられそうになる主人公、それを一発逆転するヒーローのジンガイア、格好良いですね。動きの演出に大変力を入れていることが分かります。またそうした演出は戦闘シーンのみならず日常パートでも活かされております。特にBGMの使い分けは見事だと思いました。ただ場面に応じて穏やかだったり激しかったりするだけではなく、突然ブツ切りにしたりまた鳴らしたりと登場人物の心理描写に連動しております。テキストを読むだけでは伝わりにくいニュアンスを補っており、作中に引き込まれていると思います。

 プレイ時間は私で3時間40分掛かりました。今回はVol.1という事でプロローグとVol.1の2章分が収録されております。まだVol.1ですので物語の真相は分からないことだらけです。なぜ主人公たちはロボットと共に戦うことになったのか、変化した世界は元に戻るのか、主人公はヒーローになれるのか、様々な事を想像しながらプレイして頂ければと思います。そしてこの作品には男の子であれば誰でも思った事のある妄想が詰まっております。仮に大人になってもその妄想を持ち続けたとしてもそれは決して恥ずかしありません。大人になっても童心を忘れていないのは素敵な事、その気持ちを持ちながらプレイするとなお心に響くと思います。是非心を空っぽにして子供の心で読んでいきましょう。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分の居場所って、無くなったと思ったのは本人だけで確かにそこに存在しているんですね>

 恐らくですけど、英雄は寂しかったんじゃないかと思います。愛すべき家族が死んで、自分以外は物語のヒーローみたいな立ち位置になって、唯一変わっていないのが自分だけでした。一家の大黒柱として家庭を守ってきた英雄、そんな立場が逆転してしまい逆に守られる立場になってしまいました。きっと自分の居場所を失ってしまったと思ったんだと思います。だから少しでも父親らしさを出そうとしたんだと思います。でもそれは不可能なこと。何故なら、英雄はヒーローではなかったからです。

 まずもって世界観の広さに驚きました。始めは唯のパラレルワールドに迷い込んだだけでそこで目的を達成すれば良いだけだと思ってました。ですが実際はそんなことはなく、英雄はこの怪物が蔓延りジンガイアが存在する世界の仕組みを解明しなければいけませんでした。それでもいきなりそんな前向きな気持ちになることは出来ませんでした。上でも書きましたが、父親としての立場をごっそりと失ってしまったんです。自分の存在価値について深刻に悩んでおりました。物語後半で「なんで俺じゃ駄目なんだ」と呟きましたが、これが素直な気持ちなんだろうと思います。昔からヒーローに憧れていた英雄、そんな英雄がやっと夢見たファンタジーの世界にやってきたのに自分は守られるだけ。もうプライドも何もありませんね。居場所が無くなったと思ってもしょうがないと思います。

 ですが、例え力がなくても心の奥に持っている想いは変わりませんでした。それは「家族を守る」という事です。どんなに力があっても特殊な能力を持っても人の気持ちだけは変えることは出来ません。ましてや長年付き添い将来を共に歩むと誓い合った家族の絆は決して替え用のないものです。途中愛すべき妻である鳴海から「いちいちうるさいな」「迷惑です」と言われて絶望しました。この辺りの場面は鳴海の身体的及び精神的変化の描写も加わって結構私の心に刺さりましたね。更に英雄はその後大切な妹である美波の腕を失う原因を作ってしまいました。それでも英雄は彼らの元に帰ってきました。絶対に自分が愛すべき人を助けるという想いを持ち、結果として英雄、鳴海、美波は再開することが出来ました。この姿こそ父親であり家族愛だなと思いました。例えヒーローでなくても、想いを持ち続ければそれは必ず形になるんですね。

 それにしてもこの世界の構造はどうなっているのでしょうかね。何よりも英雄の前に現れる謎の男は何者なのでしょうか。始めは神の視点で物を言う生意気な奴だと思ってましたが、後半は助言するかのような振る舞いを見せます。そしてその助言通りその後事象が発生します。まるで謎の男がこの世界のルールを作っているかのようです。後は最川の城の一室にあったゲームの企画書、そのタイトルは「鋼の巨人 ジンガイア」でした。どう考えても無関係ではありません。最川の想いがこの世界を作ったのでしょうか。恐らく違う気がします。では実は英雄の想いでしょうか。そう単純でもなさそうです。何よりも彼らは再び時間退行してしまいました。加えて英雄には新しいオプションがついてました。それはさながら物語の主人公のようです。果たして謎の男は英雄に何をしたいのか。「凡人が天才を倒す話」を誰が求めているのでしょうか。このあたりはぜひVol.2で語られて欲しいですね。

 とにかく物語の伏線と登場人物各々が持っている真実、そして英雄の葛藤と戦闘描写の演出と見所が満載でした。途中設定に追いつけなくてひと呼吸置きながら読み進めてましたが、一つ一つのセリフの重みは考えれば考える程深くなる味わい深さがありました。鳴海の変化、美波の嫉妬、そして英雄の苦悩、人物描写だけでもこれだけの重みがあります。まずはVol.1で一旦の整理はつきましたが、今度はより本格的に世界の謎に迫ることが出来そうです。果たして真実はどこにあるのか。そして英雄は愛するべき家族と共に元の慎ましい生活に戻れるのか。次回を楽しみにします。ありがとうございました。


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