M.M FEMME FANNA -7th Holy-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 6 5 77 2〜4 2016/8/17
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<歴史的であり宗教的な世界観に浸かり、その中で主人公が目指したいものを探してみて下さい。>

 この「FEMME FANNA -7th Holy-」という作品は同人サークルである「Fire Clock Works」で制作されたビジュアルノベルです。Fire Clock Worksさんの作品をプレイしたのは今作が初めてであり、不気味なシルエットとその中心でもの鬱気な表情で佇む少女の姿が印象的でした。タイトルにあるFEMMEとはフランス語で女性という意味です。FANNAとはイタリアにある都市の名前だそうですが恐らくこの意味ではない造語と思われます。タイトルロゴもまるで血が乾いて固まったかのような色と質感です。普通のシナリオは待っていない予感とともにプレイしましたが、想像以上の設定の深さとテーマの重さを持った作品でした。

 主人公である少年には生まれつき記憶も親もありません。何故なら彼は生まれながらにして10代の姿をしており、しかも黒の棺の中から出てきたからです。うまれたての赤ん坊は言葉を知りません。それは彼も同様でして、唯々生きるために必死になる生活を送っておりました。それでも人並みの言葉と常識を身に付けた少年の傍には一人の女性の姿がありました。彼女は魔女と呼ばれる存在。彼女に近づくものは皆死んでしまいます。ですが元々身寄りのない少年にとっては例え魔女でも自分の事を認めてくれる存在であればそれで十分でした。いつしか少年の周りには人が溢れ、ついには一国の王になるまで上り詰めました。そんな彼の唯一の心残りは愛する彼女を生き返らせる事。そう、彼女を殺したのは他ならぬ少年本人なのです。

 この作品は歴史ファンタジーです。主人公の10代の姿で生まれた事や魔女、魔法が当たり前に存在する事からファンタジーなのは間違いないのですが、時代背景は中世ヨーロッパをモチーフとしております。電気よりも宗教が力を持っていた時代です。災いが発生すれば生贄を捧げ、民の命は全て国王のものです。そして中性ヨーロッパを象徴する出来事の一つに魔女狩りがあります。不思議な力を持ったものは排除しなければならない、普通と違う外見や言動をしている人は排除しなければならない、そんな閉鎖的な雰囲気が作品全体を包んております。歴史的であり宗教的。論理や個人の価値観など意味のない世界です。そんな世界の中で辛くも逞しく生きる少年ですが、彼のそばに付きまとう魔術師や少年が愛する彼女がどういった存在なのか中々語られません。誰を信頼していいか分からない。時代背景と合わせて非常に不安になりますが、そんな暗澹とした雰囲気こそこの作品の魅力だと思っております。

 背景の数はそんなに多くはなく、抽象的であり水彩画のような絵柄で表現されております。キャラクターの立ち絵も決して多くはなく、雰囲気を堪能するのが楽しみ方だと思っております。シナリオは正直言って難解です、上でも書きましたがこの作品は歴史的であり宗教的です。まずは当時の時代背景と歴史的価値感を頭の中に入れておかないと会話についていけません。加えてファンタジーでもありますので、今自分がどこにいるのかやそれぞれのキャラクターがどのような能力を持っているかも把握しなければいけません。固有名詞もたくさん登場しますので、余裕が有るなら是非メモを取りながらプレイする事をオススメします。

 プレイ時間は私で2時間50分程度掛かりました。この作品は途中で章が分かれておりまして、各章が終わるたびにタイトル画面に戻る仕様になっております。良い区切りですので頭の整理も含めてひと呼吸おいてから次に進むのが良いと思いますね。選択肢はありません。章が進むにつれて明かされる真実と更に深まる謎にじっくりと考察を広げて頂ければと思います。後はこの作品が何を言いたいのかを忘れない事ですね。主人公である少年の目的は愛する彼女を取り戻す事です。ではその方法は何なのでしょうか。取り戻すとは具体的にどうする事なのでしょうか。言いたい事が分からなくなったら是非原点に立ち返って見て下さい。そして物語の終わりまで見届けて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<この作品は、目指すべき幸せは変わらなくてもそのかたちは変えられる事を伝えたかったのかなと思っております。>

 この作品は「幸せのかたち」について書かれていると思っております。ヴェレノアの中にはレインの存在しかありませんでした。レインを取り戻すために一国の王になり、メヌゥクリフと手を組みました。彼にとってはレインを取り戻すしか生きる意味がなかったのです。ですが物語最後でヴェレノアの生きる意味は変化しておりました。幸せのかたちが変わったんですね。この作品は、目指すべき幸せは変わらなくてもそのかたちは変えられる事を伝えたかったのかなと思っております。

 ヴェレノアはその生い立ちもあり自分には生きる意味なんて無いと思い込んでました。自分の存在価値などなく、いつ消えても良いとすら思っておりました。だからこそ無茶をしてでもレインのもとに駆けつけました。巨人ギガンテスに対しても不死王インドラに対しても特攻していきました。まあ実際のところヴェレノアの実力派相当のものでしたので負けることはありませんでしたが、結果としてそれぞれの時代のレインは死んでしまいました。周りが見えてなかったんですね。自分には価値がない、だからレインさえいればいい、そのレインが目の前にいる、そりゃなりふり構わず突っ込みますよ。ですがそれは間違いでした。何が間違いって、ヴェレノアが特攻した事ではなくヴェレノアが自分に価値がないと思い込んだ事が間違いでした。

 ヴェレノアはメヌゥクリフは自分を利用する為に近づいたと思っておりました。結果そうではあったのですが、メヌゥクリフの目的は利用する事ではなくむしろヴェレノアへの忠誠心のあまり自分自身がレインになる事でした。損得ではなく気持ちの繋がりだったんですね。むしろメヌゥクリフは自分の人格が消えてでもレインになる事を選ぶあたり、ヴェレノアは相当愛されていますよ。作中でも「恋慕にも似た忠誠心」とありましたが本当その言葉通りです。他にもヴェレノアが救った10人は皆ヴェレノアを慕ってました。皆王の帰還を待っていたんですね。レインを助けられなければ死んでもいい。そんな事を許さない人で周りは溢れてました。

 この作品で印象的な言葉の一つにマリアが言った「価値とは本人が決めるのではなく周りが決めるもの」があります。そもそもヴェレノアの価値はヴェレノアが決めるものではなかったんですね。ちゃんとヴェレノアの事を理解して大切に思っている人はおりました。もうヴェレノアは自分だけの為に死ぬことは許されません。レインを取り戻すのも勿論ですが、そのレインと共に再び自分の国へ帰ってくる必要がありました。この事に気づけたヴェレノアは強かったですね。「誰一人欠ける事なく、この命尽きるまであの国で人生を謳歌する」これがヴェレノアがたどり着いた幸せのかたちでした。

 最終的に黄泉の王女であるゼノヴァをも取り込む形でヴェレノアとレインの戦いは終了しました。沢山の時代と沢山のレインを経てようやくあるべき場所へと帰ってきました。始めは何も持っていなかった孤独な少年が、最後には沢山の愛と信頼を経て戻ってきました。それは全てヴェレノアの根っこに目指すべき幸せを持っていたこと、そしてその幸せを忘れずかたちを変えて実現したことによるものでした。私も自分の目指すべき幸せを忘れずに、そして例え生活環境や仕事が変わっても何らかの形でその幸せをかたちしなければいけないと思いました。ありがとうございました。


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