M.M どしゃこい 土砂災害でも恋がしたい!




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 5 - 71 2〜3 2023/8/15
作品ページ サークルページ



<土砂災害×恋愛×ビジュアルノベルというコンセプトが光る、現代だからこそ必要な作品です。>

 この「どしゃこい 土砂災害でも恋がしたい!」という作品は、久留米工業大学の情報ネットワーク工学科で活動しているクリエイティブ集団である「Picture」で制作されたビジュアルノベルです。C102に参加したときにお見かけしました。手に取った切っ掛けですが、単純にタイトルに惹かれた事です。土砂災害×恋愛×ビジュアルノベルですからね、こんな尖った作品そうそうあるものではありません。またPictureさんはC102の一日目に参加されていたのですが、一日目は女性向け且つビジュアルノベルのサークルさんがあまり多くありません。逆に言えば全てのサークルさんを丁寧に見る事が出来、結果として巡り合う事が出来たと思っております。そんな偶然の出会いに感謝して、土砂災害について学ぼうと思いプレイし始めました。

 この作品のジャンルは「恋愛シミュレーション防災教育ゲーム」となっております。その名の通り、土砂災害についての防災について学ぶことが出来るのです。主人公は、なんと人間ではなく土砂災害そのものです。不思議な力で人間になる事が出来ましたが、土砂災害そのものですので過去に自分が引き起こした土砂災害を記憶しております。そして、実は本意で起こした土砂災害では無く心の中で人間に対して申し訳ないと思っておりました。今回何故人間になったのかは分かりませんが、せっかく人間になったという事で近くの学園に編入し土砂災害の防災について正しい知識を伝えようと一念発起します。果たして、主人公はこれから起こるであろう土砂災害から学園の皆を守る事が出来るのでしょうか。そして物語の結末はどのようになるのでしょうか。

 ここ最近、地球温暖化の為か各種自然災害の激甚化か気になっております。夏になれば必ずどこかの地域で線状降水帯が発生し、甚大な土砂災害が発生します。また台風の規模や個数も少しずつ大きく多くなっている印象で、一度台風が通過すれば多くの人々の生活を脅かします。この流れを止めるには国際的に全ての人類が手を取り合い対策を行う必要があるわけですが、これを実現するのは難しそうです。そうであるのなら、私達一人ひとりが土砂災害に対する知識を身に着けるしかありません。皆さんは、自分が住んでいる地域のはハザードマップを持っているorすぐ見れる状態になっているでしょうか?土砂災害警戒情報の意味を理解しているでしょうか?災害時に持ち出せる非常アイテムは準備しておりますでしょうか?災害はいつどこで発生するか分かりません。たとえは山から離れた平地でも、大雨によって道路が冠水する事は日常茶飯事ですからね。そんな現代だからこそ、このようなビジュアルノベルが求められるのだろうと思っております。とても素敵な取り組みだと思いました。

 この作品では、主人公である土砂災害がとある学園に編入しそこの生徒たちと会話する事で関係を深め土砂災害に対する知識を深めていきます。土砂災害の知識は、主人公が生徒に質問しその解答を選択肢から選ぶといった形になります。クイズ形式ですね。そして、回答後に解答と解説が行われます。そして、正しい選択をすることでその時会話していた生徒の知識度が上昇していきます。この作品の目的の一つに生徒に正しい防災知識を身に着けてもらう事があります。その知識度が視覚化されますので、誰がどの程度知識を持っているかが分かります。そして最終的に土砂災害が起きてしまうのですが、持っている知識度の高さによってエンディングが変わってきます。選択によっては厳しい結末になるかも知れませんが、それもまた現実です。何度もやり直せますので、是非皆さん知識を高めて良いエンディングを目指してください。

 その他の点について、システム周りですがUnityを使用しているという事で正直ノベルゲームとしては読み辛いです。強制的にフルスクリーンになりますので他のウィンドウが見れませんし、スキップ機能もありません。またセーブも1つしか保存できず、ロードするには一度ゲームを閉じて再び起動しタイトル画面に戻らないと出来ませんので何週もするのには不向きです。この辺りは汎用的なノベルゲームエンジンを使用して欲しかったなと思っております。また背景やBGMは一部を除きフリー素材を用いております。立ち絵の数は比較的多く、個性豊かな登場人物の表情を楽しむ事が出来ます。操作性ですが、スペースキーで文章を読み進め右クリックで選択肢を選びます。上記にもありますが、スキップ機能がありませんので一度読んだシーンを飛ばすにはスペースキーを連打する必要があります。この辺りは今後の改善に期待したいです。

 プレイ時間は私で2時間45分でした。上記にもありますが、この作品は土砂災害に対する知識をクイズ形式で学びながら恋愛も行いますので選択肢の数は非常に多いです。1日に2回マップ移動があり、その先に待っている登場人物に対してクイズを行います。始めは手探りで選択肢を選んでいく事になると思いますが、2周3周とする事で何となく傾向が分かってくると思います(これについてはネタバレ有りの始めで触れております。)。土砂災害に対するクイズは比較的多くありますが、これも覚えてしまえば怖いものではありません。むしろ、それが目的ですからね。簡単にセーブロードが出来ない仕様だからこそ、一つ一つの選択を丁寧に行っていきましょう。そして、知識も恋愛も勝ち取ってしまいましょう。コンセプトが明確で為になる作品でした。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<このゲームの知識で終わることなく、これからも自分から情報を取りに行く事が大切だと思いました。>

 最後までプレイして、メタ要素もあり過去の土砂災害からの因縁もあり主人公の想いの強さもあり深い内容でした。土砂災害は必ず起こるしそれを止める事は出来ない、その覚悟があるか無いかが大切なのかなと思いました。

 始めに攻略についてです。今回全ての登場人物のエンディングを見ましたが、おおよそ以下の通りだと思っております。

・土砂災害に関する選択肢は全て正解する必要あり。
・知識度は最低75(5回正解)する必要あり(一部検証あり)。

初回プレイでは適当に登場人物を分散させて知識度を平均的に上げましたが、BADENDにしか行きませんでした。その為2周目以降は特定の登場人物に知識度を集中し、結果として全員が生き残り個別ルートに進む事が出来ました。これについては、知識度が分散しても土砂災害に関する選択肢に全て正解すればせめて生存だけはしても良かったのではないかと思いましたね。登場人物達全員が顔なじみという訳でもないでしょうし。その後3周目で知識度を90に、4周目で知識度を75に下げていき、知識度が60以下ではBADENDに行くみたいですので知識度75がボーダーラインなのかなと思いました。一部の登場人物のみ知識度75でも駄目でしたので、つまるところ始めから全力で一人の登場人物に注力するのが良いと思います。

 そしてシナリオについて、自分自身が土砂災害そのものである主人公は常に罪悪感を持っておりました。たとえ自分の意思ではないとは言え、自分が存在する事で土砂災害が起こるのは事実な訳です。そんな罪の意識の為からか、土砂災害に対する知識を広める事には積極的でも恋愛に関しては消極的でした。むしろ、自分ごときが恋愛などしてはいけないという思い込みもあったのでしょうね。それでも、周囲の人たちは主人公の行動に感謝し一人の人間として認めてくれました。彼らであれば、誰であっても自分が土砂災害そのものだと告白したところで距離を置くという事はないでしょうね。土砂災害は必ず起きる物、それは変える事が出来ない不変の真理と割り切り自分は自分らしく生きる事が大事なのかも知れません。

 それでも、土砂災害は確かな傷を永遠に心に残すこともまた事実です。これについては木許世紬シナリオで詳しく書かれておりました。木許は父・母・妹の優雨を10年前の土砂災害で亡くしております。いくら土砂災害が避けようのない出来事だったとはいえ、知識があれば死なずに済んだかもしれないのです。ですがいくら後悔しても亡くなった人は帰ってくることはありません。その事実に、この世の全てを恨みたくなる気持ちは理解できます。そこをメゥに突かれた訳です。メゥは、人間よりも上位の存在なんでしょうね。あの人間を人間と思っていない態度は、もはやそういう次元の違う存在としての変えようのない考え方なんだろうと思います。正直嫌な性格ですが、それを人間が思っても仕方がない事。彼にもまた、人間の数を調整するという役割があるのですから。そんな役割に反してでも、今後土砂災害で新たな犠牲者が出て欲しくない。その思いを確かにした木許と主人公は、きっとこれからも土砂災害に対する知識を啓蒙し続けていくのだと思います。

 総じて、土砂災害に対する確かな知識を習得できる内容でした。自分が日頃どれだけ土砂災害に対して知識を持っているかを確かめる良い機会となりました。災害は激甚化しておりますし、防災に対する指針も定期的に更新していきます。このゲームの知識で終わることなく、これからも自分から情報を取りに行く事が大切だと思いました。欲を言えば、個別ルートのその先をもっと見たいと思いました。恋愛シミュレーション要素もありますので、是非こちらも深堀してもっと登場人物のキャラクターを見たいと思いました。それだけ魅力的な登場人物だったと思いますし、これからも幸せに暮らして欲しいと思いました。全ての人が土砂災害で亡くなる事が無い事を祈念してレビューの〆としたいと思います。ありがとうございました。


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