M.M Eidola#Holic -夢幻影共依存症- Vol.1




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 78 2〜3 2018/3/21
作品ページ(無し) サークルページ(Twitter)



<ドリィを始めとしたキャラクターに魅力があり、日常とファンタジーの使い方が絶妙なシナリオでした。>

 この「Eidola#Holic -夢幻影共依存症- Vol.1」という作品は、同人サークルである「DreamerEater」で制作されたビジュアルノベルです。DreamerEaterさんと初めてお会いしたのはCOMITIA120でサークル部活動としてノベルゲーム部が参加していた時でした。この時同部活動にサークル参加していたのがDreamerEaterさんでして、COMITIA120当日やその後の交流会のみならず、終わってから宿泊した同じ宿で夜遅くまで語り合ったりと短い間でしたがお話しさせて頂いた事が記憶に残っております。今回レビューしている「Eidola#Holic -夢幻影共依存症- Vol.1」は、COMITIA120の段階ではまだ体験版の形でした。その時から人物に魅力がありテンション上がる展開のシナリオだなと思っておりましたので、この度作品として形になり嬉しく思っております。

 主人公である藤咲創一は一見どこにでもいる普通の高校生です。ですが彼には人には言えない秘密を持っておりました。それは彼のすぐ後ろにいる「ドリィ」の存在です。ドリィは他の人に見る事が出来ません。そしてドリィは自分で物に触れたりする事も出来ません。彼女が出来るのは、創一を通して人の記憶の中を覗き見る事。果たしてドリィは何者なのか、それが明らかになるのは今後のシナリオ次第のようです。そんな創一が通う翠城高校にはユニークな登場人物ばかり。探偵部(同好会)の部長でありミステリアスな魅力を持つ高城夢乃、まだまだ半人前な同級生の駒野、コーヒーが大好きな後輩の白木、創一は探偵部ではありませんがちょくちょく顔を出し何かと絡んでおります。他にもユルフワで可愛い生徒会長の鴇崎和、キレッキレで容赦のない副会長の佐倉、女たらしだけどヘタレな同級生の相坂などに囲まれ、慎ましくも楽しい学校生活を送っております。そんな中、校内で悪質な悪戯が起きてしまいます。そしてそこには「会長は辞任しろ」というメッセージ。果たして犯人は誰なのか、創一と探偵部と生徒会による調査が幕を開けるのです。

 この作品のジャンルは「幻代ミステリADV」となっております。幻代とは、恐らく幻想と現代を組み合わせた造語だと思っております。その名の通り、基本は学園を舞台として事件の犯人を追うミステリな展開です。ですが、その中でドリィという存在を持つ創一が何らかの干渉を加える事で解決へと繋がっていきます。この現実とファンタジーの絶妙な組み合わせが物語を進め事件を解決へと導いていくのです。基本的には翠城高校のメンバーに味がありまた能力も高いのである程度事件の解決には進みます。ですが、あと一押しという時に創一とドリィが登場するのです。この演出といいますか構成がお気に入りですね。人物の魅力を十分に活かしたシナリオだと思いました。

 一番の魅力はやはり登場人物のパーソナリティです。ドリィはとにかく明るくてポジティブな性格です。悩んだ創一に対してケセラセラと接して場を明るくしてくれます。その上で大事な場面では芯の強いところを見せてくれます。私の中では正ヒロインの位置付けですね。後は探偵部の部長である高城夢乃もお気に入りです。普段何を考えているか分からない様子ですが、恐らく全てお見通しなのだと思います。それでいて主人公である創一を頼りにしており、その容姿の可愛さもあり間違いなく物語のキーパーソンです。他にも男キャラクターは性格は様々ですが裏表がなく、誰もかも憎めない奴ばかりです。アホだったり有能だったり、行動力が無いと思えば土壇場で頑張ったりと、高校生らしい振る舞いが魅力的です。

 その他の点としては記憶の中に潜り込むときの演出やBGMの使い方が印象的でした。上でも書きましたが、この作品は基本学園ものですがその中にファンタジーが滑り込んできます。その切り替え点がまさにこの記憶の中への潜り込みであり、それを効果音と印象的な背景で演出しております。プレイする側も、この瞬間は思わず姿勢を正してしまいますね。ここからどんな真実が暴かれるのか楽しみでした。そしてBGMは日常の場面、コミカルな場面、記憶を覗く場面、鬼気迫る場面で大きく使い分けており、雰囲気に合ったものばかりでした。あまり耳にしない曲が多かったのでオリジナル作品でしょうか。もしそうであるのなら是非サウンドトラックの発売が求められますね。それ程お気に入りの楽曲ばかりでした。

 プレイ時間は私で2時間35分でした。選択肢はなく、一本道でエンディングまでたどり着く事が出来ます。「vol.1」では主に2つのエピソードについて描かれております。それぞれ1時間程度ですので、調度この間で休憩を挟むのが良いと思いました。また、この作品はまだ「vol.1」ですのでまだまだ物語は続いていきます。ドリィの秘密、記憶の秘密、そしてそれぞれのエピソードで感じた疑問点はまだ解決されません。是非その後に続くであろう「vol.2」以降で明らかにされて欲しいですね。とにかくキャラクターに魅力があり日常とファンタジーの使い方が絶妙でした。是非この雰囲気のまま最後まで進んで欲しいと思いました。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<知ってしまったら放っておけない。それは知ってしまった者の責務だと思います。>

 ネタばれ無しでも書きましたが、本当に登場人物全員に魅力があって見ていて楽しい気持ちになる事が出来ました。また、事件を起こした犯人側の人物も単純に悪役というわけではなく、それぞれに信念と想いがあって一方的に攻められないなと思いました。そんな人間の心の奥底に潜って記憶を巡る創一とドリィの物語は、まだまだ始まったばかりです。

 記憶を巡る、きっと多くの人が欲しいと思っている能力ではないでしょうか。コミュニケーションには得てして本音と建前が混在していて、それをどのように使い分けるかで良い人間関係が作れるかが決まってしまいます。本音と建前を使い分けるなんて正直とても面倒くさい事ですけど、逆にそれこそが人間らしさと言えるのかも知れません。ですが、そもそも相手が何を考えているのかが分かればそんな事で一々悩む必要なんて無いのです。相手の言葉の中から本音と建前を見分け、それに応じた返信を返す。そんなハイリスクで高度なことから解放されるのです。

 ですが現実としてそんな事は不可能です。相手も、自分の気持ちを曝け出したくないから曝け出さないのです。だからこそ、人は相手とコミュニケーションをとり続け、同じ時間を共有し、何度も話をして相手を理解しようとするのです。その中で、きっと衝突もあると思います。時には自分自身の本音も曝け出さなければいけない場面もあると思います。そうやってお互いに自分の気持ちを言い合えるようになった時、本当の意味での本音と建前は完成するのだと思います。そんな以心伝心の関係に簡単になれたら、もっと今の世の中は生き易くなるのでしょうね。

 井は忖度というものを嫌っておりました。自分らしさを押し殺して他者と合わせる事に何の意味があるのかと疑問に思っておりました。そして、そんな井の気持ちに助けられた人は確かに存在しました。山田敦は同級生よりも体が大きい問い理由だけで虐められました。ですけど、そんな事で差別される言われはありません。それを井から教えてもらいました。鈴木鈴も全く理に適ってない理由で虐められました。ですが見た目を可愛くしただけでそれがパッタリと止みました。それらは全て山田と鈴木が心から望んだころ。それを実現しただけでした。では井はどうだったのでしょうか。アイドルのように崇拝される鴇崎和、彼女に持っている気持ちは妬みだけだったのでしょうか。実際は井の体の半分を操っている何者かの仕業もあるのでしょうか、少なくとも井の本心とリンクしなければこうはならなかったと思っております。自分が自分らしく生きる、その実現の為の井の人生はまだ始まったばかりです。結果として退学になってしまいましたが、このまま終わるのではなくまたゼロからスタートして頑張って欲しいと思いました。

 空は可愛いものが好きなだけの普通の男の子でした。ですが、可愛いものが好きな男なんておかしい。そんな根拠も理由もない言葉に振り回される事になります。「可愛いものが好きなのは病気だ」なんて、とんでもないレッテルです。だとしたら、世の中の男性は可愛い女性を好きになれませんね!そもそも、世の中には男と女という2つの性しかない訳ではありません。男でも男が好きだったり、逆に女でも女が好きだったり、両性が好きだったりそうではなかったり、男らしさと女らしさが共存していたりと様々な性の形があります。自分は可愛いものが好き、でも女の子になりたいわけではない。それは空という1人の人間の個性であり、1人の人間の性なのだと思いました。今、空は自分の事を見てくれる存在に囲まれております。きっとこれからも空は空らしく生きていけるのだと信じて止みません。

 今回は2人の人物に焦点を置いたエピソードでした。2人とも簡単に他人には言えない想いを抱えておりました。そして、そんな簡単に言えない想いを、創一は簡単に知る事が出来ます。これから、きっと創一は悩む事になると思います。見たところ、創一は決してコミュニケーションが得意という訳ではないようです。どこか一線を引いた感じで探偵部や生徒会のメンバーと絡んでおりました。ですが、創一は知ってしまったんです。人間が持つ、人には言えない心の深さを。知ってしまったら放っておけないんですね。そして、知ってしまったからにはその責任を取らなければいけないと思いました。これはこの「Eidola#Holic -夢幻影共依存症-」という作品のテーマにもなっていると思っております。創一の正義感が果たしてどこまで他人の心に食い込み、そしてどのような化学反応をもたらすのか。是非見届けたいと思います。ありがとうございました。


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