M.M 静寂に電気鋸


<特殊能力とそれによって引き起こされる事件の関係性を読み解きながらプレイして欲しいですね>

 この「静寂に電気鋸(チェーンソー)」という作品は同人サークル「チェーン荘」で制作されたビジュアルノベルです。「チェーン荘」さんに初めて出会ったのはC83で同人ゲームの島サークルを回っているときでして、その時の新作である「オフライン少女」が初めてプレイしたビジュアルノベルでした。その後COMITIA104でお会いする機会があり、その時に入手できたのがこの「静寂に電気鋸」です。「チェーン荘」さん初のビジュアルノベルという事で是非プレイしてみようと思い今回のレビューとなった訳ですが、登場人物たちの特殊能力とそれによって引き起こされる事件との関係性を読み解く事が醍醐味の伝奇物でした。

 OHPを見ると分かりますが、この作品に登場する人物は全員特殊能力を持っております。そしてその特殊能力を使うには必ず代償が伴いますので、安易に特殊能力を使わない事が全員の総意となっております。ですがそのような設定である以上特殊能力を使わないで物語が進行するはずがありません。あらすじでは幼い時に使用してしまった特殊能力が引き金となりその後の運命を狂わせていくとありますので、プレイヤーの方には是非特殊能力によってどのような代償が生じるか、そして特殊能力を使用する事で周りにどのような影響があるかを意識しながら読み進めて頂きたいですね。

 何よりも「静寂に電気鋸」というタイトルがすごいですね。パッケージにもメインヒロインがチェーンソーを持って振りかざそうとしている描写がありますからね。ですが、このヒロインがチェーンソーを持っている事はそれなりの理由があります。そしてその理由にもこの物語のキーワードになっている特殊能力が関わっている訳です。しかしOHPでもパッケージのあらすじでもこのチェーンソーの部分には全く触れておりません。どのタイミングでこのチェーンソーがシナリオに関わってくるのかを考えながらプレイするのも面白いかも知れません。そしてこの作品は「R-15」指定でグロテスクな表現が登場するとあります。もうこれだけでチェーンソーが使われる事の伏線に思えますね。

 ちなみにプレイ時間的には決して長くはありません。全てのCGを見るまでに掛かった時間は私で約2時間30分でした。そういう意味で結構サクサクと物語は展開されていきますので、気になる言葉や伏線があればじっくりと考えながら読んでいった方が良いと思います。後はこの物語に登場する人物はみな高校生ですので、そんな思春期の少年少女の掛け合いも楽しんで頂ければ良いのかなと思います。ちょっとした伝奇物を読みたいという方におススメですね。そんな作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<もっとこの世界観の日常を楽しみたかったですね>

 後半のバトルモードに入ってからは一気に終わった印象ですね。ひみこがこちらにやってきてしばらくは他愛のない日常が展開されるのかなと思いましたが、それも早々に終わりオロチがやってきてからはもうグロのオンパレードでした。日常と非日常のギャップの大きさは結構だと思いましたが、バランス的にはもっと日常部分を楽しみたかったというのが本音でした。

 正直なところもう1つの世界だとか世界の創造と死だとかそこまでダイナミックなスケールのシナリオになるとは思ってもみませんでした。あくまで平凡に営んできた日常がひみこの登場によって多少崩れてその解決の為に特殊能力が関わってくると言うシナリオだと思ってました。最終的にこの物語の鍵を握っていたのは雨宮結の気持ち1つであり、そうなってくると他の登場人物の特殊能力はつまりところ大きな意味が無い様に思えましたね。

 プロローグで登場した架け橋の意味を持つ望遠鏡やひみこといずもが同じ特殊能力を使えるという事、そしていずもがふとした切っ掛けで特殊能力を使っても記憶の消失が無くなったことなど重要な伏線が数多く登場しました。ですがエピローグを迎えて改めて振り返りますと、大きな枠組みとしてこの世界が雨宮結が復元したものであり雨宮結の復元によって失われる世界がある為それを阻止する組織がある事でした。そしてその為の伏線として用意されたのが上記の事項であり、シナリオ全体の流れ的にはあまり大きな影響を与えるものではありませんでした。そういう意味ではちょっとスケール感の大きさに対して伏線のバランスが良くなかったのかなと思いました。期待に対する結果のズレと言えるかも知れません。

 そしてこの作品にとって後半のグロもある意味魅力ではあると思いましたが、それならばもっと前半の日常部分を長く書いて欲しかったなと思いました。日常部分を長く書いてひみことその他の登場人物とも交流を深く書く事でもっと後半のグロによる絶望を引き立てられるのかなと思いました。何よりもひみこといずもの特殊能力と代償のシンクロを伏線として表現するには尺が短いと思いました。最後に説明的に答えを教えてくれてスッキリはしましたが、もう少しヒントを貰えて自力で気づけたらもっとスッキリできたのかなと思いました。それでも特殊能力に対して代償があり、それがもう1つの世界と深い関わりがある設定は非常に魅力的でしたので、この設定でまた新しい物語が読みたいとも思いましたね。そんな作品でした。


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