M.M Ewig-エーヴィヒ- 第一章 永遠**




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 9 8 86 7〜8 2017/9/29
作品ページ サークルページ

体験版



<非常に綿密に練られたファンタジー世界は、物語に没頭させるのに必要不可欠であり最高の要素でした。>

 この「Ewig-エーヴィヒ- 第一章 永遠**」は、同人サークル「Physics Point」で制作されたビジュアルノベルです。Physics Pointさんに初めて出会ったのはCO92で同人ゲームサークルを回っている時でした。パッケージを見て、正直一目惚れしました。真っ白な肌に金色の瞳が印象的な少女、服装はゴシックでありその佇まいから何か大きな運命を背負っている気迫を感じました。背景は美しい夜空と歯車、その風景からファンタジーを想像させました。キャッチフレーズは「永遠は、終末に恋をした」。非常にロマンチックであり、逆に不安を煽るフレーズです。これだけの要素を兼ね備えていて面白くないはずがありません。Physics Pointさん初めてのタイトルでありながら、大きな期待をもってプレイさせて頂きました。

 現実ではないどこかの世界。そこは夜空を溶かしたような紺青の海が広がり、そこに浮かぶのは黄金に輝く都市がありました。この地には、総勢357人の兄弟姉妹から成る「家族」が暮らしております。銀髪金眼を持つ彼らは「永遠の子」と呼ばれており、互いが互いを思いやりながら生活しておりました。そしてそこに358番目の末っ子が生まれました。それが主人公であり作品のタイトルにもなっている「エーヴィヒ」です。エーヴィヒの誕生に、357番目の姉妹であるシュテフィを始め全ての兄弟姉妹が喜び祝福しておりました。ですが、エーヴィヒは生まれる時に母から真実を聞かされていたのです。それは自分が最後の永遠の子であるという事、そして自分には永遠を守るという使命があるという事です。閉鎖された世界・終末の香りが漂う世界で、エーヴィヒの誕生から物語が始まります。

 率直に言いまして、最高でした。終末感漂うファンタジー世界の設定、登場人物のデザインとキャラクター、背景美術とBGMや効果音、あらゆる要素がこの「Ewig-エーヴィヒ-」という世界を作っており、プレイすればする程のめり込む事が出来ました。ファンタジー作品の魅力、それはどれだけ世界設定を綿密に練られるかが全てだと思っております。現実ではない空想の世界、その世界を正しく理解しているのは製作者の頭の中だけです。そうであるのなら、他人に理解させる為に視覚・聴覚に訴えかけて可能な限り説明しなければなりません。ビジュアルノベルにおいてはテキスト・背景・登場人物・BGMに当たります。その全ての要素にオリジナリティがあり、強い拘りを感じました。プレイ開始10分から、最後まで駆け抜けようと決意させてくれます。

 とりわけ印象的だったのはBGMと効果音の使い方です。BGMはオリジナル・フリー含め様々ですが、そのどれもがピアノや弦楽器を中心とした高貴な雰囲気を持ったものです。ですが、ただ高貴なだけではなく場面場面で使い分けがされており、時に荒々しく時に寂しげな様子を作ってくれます。そして効果音が素晴らしかったですね、ネタバレになりますので多くは書けませんが、水の音・オルゴールの音・銃の音・その他様々な音の使い方が絶妙でした。単純に効果音の種類が多いのです。同じ銃の音でもバリエーションが様々であり、ここにもファンタジー世界を丁寧に表現している様子を感じました。どの場面でも一旦クリックの手を止めて聞いていたくなる、作業用BGMとしてはある意味不適切なほど印象的なBGMばかりでした。

 そしてシナリオですが、この作品は終末感を描いたファンタジーです。その為決して明るい展開だけで終わる事はありません。むしろバッドエンドになる事が容易に想像できます。それでも、愛する兄弟姉妹達を想いながら運命に立ち向かうキャラクター達の表情がとても印象的でした。1人1人の立ち絵や表情差分の種類もやはり豊富でした。何よりもそのゴシックな衣装と銀髪金眼の姿がとても凛々しくカッコイイのです。男性も女性も、どの人物も魅力的であり同時に深く掘り下げられております。世界の仕組みや真実が徐々に明らかにされていく中で、誰もが悩み葛藤し決断していく様子を見届けて欲しいです。

 プレイ時間は私で7時間20分掛かりました。選択肢はなく、一本道です。副題に「第一章 永遠**」と書かれておりましたのでそれ程ボリュームは無いのかなと思ってましたがそんな事はなく、気がついたら7時間以上経過しておりました。7時間と聞くとちょっと長いと思うかも知れませんが、途中明確な区切りを用意しておりますのでそのタイミングで休憩を挟みながら進めればストレスなく進める事が出来ると思います。何よりも、ファンタジー世界を堪能していき、登場人物たちの性格や癖を見極め、世界の真実に近づいていく中でいつの間にかのめり込んでいるはずです。そして、これがまだ第一章という事が恐ろしいですね。最後までプレイして圧巻のスケールでしたが、それすらも確かにはまだ序章なんだなと思われるシナリオに舌を巻きました。ファンタジーの教科書とも言える丁寧な作り込みを、どうか皆様にも味わって頂きたいですね。超オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<大人になるとは信念を持って行動しその行動に責任を持つという事。それでも信念と責任の取り方は兄弟姉妹の数だけ存在する。>


「子供が責任なんて気にしなくていい」


 現実世界でもゲームの中でも、「大人と子供」という対比はよく登場するテーマだと思います。全ての人間は「大人か子供かどちらか」であり、日本では法律上20歳になる事で「成人」となりここから「大人」と呼ばれる事になります。ですが、世の中の誰もがただ年齢が経過しただけで大人になれると思っていないと思います。大人とは大人しいと書く通り、精神的に成熟している様も同時に指します。ではこの精神的に成熟している様とはどのような状態なのでしょうか。それが今作で色鮮やかに表現されていた気がしました。

 358人の兄弟姉妹誰もが仲良くそして愛おしながら生活している黄金の都市。ですがそれは表の姿であり裏の姿は腐臭が漂い死が身近にある恐怖の世界でした。永遠の子は決して永遠ではなく、この死に対して何もしなければ一瞬で死んでしまいます。だからこそ、誰もが銃を持ち決死の覚悟でメメント・モリに立ち向かうのです。例え終わりが見えなくても大切な兄弟姉妹が居なくならない様に、そして最愛のお父様が目を覚ますように祈りながら今日も戦っておりました。この戦いは自分だけの戦いではないのです。自分が放つ輝弾の1発1発に兄弟姉妹の命運が掛かっているのです。自分だけの命ではない、輝弾に込められた責任の重さを誰もが実感しておりました。

 裏を返せば、輝弾に込められた責任を理解できないうちは戦いに赴く事が出来ないという事です。その為この世界ではアーデルベルトが大人になる事を任命します。任命されないうちは子供だという事。その為この世界では子供は時迎えによって夜は強制的に眠らされ、裏の世界を知らずに穏やかな生活を送る事が出来ます。358番目のエーヴィヒが生まれ晴れてお姉さんになれた357番目のシュテフィ、ですが生まれた順番的に姉になったとは言えその振る舞いはたどたどしくとても姉らしいとは言えませんでした。その為エーヴィヒが生まれても直ぐには大人にはなれず、メメント・モリとの戦闘にも加われませんでした。ですが、シュテフィもまた本当に決意したのですね。大切な妹を守る、例えどんな辛い現実が待っていようとも。この覚悟を知ったアーデルベルトはシュテフィを大人と認め、メメント・モリとの戦闘に加わる事を許可しました。

 信念を持ち行動する事と、その自分の行動に責任を持つ事。私にとっての「大人」とはこれが出来る人の事だと思っております。人に言われた事しか出来ない、そうであるのならそれはロボットと同じです。また信念を持ち行動したとしても、その結果誰かに迷惑をかけてしまいその責任が取れなかったら罰せられます。大人の行動とは思えません。エーヴィヒは時逢せにおいて「ワタシは永遠を守る、永遠の子らの永遠を守る」と自分の信念を宣言しました。その決意はとても固く、その時はそれが達成できると思っておりました。ですがその後に裏の世界を知りメメント・モリとの戦いの様子を見て自分の信念が揺らいでしまいました。自分の発言に責任が取れなかったのです。それでもアーデルベルトとの訓練を経て、そして大切な姉であるシュテフィを守りたいという気持ちを確固なものとし再びメメント・モリとの戦いに赴きました。その後輝弾に込められた真実を知っても、なお毅然としてメメント・モリとの戦いを続けていきました。

 立派になったと思いました。末っ子の何も知らない子供が、総司令官代行になるとは思いもしませんでした。誰もがエーヴィヒを慕い、エーヴィヒに命を捧げるという決意をしておりました。ですが、そのエーヴィヒ自身は命を捧げる兄弟姉妹を受け入れる事は出来てませんでした。自分の為に命を捧げなくていい、誰も死なずに幸せな毎日を送りたい、これがエーヴィヒの願いでした。それでも激しさを増すメメント・モリとの戦いに兄弟姉妹は文字通りその命を捧げていきました。そして時の特異点が壊れ、それを好機と捉えたエーヴィヒの指示により多くの兄弟姉妹が命を散らしていきました。ついには自身の聴覚も失い、総司令官代行の任を解かれてしまいました。エーヴィヒはずっと理想だけを語っていたのでしょうか?最後までエーヴィヒは大人になれなかったのでしょうか?

 私はエーヴィヒの事を十分大人だと認める事が出来ます。理屈ではありません、あれだけ心を痛め兄弟姉妹を思いやり、そして最愛のシュテフィを守りぬく決意をした姿が子供だとは思えません。立派だったと思います。結果時の特異点が壊れ、世界が崩壊してしまいました。ですがそれは決してエーヴィヒの責任ではありません。むしろ責任は世界の構造であり、言ってしまえばお父様の責任かも知れません。トリシャがエーヴィヒに言った「子供が責任なんて気にしなくていい」というセリフ、これは決してエーヴィヒが子供だという意味ではありませんでしたね。これは自分たちで解決しなければいけない問題、末っ子のエーヴィヒに丸投げして良い問題ではない。それをしっかりと認識した大人の決意溢れる言葉でした。大人とは信念を持ち自分の行動に責任を持てるという事。ですが信念は1人1人違いますし責任の取り方も1人1人違います。エーヴィヒにはエーヴィヒの、シュテフィにはシュテフィの、トリシャにはトリシャの責任の取り方がありました。その姿が勇ましく、格好良いと思いました。

 世界が崩壊しても、どうやらまたリスタートするみたいです。ファンタジーだと思っていた本作にSFの要素が加わってきました。レインの正体とは何か?死の大地と化した地上とはどういう事か?あの黄金の都市の真実は何か?オルゴールに込められた意味は何か?幾つもの伏線が投げられております。今はその答えは分かりませんが、私が願うのはただ1つだけです。それはエーヴィヒの信念が達成される事です。SundSundEでエーヴィヒがオルゴールを作りながら、シュテフィと2人慎ましくも楽しく生活する姿が続く。そんな世界が続く事を願って止みませんね。欠けたり錆び付いたりしたオルゴールの音色を聞くのはもう沢山です。永遠を守る、それがどのように達成されるのか最後まで見届けようと思います。ありがとうございました。


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