M.M ファタモルガーナの館




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
10+ 10 9 96 19〜23 2013/1/25
作品ページ サークルページ



<とにかく圧倒的な世界観の描写と妥協しないシナリオ構成は業界最高レベル>

 この「ファタモルガーナの館」という作品は同人サークル「Novectacle」で制作されたサウンドノベルです。私が初めて知ったのはC83で同人ゲームの島サークルを回っているときだったのですが、とにかくパッケージに描かれている人物の力強さと全ての音楽がオリジナルであるという宣伝文句に心惹かれ手に取ってみました。その後私よりも先にプレイされた方の殆どが神ゲーであるとの感想を書いておりましたので、これは早めにやるしかないと思いプレイしてみました。感想ですが、とにかく圧倒的な世界観の描写と前情報にそぐわないシナリオの伏線の妙、そしてエンディングまで妥協しないテーマの表現に感動しました。

 この作品はジャンルとして「悲劇と絶望の西洋浪漫サスペンスホラー」とうたっております。その名の通り世界観は全てヨーロッパを題材としておりまして、人物や背景そして音楽の全てが西洋風のものとなっております。とまあこのように言葉で書くと陳腐になってしまうのですが、その世界観の表現のレベルは非常に高いものがあります。パッケージの絵柄をご覧になれば分かりますがとにかく人物描写がリアルです。全てがまるで絵画を見ているかのような人物でして、本物の西洋人が登場しているのかと思わせる程でした。また背景は実際の風景を加工したような素材であり、こちらも作品の世界観を最大限表現するように作られております。そして音楽はピアノを基調とした物が多くそれだけで西洋風でありますし、何よりもボーカル曲が全てフランス語(追伸:後でNovectacleさんに教えてもらったのですが、殆どがポルトガル語で1曲だけフランス語でした。)である点が見事でした。とにかくありとあらゆる要素が西洋風であり、世界観の表現についてこれ程レベルの高いものはそうあるものではないと思っております。

 そしてこの作品はサスペンスホラーとうたっております。つまりは謎解き要素が重要でありプレイヤーは作中の伏線について想像し考えながら読み進める事になると思います。ここでハッキリ言ってしまいますが、この作品の謎解きの面白さはかなりレベルが高いです。プレイ時間は私で約20時間掛かったのですが、その全体を使って伏線とその解答を張り巡らせておりまして、最後の最後まで油断することは出来ません。逆に言えばプレイしながら謎が解けていき合わせて新しい謎が生まれていきますので、先が気になり息つく暇もなくプレイしたいと思うと思います。そしてこの作品はホラーです、公式HPでも伝わりますがこの作品には血や暴力的な表現が多数登場し、ホラー要素としてはどちらかと言えばハリウッド映画にありがちなものではなく日本風の不気味系なものです。時には背筋が凍るような展開もありますのでホラーとしてとても良質です。

 そしてこの作品は本当に悲劇と絶望でした。ホラーであるという事ですので決して明るいシナリオではないという事は想像できるかと思いますが、そういったホラーな演出で表現される悲劇と絶望に時には心が折れそうになるかもしれません。それだけパンチの利いたシナリオ展開が待っており、プレイヤーの多くのテンションを下げる事になると思います。そういう意味で重い展開がグロい展開が苦手な方は確実に回避するべき内容です。ですがそれもこの作品で表現したいテーマを表現する為に必要不可欠なものであり、最終的に全ての謎が解けてエンディングを迎える事が出来れば必ずや満足して頂けるものになると思っております。一般的な同人ゲームのプレイ時間と比較しても長い作品ではありますが、その分の見返りは大きかったです。

 という訳でとにかくあらゆる要素で高レベルにまとまった作品となっております。制作には4年もの月日をかけたと伺っておりますが、その長さに足る作品のレベルとなっております。私のHPでは同人ゲームの中では初めての95点以上を付けさせて頂きました。並の商業作品では足元にも及ばない雰囲気とシナリオです。このようなレベルの高い感動する作品に出会えて、サウンドノベルをプレイしていて心から良かったと思う事が出来ました。2012年に発売されておきながら業界最高レベルの仕上がりは是非全ての方にプレイして頂きたいです。感動しました。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人の気持ちのズレはボタンのかけ違いの様なもの、それはお互いが歩み寄る事で解消出来る>

 見事でした。サウンドノベルでここまで風呂敷を広げておきながらそれら全てを回収している作品はそうないと思いました。全てのキャラクターに物語があり、全てのキャラクターの謎を解き明かすことで全ての真実を明らかにするシナリオはサスペンス物としては完璧であり、純粋にプレイしてよかったと思わせるエンディングでした。

 この作品をプレイし終わってとにかく思ったことは、他人の心というものは本質的に全て分かることは不可能であるという事でした。この作品の登場人物は須らく不幸な展開になっております。ですがその理由は決してモルガーナの呪いが原因ではなく登場人物たちの些細な心のすれ違いが原因でした。自分事を相手はどう思っているのかを知るには相手に直接聞くのが一番なのですが、それが出来ないのが人間というものです。そして真実とは違った形で登場人物は色眼鏡の中で物事を認識してしまい、結果回避する事が出来た悲劇が起こってしまいました。これは登場人物にとってもそうでしょうがプレイヤーにとっても報われない展開であり、私も心を痛めながら読み進めていきました。

 特に主人公であるミシェル、ヒロインであるジゼル、そして悲劇のスタートとなったモルガーナの一連のエピソードはそのどれもが重い内容であり、当時の歴史的背景やリアルな描写の効果もあって完全に私の心を持っていかれました。ジゼルの事を思って自ら死を選んだミシェル、ですが本当はミシェルは死を選ぶ必要など無かったわけですからね。そしてジゼルもその後再びミシェルと出会うまでに数百年も孤独に生きなければいけない訳です。これで心が壊れないはずがありませんね。そしてモルガーナについては生まれてから自分の運命が決まっており、様々な人に翻弄されながら悲劇的な最期を迎えました。しかもその悲劇的な最期も誤解とすれ違いで生まれたものであり、その後の多くの人物の人生を左右する事になりました。どれもがボタンのかけ違いのようなものだったのに、それでこのような悲劇になってしまうのは歯がゆかったですね。

 ですがそうした悲劇的でむず痒い展開であったからこそ、最後の扉の中でそうしたボタンかけ違いを正そうとするミシェルの奮闘は見事だと思いました。鍵になる3人の本当の気持ちを引きずり出すために体を張って説得し、最終的にはモルガーナは死んでしまいますけどその誤解を解くことが出来ました。結局は些細な事だったんですね。登場人物それぞれが自分の気持ちに素直になって、心と心がぶつかる事を恐れていなければ回避出来た事ばかりだったのではないかと思いました。そんな当たり前な事実に気が付くまで、時間が掛かり過ぎましたね。実質千年以上もの時間をかけて、ようやくモルガーナの魂は報われたわけです。こんな悲劇は決して繰り返してはいけないと強く思いました。

 後はやはり伏線の回収は見事でした。二章での獣の正体は実は人間だった事、メイドの正体がジゼルだった事、白の髪の娘の正体がモルガーナの分離した姿であったこと、鍵になる3人の人物の悲劇には全て過去のモルガーナの思いが関係していた事、そしてミシェルが女であったこと、挙げれが切りがありませんが気が付けば最初から最後までとにかく驚かされっぱなしでした。そして伏線が回収されるたびに報われない気持ちになり、毎回各登場人物の印象が変化していきました。ただの性悪な人物かと思えばそうでなかったり、逆に真っ当な人物かと思ったらとんでもないことを考えていたり、人というものは見方1つでここまで印象が変わるものなのですね。

 という訳で最終的にはハッピーエンドで終わり、全てのシナリオを読み切った達成感ともうこのような悲劇は起こらないんだなという安心感、そして伏線を回収できた満足感でで満たされる事が出来ました。人の気持ちのズレはボタンのかけ違いの様なもの、それはお互いが歩み寄る事で解消出来るという当たり前のようで難しい事を再認識する事が出来た内容でした。結局のところ呪いというものは無かったんですね。呪いと思っていたものは人の気持ちのズレが引き起こしたまやかしだったのではないかと思っております。また世界観の妥協のない表現や人物描写のリアルさ、そして自慢の音楽はどれもレベルが高く、4年の歳月に相応しい作品でした。久しぶりにやり切った作品でしたし、もう一度記憶を無くしてプレイしたいと思いました。ありがとうございました。


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