M.M + 冬のぬくもり +




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 6 - 66 1〜2 2017/2/22
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<冬なのに温かい、そんな男女の恋の物語を冬ならではのぬくもりを感じながら楽しんで下さい。>

 この「+ 冬のぬくもり +(以下冬のぬくもり)」という作品は同人サークルである「crAsm」で制作されたビジュアルノベルです。crAsmさんは主にフリーゲームを作られている倉下遼さんの個人サークルでして、フリーゲーム以外にもゲームレビューやコラムなど興味深い記事を掲載しております。個人的にはコミティアやコミケといったイベントを初め何度かお会いさせて頂き、ゲームの話に限らず色々とお話させて頂き楽しい時間を過ごさせて頂いております。フリーゲームは現在2作品公開しておりまして、今回レビューしている冬のぬくもりが処女作となります。私は2作目であるTEADの方を先にプレイさせて頂き、短さの中に人生観を感じさせるシナリオと一生懸命生きるキャラクターの姿が印象的でした。順番として先に冬のぬくもりをプレイしようと思っていたのですが、タイトルが示す通り冬の作品ですので冬になるまでプレイは待っておりました。そしてそうこうしているうちに冬が終わってしまいますのでやるなら今しかないと思いプレイし、レビューに至っております。

 舞台は架空の島国であるエク・ダパーセです。北部の山地に位置するノーザヴィラ地区は冷帯の気候であり、冬は雪に包まれる絶海の景色を作り出します。主人公であるデミラはそんなノーザヴィラ地区の奥地に住んでおり、明るい性格でありながら年頃らしい悩みも抱えた普通の女の子です。ノーザヴィラ地区の奥地には軍の拠点がありました。エク・ダパーセは軍事国家であり、どの地区にも王国軍が配備されております。そしてその軍の拠点を中心にデミラの幼馴染であるバーク、兄貴分であるユリシオ、数年前に引っ越してしまったヴィサーク、新たにノーザヴィラ地区に派遣されたジードといった男性たちが集まってきます。年頃の男女がひとつ屋根の下に集まって何も起きないはずがありませんね。冬なのに温かい、そんな恋の物語が幕を開けるのです。

 デミラは一週間という期間で軍の拠点で家事の手伝いをする事になります。料理を作るのか?それとも掃除をするのか?それとも雪かきをするのか?そんな行動を朝、昼、夜と選択していきます。その中で同じ軍の拠点で生活していく男性たちと触れ合っていき、それがやがて恋心として育っていくのです。4人ともとても個性的な性格でして、一言で説明するのは難しいです。それでも誰もがデミラの事を気遣っており、それは同時にデミラに対して好意を抱いているという事の表れでもあります。是非誰がどんな性格なのか、得意不得意は何なのか、といった事を考えながら選択肢を選んでいって欲しいですね。選択肢の頻度は比較的多いです。あっちにこっちにフラフラしていては意中の男性を捕まえる事は出来ません。一途な気持ちが心を掴むのは現実でも一緒ですね。

 そしてこの作品はタイトルの通り冬を舞台としております。その為背景には常に雪が描かれており、豪雪地帯を一瞬でイメージさせます。冒頭デミラが家から軍の拠点に向かうのですが、その時の雪を踏みしめる「ゴォ、ゴォ」という足音が最高ですね。私も雪国出身ですので非常に覚えがあります。BGMも全体として静かめのものが多く、これもしんしんと降り積もる雪の姿を連想させます。そんな寒い冬だからこそひとつ屋根の下に男女が集い、体と心を温め合うのです。そんな冬ならではのぬくもりが心地よいですね。

 プレイ時間は私で1時間25分でした。攻略対象は上で書いた4人でして、それぞれ私で20分〜30分で終える事が出来ました。繰り返しになりますが、この作品はプレイ時間に対して選択肢の数は多いです。そして正しい選択を選ばないと意中の男性のシナリオに分岐していきません。元々のボリュームが短い事もありコンプリートに時間はかからないと思いますので、是非総当りではなくキャラクターの性格を掴みながら考えて選択肢を選んで欲しいですね。どうしても全ルート攻略できないという方は公式HPをご覧下さい。ご丁寧に全ての攻略ルートを解説しております。冬である今こそプレイして欲しいまったりとした作品です。是非寒さの中にある温かさを感じてください。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<本当に自分の気持ちを曝け出せる相手に出会えたとき、人はここまで無邪気になれるんですね。>

 本当、こっちが身悶えしたくなるようなこそばゆい物語でした。思えばこの作品に登場する男女は、ユリシオを除けばみんな10代ですからね。現実の高校生にしては十分大人びいてますし自己管理もしっかりしております。それでも異性の事に対しては年相応だなと思い、そんな描写だ随所に散りばめられていて楽しませて頂きました。

 物語としては割とサクサクと進む印象でした。その中でデミラとの関わりが強い男性とのエピソードや想いが多く語れれ、気が付けば自然と分岐しておりました。この共通ルートと個別ルートの境界を曖昧にした作り込みは自然で上手いと素直に思いました。現実の恋もこんな感じですからね。今この瞬間好きになったというよりも、気が付けば好きになっていたというパターンの方が多いのではないでしょうか。そして一度自覚してしまえば後はその気持ちを信じて突き進むだけですね。これはデミラの真面目でしっかりした性格が良い方向に回っていたと思います。好きな女の子にはどうしても冷たくできないのが男というものです。であるなら、もうデミラが好きになってアプローチをした時点で決まってましたね。

 それでもシナリオを振り返って興味深い描写も幾つかありました。具体的に言えば死生観に対する取り扱いです。このエク・ダパーセでは積極的安楽死が認められておりました。自分が望んだ時に生を終える事が出来る、現代の日本では若干の判例がありつつも明確に良しとしておりません。私自身安楽死はあっても良いのかなと思っております。命は尊いものですけど、自分の命くらい自分で責任を取りたいと思うのは自然な考えだと思います。ですがこの作品において大切なのは安楽死の是非を問う事ではありません。安楽死によって残された人間の気持ちに思いを馳せる事が大切です。

 バークは若くして役人の立場になっておりました。ですが実際に人に手をかける経験はなく、今回のタジおじさんが初めての相手となりました。元々バークは一人でコツコツと努力する人間であり、極端に言えば誰の手も借りなくてもそれなりに生きていける性格でした。ですが安楽死の執行の為に人に手をかける、これはその人の気持ちを十分に汲み取り納得しないと行う事は出来ません。それは一人でコツコツと努力するだけでは学べない事。この時初めてバークは一人ではなく他人と触れ合うことの大切さを理解したのかも知れませんね。死ぬと決めた人はそれで良いんです。でも残されたり実際に死を執行する人にとってはそうではありません。必ず蟠りを残し、一生悩む事になります。

 ジードも死に関わるという点ではバークと同様でした。具体的に何故人を殺したのかは分かりませんが、その経験が自分の存在価値をどんどん削っていきました。ですがバークと違いジードは自分で覚悟して人を殺してきた経緯があります。殺す側と殺される側、そして覚悟する側と覚悟される側、バークとジードで見事にその立場が逆転しておりました。ですが共通しているのは、自分の手で相手が死に自分が生きているという事。それだけで、否応なく自分を苦しめるのです。これは自分ひとりで考えても決して解決しません。だからこそデミラという過去には拘らない大切なパートナーが必要だったのかなと思っております。

 今回特にこのバークとジードに着目させて頂きました。理由は死という共通点があったという事がメインですが、もう一つは普段のクールな姿とは程遠いギャップのあるCGが描かれていた事です。何ナチュラルにデミラの事食べてるの!何デミラの布団に顔埋めてクンカクンカしてるの!いや、凄く気持ちは分かりますし別にいくらやってもらっても良いんですよ。ですがこれが何故この2人だったのか、って思ってしまったんですよね。きっと裏には死というものに抑圧された気持ちがあったんだと思います。それを思ったとき、あのCGすら微笑ましく思えてしまいました。勿論バークとジードだけではありません。ユリシオもヴィサークも案外可愛らしかったですね。振り返ればどのCGも自然体な表情が印象的で可愛かったです。これもまたこの冬のぬくもりという作品の大切な魅力ですね。ありがとうございました。


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