M.M Function:W();
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
6 | 7 | - | 77 | 1〜2 | 2019/1/5 |
作品ページ(なし) | サークルページ |
<Meimさん独特のテキストとキャラクター描写を、新鮮な背景描写とBGMが演出してくれます。>
この「Function:W();」は同人ゲームサークルである「Meim」で制作されたビジュアルノベルです。Meimさんの作品は過去に「BLOOD NOTE EPISODE1」「幽霊少女室」とプレイさせて頂きました。BLOOD NOTEは西洋ファンタジーに対し、幽霊少女室は大学生が幽霊と同居する非日常的日常、全く毛色が違う作品でしたが共にキャラクターの魅力に溢れ面白おかしく楽しめる内容でした。今回レビューしている「Function:W();」は病院が舞台のSF的な作品のようです。またもやジャンルも雰囲気も違いますが、きっと愛着が湧くキャラクターと出会えるんだろうなという予感がありました。シリアスでもコミカルでも変わらない砕けたテキストなど、Meimさん独特のセリフ回しにも注目でした。
主人公である雲野黒柄(くものくろえ)は、原因不明の病気で一年近くも入院している女子高生です。いつ退院出来るか分からない入院生活、良く分からない新薬の投与と普通であれば気分が落ち込むところですが、そこは黒柄の持ち前の明るさで女子高生らしい快活なテンションが場を盛り上げてくれます。そんな黒柄には誰にも言えない秘密がありました。それは、普通の女子高生としての黒柄とは別にハッカーとしての黒柄が存在するのです。夕食を食べ終え消灯までの誰も来ない2時間、その時だけ姿を現すハッカーとしての黒柄は、持っているスマホだけて世界中の企業や研究機関にハッキングを仕掛ける天才だったのです。そんな二重生活をしているある日、発作のため夜中目を覚ますのですがナースコールで呼んでも誰も来てくれません。不安になって病院を歩いても誰にも出会いません。それどころか物音一つしません。不安になった黒柄の前に現れたのは、一人の白い少女でした。名前のない彼女、その白さからマシロと呼ぶ黒柄。彼女との出会いが、黒柄の入院生活の転機となるのです。
この作品は「すこし不思議なADV」というジャンル名が付いております。その名の通り、プレイヤーは今いる世界がどんな世界なのかを考え悩みながら読み進めていく事になります。現実世界の様で、少し違っている。そしてその違いは突然襲ってくる。そんなストレスを独特の演出で表現しております。この作品の特徴として、カットインや画面転換などの演出が唐突な点があります。それこそが、この世界が安寧なものではない証拠であり隅から隅まで状況把握しなければいけないという気持ちにさせてくれます。非常にセンスがあると思いました。是非気になるところはメモを取るなどして、黒柄とマシロの出会いの意味を考えてみて下さい。
最大の魅力は、勿論黒柄とマシロのキャラクターです。黒柄は今どきの女子高生であり、看護婦や医者にも気さくに話しかける明るさを持っております。他にも、入院生活の為食べる物が制限されている為牛丼やカツ丼のような食べ物に物凄く執着したり、マシロとのちょっとした絡み(ネタバレなのでこの程度)で酷いゲス顔を晒したり、とても人間味のある姿を見せてくれます。マシロも不思議なキャラクターですが、根はとても素直で子供っぽく可愛らしい様子を見せてくれます。それでいて時には行動力を見せ、黒柄を引っ張っていく様子も見せてくれます。そんな2人の絡みはいつまでも見続けていきたいと思わせてくれます。
そしてシナリオや登場人物以外の要素も大変注目です。ます背景描写ですが、これはゲームグラフィックデザイナーであるけいまる氏が製作されたものをふんだんに使用しております。細部にまで拘った背景画は非常に綺麗で且つリアル感があり、立ち絵のない時にずっと眺めていたくなる程です。元々同人ビジュアルノベルはその性質上フリーの背景素材が被る事が良くあるのですが、普段見ない背景素材であるという点もありとても新鮮でした。BGMも場面に合った物を惜しみなく使用しており、今回はSF的であるという事もありサイバーな印象のものが多かったです。これも普段聴かない楽曲が多く、非常に新鮮でした。環境音も良く響き、臨場感を与えてくれました。総じて不思議な世界観を演出しており、着地点の見えない不安感をいい意味で表現していると思いました。
プレイ時間は私で1時間45分くらいでした。この作品には選択肢があり、結果として幾つかのエンディングにたどり着きます。上でも書きましたが、割と難解な世界観ですので一度プレイし終わっても少し租借しないと作品の設定やテーマを理解できないかも知れません。私はトータルで2周しました。全体のボリュームはそんなに大きくありませんので、2周くらいなら難なくこなせました。いずれにしても、センスのある表現と登場人物の魅力は誰にも十二分に伝わると思います。過去作同様に、Meimさん独特の表現技法を感じて頂ければと思います。面白かったです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<最後の最後で出会う事が出来たマシロとクロエ。彼女達なら、そう簡単に世界の理に負ける事はありませんね。>
最後までプレイして、正直なところ全体の構造すら良く分かっておりません。恐らくはこういう事なんだろうなという仮定でしか話が出来ませんが、少なくとも最後の最後でマシロという存在のところへクロエは寄り添い続けたんだなという事が伝わりました。タイトル画面の真っ白な世界で、マシロとクロエが一緒に歩いている様子がそれを物語っておりました。
マシロという存在はどんな存在でしょうか。作中では「医学目的に機能を絞り、人工的に作られた存在」と書かれておりました。そして、マシロが閉じ込められていた白の部屋の前には「WHX-P22」と書かれたプレートがありました。黒柄が打たれていた点滴に使用されていた薬の名称は「WHX-P22-157Y」、私はこの薬そのものがマシロという存在そのものだと思っております。薬そのものに人格があるなんて、現代の常識と照らし合わせてあり得るはずがありません。それでも、マシロが生きている世界は現実世界とは切り離された架空の世界です。この作品ではハッキングも大切な要素ですので、もしかしたらナノマシンの様な未来的な治療方法の一つなのかも知れません。
ですが、この作品においてマシロの存在定義を解き明かす事はあまり意味がない事だと思っております。マシロは確かに人工的に作られた存在かも知れません。そしてマシロに人間的な感情など必要ないのかも知れません。ですが、マシロは知ってしまったのです。喜怒哀楽の大切さ、外の世界、それらは全て黒柄がハッキングをして世界の扉を開けたから知る事が出来ました。だからこそ、黒柄は入院生活を余儀なくされたのかも知れませんね。少しずつ少しずつ、マシロという存在を希釈させるために。少なくとも、田沢先生はマシロや黒柄に対して人間的な接し方をしているとは思えません。恐らくマシロの開発に関わっていると思いますが、それはマシロの為ではなく人間の為(いやもしかしたらデータの為かも知れません)です。そうであるのなら、田沢先生がマシロに対して人間的な感情を持たせる事を嫌うのは明白ですね。
そんなマシロという存在を、黒柄は知ってしまいました。そして、そんなマシロの傍にいたいと思うようになりました。だからこそ、田沢先生や病院の目を盗み何とかしてマシロの傍にいることは出来ないかと画策を始めました。そしてそれは実を結びました。黒柄には普通の女子高生としての黒柄とハッカーとしての黒柄が存在します。そして両者はお互いの事を全て理解しております。そうであるのなら、第三の人格であるマシロに遭ったクロエもまたお互いの事は手に取るように分かっているはずです。だからこそ、牛丼屋のWi-Fiという誰にも発動条件を予測できない仕掛けを用意する事が出来ました。これもまた、黒柄の「やられっぱなしは大嫌い」という気持ちが実現した事だと思っております。
最後、真っ白の世界で再会できたマシロとクロエ。現実での黒柄はもしかしたら死んでいるかも知れませんね。何しろ冬の河に落ちたのですから。ですが、それも覚悟の上での選択でした。現実世界を捨ててでも手に入れたかったNew Worldです。後はマシロと共に再び新しい世界の扉を求めて旅をするだけです。今までシカちゃんを媒介として雲野黒柄の周りの世界へと介入する事しかできなかったマシロ。でももうそんな事すらする必要はありませんね。その黒柄が、クロエとして目の前にいるのですから。今後どのような形でマシロが使われるか分かりませんが、少なくとも2人は簡単には諦めないんでしょうね。そんな、2人の友情と愛情を感じる物語でした。ありがとうございました。