M.M 月光のソードブレイカー ミナト編




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 8 83 4〜5 2022/7/6
作品ページ サークルページ



<まるで美少女ゲームの王道を歩んでいるような、登場人物とテキストが魅力の安心感がある作品です。>

 この「月光のソードブレイカー ミナト編」という作品は同人サークル「あいあんそぉど」で制作されたビジュアルノベルです。あいあんそぉどさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けですが、私とフォロワーである倉下さんで企画している「crAsM.Mビジュアルノベルオンリー」に御参加頂いた事です。様々なジャンルの作品が集合してくれた当イベントの中で、あいあんそぉどさんの作品はある意味王道な設定でした。学園ものであり美少女が登場しドタバタする、ビジュアルノベル界で誰もが通った道ではないでしょうか。そんな安心感を覚えたのが最初の印象であり、私が初めてビジュアルノベルをプレイした当時の感覚を思い出しながらプレイしようと思いました。

 時は現代。しかし実際の現代とは違い、オートマタと呼ばれる自動機械人形が生活のあらゆる部分に浸透しております。オートマタにより現実より少しだけ便利な世界ですが、そこで生きる人々の雰囲気は現実と何も変わりません。主人公である川島ユートもまた、そんな世界に生きる普通の男子学生でした。ある日、ユートはとあるオートマタとの事故に巻き込まれます。間一髪、第三世代型オートマタである「機巧院ノヴァ」に助けられます。そのお返しという訳ではないのですが、なし崩し的にユートは学園にいる5人のヒロインを攻略する事になりました。まるで美少女ゲームの様な展開ですが、5人のヒロインは一癖も二癖もありました。今回の目標は、学園の生徒会長であり誰からも慕われている「獅堂ミナト」。ここから、ユートのドタバタ学園生活が幕を開けるのです。

 まずもって、登場人物が可愛いと思いました。メインヒロインである獅堂ミナトは学園の生徒会長らしく、自信のありそうな表情と長い青髪がカッコイイと思いました。他にも女の子は登場し、主人公ユートを助けてくれた機巧院ノヴァはオートマタでありながら人間そのもので表情豊かです。他にも後輩である五月雨サツキは赤いリボンが可愛らしく、クラスメイトの盾守アメリアは典型的なツンデレスタイル、そしてユートの姉でありクラスの担任である川島ユリヒメはクールです。本当、美少女ゲームの教科書の様な登場人物に安心感を覚えました。勿論、見た目の印象のままシナリオが進むはずがありません。どこかギャップを持っており、その意外性が更に登場人物に対する魅力を引き上げてくれます。この辺りは、是非プレイして確かめてみて下さい。誰もが愛せる魅力を持っていると思いました。

 そして個人的にこの作品の最大の魅力はテキストにあると思っております。この作品は学園ラブコメビジュアルノベルというジャンルで、文字通り学園を舞台とした恋愛コメディが展開されます。ですが、このコメディ部分の勢いがもの凄いのです。基本主人公ユートは突っ込み役に回る機会が多いのですが、とにかくヒロイン達を含めた登場人物の癖が強くどれだけ体を張って突っ込んでも追いつきません。その突き抜けた個性をテンポよく描いたテキストは読んでいてとても心地よい物でした。強烈な個性がその場限りで終わらず、むしろシナリオが進む中でどんどん加速していくのです。あまり理屈で考えず、居心地の良いラブコメを楽しむにうってつけだと思いました。とても良く計算されたテキストだと思いました。

 その他ですが、この作品はPC版としてはsteamで配信されており最近iOSやAndroidでも配信されました。基本無料であり、確立されたシステム周りでストレスなくプレイする事が出来ます。基本的な設定は揃っておりますので、自分用にカスタマイズして進めて下さい。他にも、音楽や背景描写はオリジナルを起用していると思いました。同人ビジュアルノベルでは中々全ての要素をオリジナルで揃えるのは大変ですが、その辺りの統一感も良かったです。またオープニングとエンディングにボーカル曲が用意されており、作品の雰囲気そのものでテンションを上げてくれます。スチルも数多く用意されており、プレイ時間以上に力を注いで作られたんだなと感じました。

 プレイ時間は私で4時間15分でした。選択肢は無く、一本道で最後までプレイする事が出来ます。この作品は章構成となっており、章の中も幾つかの節に分かれております。細かく節が区切られておりますので、区切りの良いタイミングでセーブし中断する事が出来ます。章と節それぞれに副題もついてますので、どんな展開になるのか想像させてくれるのも楽しいです。細かな部分を含め、本当プレイヤー目線で作られているなと感じました。タイトルにあり通り、この作品は月光のソードブレイカーシリーズの第一弾です。これから第二弾第三弾と展開されると思いますので、是非このままのクオリティで続いていって欲しいです。素晴らしい作品でした、楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分がどれだけ真心尽くしても、相手の受け取り方で伝わらない事もある。それでも貫き通すユートが羨ましいです。>

 ネタバレ無しでも書きましたが、本当に最後まで徹底的にラブコメで終わってくれました。途中紆余曲折ありましたが、最後はみんな和解して終わってくれて良かったです。最も、今後の展開を示唆させる終わり方でしたのでこの限りではないんでしょうけどね。この締め方も次回作への期待感を持たせてくれました。

 天上天下唯我独尊な性格のミナトでしたが、それはかつて満たされなかった愛を埋めるための行為だったのかも知れません。母親なんかいなくても自分一人で生きていける、そんな頑なな姿が不安を誘いました。それを、ユートのしつこいくらいのお節介が解きほぐしてくれました。実際のところ、ミナトは割と周りの人間に一線を引いていたのでどれだけユートがお節介を焼いても心変わりはしなかったかも知れません。ですけど、それが自分の唯一にして最大の後悔である母親に関する事であれば別です。最もセンシティブな部分に触れたユート、ですけどそれは思いの他ミナトにとって不快ではありませんでした。気が付けば、お互いがお互いを理解し好きになっていました。こうなれば、ラブコメですのでもう真っ直ぐ接近していくだけですね。

 ユート、本当に良い人でしたね。主人公補正と言ってしまえばそれまでですが、相手の事を考え相手の為に動けるのはどんな場面でも大切だと思います。ただ、ユートに対してノヴァが放った一言が印象に残りました。「その気が無いのなら、思わせぶりの態度を見せるのはよくない」。別に、ユートは思わせぶりな態度など取ってませんでした。ですけど、相手がどう受け取るかまでユートに決める事は出来ません。相手がそう思ってしまったのなら、それは思わせぶりなんです。理不尽かも知れませんね。でもまあ、恋なんてそもそも理不尽なものですから理屈をこねてもしょうがないわけです。ユートが立派なのは、ちゃんとノヴァの言葉の意味を理解し自分で決断して相手に言葉を伝えた事です。それがまさかミナトとサツキの2人を選ぶものだとは思いませんでしたけどね。まあ、それが許されるのがユートなんだと思います。主人公補正、羨ましいです。

 そしてサツキのヤンデレっぷりにはビックリしました。正直、第4章が終わってある程度物語は終わりなのかなと思ってました。それがまさか、最愛の友人であり愛くるしい後輩がラスボスになってしまうんですもの。ですけど、ここでも大事な教訓がありました。「相手を助けるなど傲慢、上から目線であり自己満足」。残念ながら、これも真実です。本当に善意を持って相手の為に行動したとしても、受け取る側がそれを煩わしく思ってしまえば残念ながらもう出来る事はないのです。どうしても合わない人がいる、それは真実ですのでその時は離れるのが正しい選択なんだと思います。しかし、ユートとミナトはサツキを諦めませんでした。ノヴァと魂魄接続し身を削る覚悟をして、結果としてサツキを取り戻せました。この辺りは、ラブコメらしさですね。現実でも、ここまで突き抜ける事が出来ればどれだけ人生が明るいものになるでしょうか。

 さて、これにてミナト編は終わりましたので次は誰編になるんでしょうかね。とりあえず、カグヤと影山もといシェイドが月光計画を動かしている事が分かりました。5人のヒロインを攻略すると、何が起こるのでしょうね。少なくとも、ユートはカグヤとシェイドの掌で踊らされている訳です。となると、ノヴァの立ち位置はどうなんでしょうね?色々と妄想が捗ってしまいます。こんな風に、1つの物語が終わり分かる事が増え、同時に分からない事が増えていく感覚は物語に引き込んでくれます。是非、次回作でも楽しいラブコメを見せてくれたらと思いました。楽しかったです。ありがとうございました。


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