M.M Fermat


<理科を題材にした一風変わった登場人物たちが織り成す物語はとても楽しげでした>

 この「Fermat(読み方はフェルマー)」という作品は同人サークルである「Circle Radian」で制作されたビジュアルノベルです。正直なところもう1年以上前の即売会で入手した作品でして、特徴的なキャラクターデザインとフェルマーという数学を嗜む人は絶対に知っている名前のタイトルということでプレイしようと思い続けていてようやくインストールする事となりました。感想ですが、理科を題材にした一風変わった登場人物たちが織り成す物語はとても愉快で終始楽しむことが出来ました。

 フェルマーと言えば1600年代を代表するフランスの有名な数学者です。解析学や数論などで様々な業績を上げていると同時に、いわゆる「フェルマーの最終定理」と呼ばれる命題は数百年の間多くの人々を虜にしそれが故に現代でも大変有名な数学者として名前が広まっております。そんなフェルマーの名前をタイトルにした作品という事でシナリオも理科を題材にしたものとなっております。主人公である小学5年生の山寺マンジとヒロインである科学部の部長を中心とした物語となっており、科学部という事からも物語の中に理科の内容をふんだんに含んでいる事は容易に想像できるかと思います。

 この作品は短編集です。まあ短編集とは言いましても1話あたり40分〜1時間程度の長さですので一気に読むと結構ボリュームを感じるかと思います。そしてボリュームを感じる要因はプレイ時間の長さだけではなく徹底的に理科をネタにしているという事とドタバタを繰り広げる登場人物たちにあると思っております。主人公を始めとしてメインの登場人物たちは皆小学生なのですが、大よそ小学生とは思えないほどの理科の知識を披露してくれます。物理・化学・生物といった学問がふんだんに登場しますので、理科が好きな人にとっては堪らないでしょうね。逆に理科が苦手な人にとってはかなり難しい内容かもしれません。それでもシナリオのオチはしっかりと付けてくれますので不完全燃焼する事はないと思います。

 そしてこの小学生たちの魅力はその理科的な知識の深さだけではありません。世の中の典型的な科学者のイメージそのままの諸凸盲信な性格のキャラクターが多く、シナリオの先読みが出来ないという事が挙げられます。特にヒロインである部長のパーソナリティは科学者そのもので、協調性はないのに頭の回転は速く周囲を巻き込む事に長けています。主人公は理科の知識は豊富でありながら割と常識的な感覚を持っておりますので終始部長に振り回されることになります。この2人の掛け合いを基本としてそれに周りの友人たちも巻き込み、小学生らしいユニークなシナリオを実現しております。

 後は漫画のようなコマ送りや群像劇の形態を一部とっているところもあり、演出面でも色々と工夫されております。それでも基本的には短編集ですのでそこまで構えずにコーヒーでも準備してリラックスして読むのが一番だと思います。この作品、BGMも喫茶店で流れているようなアコースティックなものが多いですのでそういう意味でも是非肩の力を抜いて読んで欲しいですね。そして理科を題材としたシナリオを堪能していただき、もし理科が苦手な方がいらっしゃったら是非この機会に好きになって頂きたいですね。そんな作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<思いの外地道なフィールドワークが多く、研究者らしい行動力に感心しました>

 実に楽しげな雰囲気でした。どのキャラクターも個性が光っていて誰が欠けてもこの物語は完結しなかったのだろうと思っております。理科についてもやや化学や生物に傾倒しておりましたが他分野の学問を題材にしており、シナリオライターの教養の高さを伺うことが出来ました。理科以外でもそれぞれの登場人物達の馴れ初めについてのエピソードもあり、最終的のどのキャラクターに対しても愛着を持つことが出来ました。

 全体的に光ったのはやはりヒロインである部長ことフェルマーですね。始めはぶっきらぼうで何を考えているのか分からなかったのですが、その実は寂しがり屋で友達想いの優しい性格の持ち主でした。ですが持ち前の科学者的な偏屈さを発揮してしまい周囲の人に随分誤解を与えてしまってました。時には退学寸前に追い込まれ警察ざたになってましたが、最終的に目的を達成できたみたいで何よりでした。偏屈でありながらマンジやクロやアカリと一緒に活動している辺り、何だかんだ言ってフェルマーの事を認めているという事でありお互い信頼し合っているという事なのだと思います。

 個人的にお気に入りのキャラクターはクロだったしますね。この子は別に理科的な知識に長けているわけではなくアカリみたいに運動神経が抜群であるわけではありません。それでも持ち前の首を突っ込みたくなる性格でどんな人でも最終的に仲良くなれる特技は純粋に羨ましいと思いました。フェルマーが気になったからずっと付きまとったりマンジが好きだから携帯電話のおまじないを強行したりを時には度を越した行動も起こしますが、その突っ走る性格が皆に好かれている要因なのでしょうね。彼女がいる事で物語全体を明るくすることが出来ました。

 そして理科については思いの外フィールドワークが多く、机上の知識の掛け合いではなく地味に研究者らしい行動力に感心しました。研究者に一番大切なことは知りたい事を知ろうとする為の行動力だと思っております。実験が必要なら実験装置を作りますし、観察が必要なら四六時中観察します。そうした知ることへの飽くなき探究心を彼らは持ち合わせてました。奇形オタマジャクシのルーツやカラスの変死のエピソードは特に顕著であり、その地道なフィールドワークがそれぞれの事件の解決につながったのだと思います。そして得られた結果を分析して結論を導き出す頭の良さも持ち合わせてました。彼らであれば将来理想的な研究者になれるでしょうね。私もかつて研究職を目指していた事もあり、この純粋な探究心は非常に羨ましく思ってました。そんな自身の過去を省みることも出来ましたし、シナリオライターの方の理科に対する愛情も感じることが出来ました。まとまりませんが今回はこのあたりで締めようと思います。次回作を楽しみにしましょう。


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